第57話、ヴォワの町に到着
例のグリフォンは相当な暴れ者だったようだ。
「片っ端から集落を襲う、ね……」
「……」
アクアも無言になってしまう。港湾都市カミバルを目指す道中に見かける村など、何かしら破壊の痕がある。
建物の天井だったり、村を囲む外壁だったり、大きな重量物に押し潰されたり、引き裂かれたり。
あのグリフォンと遭遇した後だけに、あの巨体でどうのし掛かったり攻撃したかなど脳裏でイメージするのも難しくなかった。
現地の村人からグリフォンのもたらした被害などを小耳に挟みつつ、俺たちは先を目指した。……俺たちが仕留めたヤツなら、もう二度と現れない。
そして辿り着いたヴォワの町。ここまで来ると、カミバルもあと少しというところ。
「カミバル行きの馬車がないか、聞いてくるか」
俺たちはヴォワの町の冒険者ギルドへ足を運ぶ。いつものようにホールに入って左手……と少し奥まったところにあるんだな。クエストボードを眺めて依頼を確認。
「あ、ウィロビーさん、あれ」
冒険者への連絡板に、グリフォン討伐依頼遂行中のお知らせがあった。冒険者パーティー『アグレッシオ』が受けていたやつだ。受注被りがないように、もう受けているクエストですよ、と張り出されていた。
「それだけあのグリフォンは有名だったんだな」
こういうクエスト受注中というのが、わざわざ張り出されている時点で。
わざわざ他の冒険者にもわかるようになっているのは、『あのグリフォンの件どうなった?』とか『討伐依頼は出ていないのか?』と問い合わせが寄せられるからだろう。
ああやって貼ってあれば『ああ、アグレッシオがやっているんだ』って、冒険者もギルド職員に聞かずに済む。職員側も余計な質問から解放される。作業の効率化。
「これ、ギルドに教えた方がいいんじゃないですか?」
アクアが小声で言った。
「もうウィロビーさんが倒したって」
「うーん、俺はこの依頼のこと知ってて倒したわけじゃないからな」
討伐依頼を受けたのはアグレッシオだ。横入りして、報酬がどうのって面倒になりたくないしな。
「実際、グリフォンは倒したけど、このクエストとは別モノの可能性もあるし……。アグレッシオが例のやつの死体を見つけて、討伐確実かどうか報告するのを待つのが得策じゃないかな」
そもそも、俺ら討伐の証拠となる戦利品を持ってこなかったからね。はははー。
適当なカミバル行きの護衛依頼がなかったので、俺はギルドカウンターに行き、冒険者ギルドで近々連絡馬車が出る予定などないか確認した。……スッとゴールドランクであると冒険者証を出す。
低ランクが何を生意気なことを聞いてくるんだ、と思われたくないからな。
「あ、ゴールドランクの……。ちょっとよろしいですか?」
「はい」
……返事はしたが、嫌な予感がしてきた。受付嬢が奥へ消えていく。
「どうしたんですか?」
後ろで様子を見ていたアクアが近づいてきた。さあ、と俺は肩をすくめる。
「ハズレを引いたかもしれない」
「どういうことです?」
「ランクの高い冒険者がやってくるのを待っていた感じ」
緊急性の高い事態が発生していて、適正ランクの冒険者を探しているというか。クエストボードに張り出すようなクエストとはまた違った何か面倒な事態。
「すみません、ウィロビーさん。奥へよろしいですか?」
「嫌でーす……と言えれば楽なんだけどね。はいはーい」
高ランク冒険者は選り好みもできるといえばできるけど、あまりわがまま過ぎると敬遠される。内容を聞かずにノーを言えるほど薄情でもないんだ。
「面倒過ぎる話だったら、君の依頼を優先して断る方向に持っていくかもしれないから、よろしく」
俺はアクアにそう言った。彼女の故郷まで送り届ける依頼は、ギルドを通した正規の依頼ではなく口約束だからね。緊急性のレベルにもよるが、どちらを優先するかは内容次第である。
・ ・ ・
ギルドの奥のギルドマスターの執務室に通された。
「ギルマスのブルガンだ。ウィロビー、君に頼みたいことがある」
ヴォワの町のギルマスは挨拶もそこそこに切り出した。
「この町の近くにヴァンヘレーの山があるんだが、そこに盗賊団のアジトがあった」
「盗賊団退治ですか?」
俺単独なら最後まで話を聞いたけど、アクアを連れている今はちょっと遠慮したいねえそれは。
「いや、盗賊団は討伐された。そのはずなんだが……」
ブルガンの話はこうだ。
最近になって、近辺を荒らしていた盗賊団のアジトの場所が判明。領主の討伐隊と上級冒険者パーティーが向かって、盗賊団をやっつけたらしい。
そこまではよかったのだが、その後、討伐隊主力が引き揚げた後、残留した兵と冒険者パーティーが行方不明になったという。
「どういうことです?」
「わからん」
ブルガンは腕を組んだ。
「本来戻ってくるはずの日にちを過ぎても音沙汰なしだ。で、様子見にギルド職員、さらに別の冒険者パーティーを送ったのだが……これも帰ったこなかった」
現場に調べに行った者たちが戻ってこないのでは、確かに状況が掴めないよな。……そうなると。
「そこで、ウィロビー。ゴールドランクのあんたの腕を見込んで、状況確認をお願いしたい」
ですよねー。
「二次遭難、と言っていいかわからんが、すでに不明者が出たからな。半端な者を送ってまた帰ってこないでは困る。とにかく何が起きたのか知りたい」
そこで何が起きていようとも、情報を持ち帰ることを最優先してほしいとブルガンは告げた。盗賊団がアジトを奪回していようが、あるいは冒険者パーティーが捕まっていようが、手は出さなくていいから情報をくれ、ということだった。
偵察クエストか。まあ、それなら手に余るような状況なら引き返せばいいわけで、さほどの無理をしなくても済む……といいんだけどな。何が起きているかわからないというのが何とも厄介な話だ。
アクアへと視線をやれば、彼女は頷いた。放置するべき話でもない、ということだろうね。俺も同感だ。
「了解。偵察任務、やりますよ」
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