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第46話、対決 重騎士


 黒い靄の中の重騎士が向かってきた。身長2メートル(メット)超えの巨人ながら、その動きは素早い。


「速いっ!」


 体ごと飛び込んでくる感じだ。重量はあるはずなのだが、それを感じさせない勢い。あるいは霊体だから軽いのか。


「ウィロビーさん!」


 アクアの警告の声。

 重騎士が剣を振るう。片刃のその剣――刀というものに見えた。これもまた長い剣だ。俺はとっさにブロードソードでガードする。金属同士の甲高い衝突音が響いた。重い一撃だ――!


 素早い上に、パワーもあるときたか!

 バシャバシャと移動のたびに足が水音を立てる。重騎士は長刀だけでなく、体にも実体があるようで踏み込むたびに水が跳ねた。

 風圧のこもった薙ぎ払い。これもガードするが衝撃で俺の体が後退する。上手くやらないと吹っ飛ばされる!


『カエ、セ――』


 また、こいつは!

 振り下ろされる長刀を躱し、俺は問いかける。


「何を返せって言うんだ!?」


 俺たちは、まだ何もとってないぜ?

 重騎士が長刀で突いてくる。鋭い切っ先で急所狙い。顔面狙うとは凶悪だ。

 避けながら左手を向けて、ファイアボール! 火球の魔法を重騎士の兜に隠された顔面にぶつけてやる。こっちの質問に答えないお前が悪いんだぜ!?


『グオオ、オオォ……!』


 一瞬怯んだようだが、ほとんど隙はなかった。あそこで火の玉喰らって隙もできないとか人間じゃないなこれは。

 まあ、どこの世界に黒い靄をまとっている人間がいるかって話でもあるんだが。だがそれでも意思疎通はできないものか。


「これで目が冷めたかい? 少しは話を聞く気になったか?」

『返、セ……我ノ、聖女ヲ、返セ――』


 重騎士は長刀を振り回す。聖女を返せの一点張りか。こっちの声に反応しているようだがそれだけ。何を言っているのか理解しているとは言い難い。

 つまり――


「話が通じない!」


 俺は、迫る長刀を横から渾身のブロードソードを叩きつけた。


「ウィロビーさん!」


 アクアの声に、俺は反射的に飛び退いた。彼女の放った水弾が重騎士に炸裂する。

 が、本来勢いのあるはずの水弾が、まるで威力のないただの水のように飛び散った。当たったのだが、ただ水をぶっかけられただけのような有様。当然、その程度で重騎士はまったく動じない。


 三又の槍を構えるアクア。重騎士の視線があったようだった。だがどうしたことか、重騎士は彼女など眼中にないとばかりに、俺の方へ向いた。……何だ今の?


 重騎士は俺の方へ向かってくる。こちらを狙ってくれるのは好都合だが、どうしてアクアを無視した? 違和感しかない。一丁前に性別で敵判定しているのか?

 などと考えを巡らせている余裕はなかった。相変わらず獣のような踏み込みで、巨体に似合わず距離を詰めてくる。


「お前、人間っぽくなくて気持ち悪いよ!」


 ぶつかる剣を長剣。俺も割とガタイがいいほうだが、それ以上の重騎士は力だけでなく技も中々に長けている。こいつが人間であったなら、さぞ名のある騎士だったのかもしれない。

 ……うん? 騎士?


 俺の中に、何かがよぎった。そういえば、つい最近、行方不明になった騎士がいたという話を聞いた。

 なんで今それを思い出したのかわからない。だがその騎士は確か、ウィロビーと言った。街道の守り人。俺の探している冒険者のウィロビーではないが、かつては街道の近くの屋敷に住み、その屋敷はウィロビー屋敷なんて言われて――


「何だって、それが頭ん中に浮かぶんだよ……!」


 振り下ろされた長刀に一撃を当てて逸らす。


「よう、あんた、もしかして街道の番人だったっていう騎士のウィロビー殿か?」

『――』


 一瞬、重騎士の動きが止まった。だがほんの一瞬で、再び長刀を構える。何か変化を期待したが、これ以上は問答するだけ無駄か?

 またも奇妙な加速で踏み込んでくる。だが突きの姿勢で動くならば刀の軌道は、先読みできる!


「三度目!」


 渾身のブロードソードで長刀側面に叩きつける。そして刀が砕けた。


『!?』


 武器破壊。俺はこれを狙っていたんだよっ、な!


 回転しながら斬撃! がら空きの胴を一刀両断――は鎧でできなかったので渾身の殴打! ぶっ飛べっ!


 重騎士の巨体が飛んだ。重いその体が跳ねて、落ちて、水しぶきが上がる。剣で切れなかったが、打撃武器としては相手にダメージを与えた――と信じたい。


 俺は構える。重騎士は腕をついて起き上がろうとした。体格差ってのは思いのほか大きい。ダメージの入り方も、その耐久にも。鍛えられた戦士であれば、なおのことだ。

 追い打ちを――!


 俺はブロードソードを手に重騎士に迫った。惨いがその首を落とさせてもらう!


『ガアアアァァァ!』


 四つん這いから、兜の面貌が割れ、獣の口が露わになった。ビッシリ生えた歯。人型をしていたから人間だと思ったのは早計だった。……こいつ化け物じゃないか!


 至近から獣の咆哮をぶつけられ、俺としたことが怯んでしまった。というより、頭の位置が変わったせいで、振り下ろしても当たらないとわかったから止まったというのが正確だ。


 重騎士の姿をした獣が、体当たりをぶちかましてきた。とっさにバックラーでガードするが、至近距離でのそれで止められるわけがなかった。

 さすがにこの体格差ではなーっ! 軽く吹っ飛んで地面に派手に背中を打ちつける。っー、水の上を滑った感覚があった。痛いけどすぐに起き上がって――


 俺と重騎士の間にアクアが入った。彼女の持った槍は重騎士の顔、その凶暴なまでに歯が覗く口の中を貫いた。

 うわっ……。痛そう……っ。これには俺も絶句。アクアは槍を引き抜き、怪物はダラダラと口から赤黒い血を垂れ流す。


「ウィロビーさん!」

「応よ!」


 俺は立ち上がり、体を痺れさせている重騎士の頭を剣で叩き落とす! 口から血というまともな状態じゃないところを衝いて悪いけど、お互い命がかかっているからな。許せよ!

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