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第58話、盗賊団のアジトから人が帰ってこない理由


 ヴォワの町の冒険者ギルドで緊急クエストを受けた俺は、ヴァンヘレー山の盗賊団のアジトの様子を見に行くことになった。


「……町で待っていてもよかったんだぞ?」

「いいえ。見ず知らずの場所に置いてけぼりは、怖いですから」


 アクアは、俺の後を続きながら言った。

 クエストを依頼されたのは俺であるわけで、彼女が付き合う理由はない。町で待っていても全然問題なかったのに、置いていかれるのは嫌だという。わからなくはないが……。


「一人旅をしてきたんじゃなかったのかい?」

「だから一人が寂しいのを知っているんじゃないですか」


 アクアはしてやったりな顔をした。


「平気だったら、ウィロビーさんについてきて何て言いませんよう」

「なるほど」


 それもそうかも。ただ今は人化しているけど、マーメイドって山歩きとか大丈夫そう?……なんて聞いたら種族差別になるのかな。心配しているだけなんだけど。


「一応様子見だけど、危ないと思ったら一人でも逃げてくれよ?」


 巻き添えは寝覚めが悪いからな。俺は当人の自主性を重視しているから、彼女の同行を拒絶はしなかったけど。


「それにしても、盗賊団のアジトで何があったんでしょうね……」


 アクアは疑問を口にした。それを調べにいくんだ、と言ったらそれは知っていると返されるだろうから、彼女の言っているのはそういうことではない。


「一番あるのは、実は盗賊団の半分が残っていて、領主の部隊が帰ったところを襲ってアジトを取り戻した、かな」

「だとしたら、わざわざ奪い返した理由は何でしょう?」

「蓄えた財宝とか、領主の軍や冒険者に持ち去られる前に持ち出そうとしたとか」

「説得力があります」

「ありがとう」


 自分が盗賊の立場だったら、わざわざ仕掛ける理由はなにかと考えただけなんだけどな。


「では、原因が盗賊でなかった場合は、どうです?」

「そうだなぁ……」


 盗賊でなかったら。俺はむき出しの岩肌が目立つ斜面を見上げ、そして道を決めて進む。


「この山に危険な獣、モンスターがいて、そいつがアジトを襲ったとか……」


 いるのかな、この山に。冒険者や兵隊の集団を襲うような化け物が。


「あのグリフォンみたいな……?」


 アクアが可能性の一つを指摘した。


「確かに。あの暴れん坊グリフォンなら、アジトにいる冒険者も構わず襲うかも。……説得力があるな」


 そう褒めたら、アクアははにかんだ。


「他は……あまり考えたくないが、同行した上級冒険者パーティーか、それか残った兵のどちらかが裏切って、もう片方を始末してしまったパターン」


 俺の言葉にアクアが息を呑む。ちょっと信じられないという顔をする。


「どうしてそんな……」

「お宝に目がくらんだ、とか?」


 盗賊団のアジトで財宝の山を見て、これを手に入れたら遊んで暮らせるー、とか思ったかもしれない。


「盗賊って儲かるんですか?」

「なんてことを聞くの、アクア」


 真っ直ぐ過ぎる問いに俺も、ちょっと面食らった。


「どうかな……。普通は金がないから盗賊をやるものだからな」


 生きるために人様から奪うのが仕事だ。満たされていれば、捕まれば死刑もある盗賊なんてやるのも馬鹿な話ではある。武器を手に襲うといっても、武装した護衛や冒険者と戦って命を落とすリスクを考えれば、あまりいい選択肢ではない。


 ただ、盗賊団のリーダーの考え方次第なところもある。奪ったものをすぐに散財するように消費することもあれば、一定のお宝を貯め込んでいることもある。

 これがまた裏で有力者や国がバックについていたりすると、お宝を蓄える傾向があるのかな……。うーん、この手の話はいくらでも複雑になるからな。必要もないのに深く考えるのもよくないな。


「アクア、油断するな。先に様子を見に行ったパーティーも帰ってきていない。敵がいるという前提で動け」

「はい!」


 教わったアジトの場所が近くなってきた。ごつごつした岩ばかりの地形を進むことしばし、登りだったのが下りになり窪地が見えてくる。


「あれが、盗賊団のアジトだ」


 窪地に下りると、岩をくり抜いた地中式のアジト、居住空間があるという。


「人の気配は感じられないですね……」

「特に見張られているわけでも……いや、ここは盗賊団のアジトだ。うまく地形に隠れて見えないようカモフラージュしている見張り所などがあるかもしれない」


 用心に用心を重ねてアジトに近づき、そして見下ろす。飛び散った血の跡がどす黒く岩肌についている。時間が経っているのは一目瞭然だが……。


「うっ……これは」


 冒険者らしき死体が腐臭を漂わせていた。鎧が裂かれて肉が――うげ。


「これは、モンスターの仕業だな」


 人間の仕業ではない。食い荒らした死体……。尊厳なんてないなこれは。

 血痕は至る所にあるのに、死体のほうはその割に少ない。崩れた壁面。そして見覚えのある足跡。


「これ……」

「グリフォンっぽいな。ここを襲ったのは」


 壊れた鉄の柵を見やり、相手のパワーないし巨体を想像させる。あの暴れん坊グリフォン、ここを襲ったのか?


「いや、それだと辻褄が合わないか」


 俺たちが倒したあの暴れん坊は何日も前だ。位置とこれまで襲撃された集落のことを考えると、いくら空が飛べるといっても無理がある。


「……なあ、アクア。俺たちが倒したグリフォン。雄と雌、どっちだったと思う?」

「……」


 何を言っているの、という顔をするアクア。俺が言いたいことを察したようだった。


(つが)いがいる、というんですか?」

「グリフォンは一頭だけではなかった。……そう考えれば、ここの惨状も辻褄が合うと思う」


 ごくり、とアクアはツバを飲み込んだ。俺は首を横に振る。


「とりあえず、中も調べるか」


 もしかしたら、グリフォンが手出しできず、上手く逃げ延びた者がいるかもしれない。

 生存者がいたなら、ここで何が起きたかはっきりする。

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