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第44話、地下に入ったものの――


「ここから先が、例の聖女様がいた遺跡に通じている」


 俺は都市遺跡中央の穴を降りつつ、アクアに言った。


「……ちょっと前回と違うところもあるが」


 どこぞの冒険者の武器だろう。それが落ちていた。水が流れ込んできて武器を落としてしまったのか。それとも水没した死体はマーマンどもに……。

 陰鬱になりそうな気分を振り払うため、話題を変えよう。


「水の聖女に用があるって言っていたけど、聞いても問題ない?」


 最初はロマンだのそういう風だったけど、マーメイドであることを隠してやってきたことを見ても、ワケありだろう。

 アクアは無言になる。少し考えるように視線が動き、そして口を開いた。


「さすがに黙っていたら、疑われますよね……」

「気にはなるが、君には借りもあるからね。どうしても話せないなら、これ以上は聞かない」


 遺跡の中に入る……入る? あれ?


「どうしました?」


 声に出ていたらしく、アクアに突っ込まれた。いやー、うん。


「前に通った時と、まるで違うんだ」


 通路の先には、もう一つの地下都市が広がっていた。こちらは塔ではなく、石造りの四角い建物がひしめいている。斜面に立てられた建物が密集した町のような、雑多な印象を与える。


「すまん、アクア。俺、役に立てないわ」


 あまりに違い過ぎて水の聖女のいる場所への道がわからない。これは俺だけじゃなく、マップホルダーの面々がいたとしても同じだっただろう。


「どういうことです?」

「たぶん、俺がいない間にきた冒険者が、何かの仕掛けを発動させて、様変わりしちゃったんじゃないかな?」


 先の冒険者たちの大事故も、もしかしたらこれが影響しているのかもしれない。


「一から調べる必要があるな」


 水の聖女を連れ帰らないといけない依頼を受けた身として、このまま引くわけにもいかない。


「スムーズにいかなくてすまないな」

「いいえ。ダンジョンでは何でも起きますから、こういうこともありますよ」


 アクアは優しく微笑んだ。ほんと、この子優しいな。話が違うと責める人間もいるだろうに器が違うね。マーメイドというのはそうなのかな? ……いや、種族でどうこう言うのはよくないな。


「確かにダンジョンでは何が起きてもおかしくはないというけど……さすがにここまで変わるのはそうそうないよ」


 苦笑しかないが、時間は限られている。俺たちは先に進む。町に入るが、生き物の気配は感じられない。死の町、廃墟、かつての文明の名残り。


「ここは表とは違うんだよな……」

「?」

「住んでいた人、種族というのかな。塔が水の中の生き物にも対応していたのに、ここの建物は完全に地上の生き物向けだと思って」

「確かに」


 アクアは同意した。


「建物の中、調べますか?」

「いや窓とか入り口とか見える範囲だけ。俺たちが探している水の聖女は、この辺りの建物にはいないだろう」


 依頼がなければ、もう少し腰を据えて調べてもいいんだがね。今はあれもこれもとやっている余裕はない。


「とりあえず、町の奥にある大きな建物に行く」


 もしかしたら、前回の地下施設と繋がっていたりするかもしれない。いやもう確証はないんだけど、少なくともそこらの民家っぽい小さい建物とは繋がっていないだろう。他で見つからなければ、そういう小さいところも回らなければならなくなるけど。


「……ウィロビーさん!」

「地震だ」


 足元が揺れる。地下都市全体を揺さぶる震動が続く。けっこう長い。


「ウィ、ウィロビーさん――」

「大丈夫」


 俺が落ち着くように手を向けたら、アクアがその手を握ってきた。天井を見上げ、不安そうに震動に耐えている。……地震の経験がないのかな?

 一分くらい揺れていただろうか。嫌に長く感じられたが地震は収まった。動物がいれば騒ぎ立てていたはずだが、いっこうに姿を見かけないところからして、この都市に生き物はいないのかもしれない。


「何だったんだろうな……」

「ウィ、ウィロビーさん!」

「もう揺れは収まったよ、落ち着いて」

「い、いえ、そうじゃなくてですね!」


 アクアがある一点を指さした。


「わたしたちが入ってきた出入り口がなくなってます!」


 俺たちは入ってきたところが壁になっていた。アクアが声をあげる。


「と、閉じ込められたんですか!?」

「今の地震で崩落……って雰囲気ではないな」


 崩れれば、その音で振り返っていただろうし。揺れはしたが天井から落下してきたり、壁が崩れたりはしなかった。

 とりあえず引き返して、壁となった入り口まで戻ってみる。


「地震で崩れたんじゃないな」


 壁だ。まごうことなき人工の壁。それが入り口だった場所にあって、外への道をふさいでいる。


「ひょっとしてさっきの地震、仕掛けでこの壁が動いた時のものだったのかもしれない」


 信じがたいが、壁がスライドして通路が繋いでいる場所が切り替わったのかもしれない。


「前回と今回で、通路の先が変わっていたのはそれが原因じゃないかな。通路が動いて、前回は水の聖女がいた遺跡。今回はこの地下都市」

「遺跡が動いている?」

「凄い仕掛けだよな……」


 この都市遺跡――マナンティアル・ダンジョンを作った文明の恐るべき技術だ。現代の技術では及びもつかない。……何故、そんな仕掛けをわざわざ作ったのか、俺にはさっぱりわからないが。


「あの、ウィロビーさん。仕掛けは確かに凄いですけど、わたしたちもう戻れないんですか?」

「この壁がまた動かないと、ここからは戻れないだろうね」


 どうして動いて壁になったか、その仕組みがわかれば話は別なのだが、今はわからないことだらけだ。


「閉じ込められた……?」

「まあ、そうなんだけど、ただ諦めるのは早いよ」


 俺は町へと引き返す。


「どこかに抜け道があるかもしれない。それに、この都市遺跡、転移魔法陣があるみたいだから、ここにもあるかも」


 絶望するのは探索し尽くした後でいいんじゃないかな。転移魔法陣については、都市遺跡の塔の一つにあって例の場所まで飛んでいるから、他にも同種のものがあるという推測は的外れではあるまい。


「さあ、冒険はこれからだぞ」


 落ち込んでも何も解決しない。歩けるんだから、前へ進もうよ。

水曜、土曜の週2回更新です。

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