第5話、ダンジョンから帰ったら
二階層まで戻ったら、後は普通だった。いい加減眠気がひどかったが、ダンジョンの入り口に着いた時は、これで居眠りできるとホッとした。……いやまあ、普通に宿のベッド上で寝たいんだけどね。
うん? 何だか外が騒がしいような……?
「おお、まだ中から出てきたぞ!」
「人がいた!」
冒険者たちが、大勢、ダンジョンの入り口の前にいた。まるで戦争にでも行くかのような出で立ちだ。……何かあったの?
「大丈夫だったのか!? まさか一晩、あの中にいたのか?」
「いったいどこにいたんだ? 中は異常だから退避しろって聞いてなかったのか?」
は? そうだったの? 聞いてないよぉ。
「いや、ダンジョンに入る時は、異常なんて一言も聞いてないけど……」
入り口前にいた冒険者たちも、ダンジョンが大変な状況だとか、そういう話もなかった。至って普通な状況だったと記憶しているけど――
「あっ、この人、ゴールドランクの人だ!」
そういうあなたは、入り口にいた冒険者君。ゴールドランクと聞いて、周りがざわついた。
「なるほど、ゴールドランクの方だったか……」
「しかし、知らない顔だ。余所からきたばかりか」
「あんた、名前は?」
「俺は、ウィロビー」
言われたから名乗る。一応、身分証明でもある冒険者票を見せる。年季が入って、ちょっとくすんでいるけど。
「確かに、ゴールドだ……」
「ウィロビーってあの?」
「そう、たぶんそのウィロビー」
営業スマイルで俺は答える。どのウィロビーかって、巷で噂とか記録に残っている方だと思う。知らんけど。
「それでウィロビー。あんた一晩、このダンジョンにいたと思うが――」
如何にもベテランという風格の中年冒険者が言った。がっちりしていて、獰猛な目つきは、高ランク冒険者という雰囲気だ。
「まさか、下層にいたのか?」
「ええ、まさかダンジョンが異常事態なんて、聞いてなかったもので」
すみませんねぇ……。知ってれば、もう少し自重できたかもしれないけど。
「巨大ワームが大量に発生していたと思うんだが……」
「ええ、階層ぶちぬいて、ワームどもがうようよしていました。ちょっと階層すっ飛ばすほどダンジョンが壊されていたんで、下りたはいいけど、すぐに戻れなくなっちゃったんですけどね」
苦笑いしか出ない。道が塞がれ、下への穴が空いたからラッキーって飛び込んだら、このざまですよ。
「よく生き残れたものだ……! さすがはゴールドランクというべきか」
中年冒険者が感心すれば、周りの冒険者たちも頷いた。
「だが戻ってこれたということは、道があったということだな?」
「ダンジョンの再生機能が働きだして、何とかできるレベルになったというか。もう少ししたら、普通にダンジョンの中で行き来できるようになりますよ」
俺は、セブンスエポンの鞭をロープ代わりにして階層の穴を登ってきたけど、再生が進めば、道具なしでも下へ行けるようになるだろう。
「待て、すると、巨大ワームはどうなった? あいつらがダンジョン内を食い荒らしていたんじゃなかったのか?」
「あー、一応、大方やっつけてしまったんで。当分の間は、大丈夫なんじゃないかな」
「はあ……?」
中年冒険者はポカンとしてしまう。他の冒険者たちも絶句したり、あるいは仲間と顔を見合わせ、ざわついた。
「巨大ワームは、一匹や二匹でないと聞いたんだが……?」
「ええ、六十くらいはいたかな。一体ずつ倒すのが、中々面倒でした」
あははー、ほんと、マジックポーションなくなっちったから、あとで調達しないとな。戦利品の魔石を売れば、まあ資金は充分だろう。
「いやいやいやいや――」
中年冒険者は手を振る。
「一匹倒すだけでも数人がかりの大仕事というレベルの巨大ワームだと聞いたが……。あんた一人で、六十も……?」
「さすがにそれは盛りすぎでしょ。は、ははは……」
周りの冒険者たちも若干引いてるような。いやいや、誤解しないでほしい。いくら俺でも、まとめては倒せないから、一晩かけてコツコツとやっていっただけだから。
「コツコツって……、いやそれが本当なら、あんたの忍耐力凄ぇな」
「他にやることなかっただけですよ。居眠りしたら、襲われるかもしれないから、迂闊に寝れなかったし」
ああ、とわかるようなわからないような反応を返された。あー、やばい欠伸が出た。
「帰ってきたと安心したら、眠くなっちまった」
「本当に眠そうだな。まだ色々聞きたいこともあるが、まあ、とりあえず休んでおいてくれ。ダンジョンの様子は、こちらで調べておくから」
「あぁ、よろしくー」
俺もそろそろ限界だ。中年冒険者は、偵察要員を指名し、ダンジョン内の捜索を始めた。俺は村の宿に行って、お休みだー。
「ウィロビー!」
「あ?」
「またな」
中年冒険者はそう言って、ダンジョンに入って行った。……ああ、またな。
・ ・ ・
ひと眠りして、報告ということで冒険者ギルドを尋ねたら、誰かが俺のことを話してくれたらしく、談話室に連行されて事情説明となった。ギルドマスターが出てきて、「さすがはゴールドランクの冒険者!」のお褒めの言葉を頂戴した。
「あなたがいてくれなかったら、ダンジョンの巨大ワーム問題でまだ頭を悩ませていたことでしょう。ギルドスタッフともども、今日は徹夜しなくて済みそうです。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ、ギルドにはいつもお世話になっていますから」
などと、この村のギルドに来たのは二度目で、特にお世話された記憶はないのだけど。まあ、どこに行こうがギルドは、流れの冒険者でも仕事を斡旋したり、戦利品の処分を代行してくれる存在だ。ギルドへの感謝の気持ちは本当だ。
ああ、そうだ、戦利品。魔石や鉱物などの換金をお願いするとして、ギルマスにはこれを――
「これは……?」
「よくわからないんですよ。魔石のようでもあり、何かのクリスタル、鉱物のようでもあるのですが。もしかしたら巨大ワームの大発生の原因かもしれない」
ワームは雑食で肉も食えば鉱物も食うが、たまに魔石とか取り込んだ際に異常行動を起こすこともあるという話を聞いたことがある。
「なるほど、わかりました。こちらについても専門家に鑑定を依頼しておきましょう」
「よろしくお願いします」
あ、まあ、別に俺が依頼したわけじゃないんだけど。まあ、いいかー。