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第43話、マーメイド・チェイス


 マーメイドの水中速度は、俺の想像を絶していた。

 水の中を行く魚もこんな猛スピードを出すのか。まさに未知の体験だ。


 ……などと感心していられればよかったのだが、この時は正面から受ける水の抵抗が凄まじく、ほとんどアクアの手と背中ばかり見ていた。

 俺を引っ張ってなければ、もっと速いかもしれない。


 正直、目を開けているのもしんどかった。人間の形は、本当に水の中を泳ぐ形をしていない。魚が目が左右の面に分かれているのも、水中を移動するに適した形なんじゃなかろうか。


 俺は引かれるまま都市遺跡の水中をグングンと進む。ジグザグに動いているのは、マーマンを回避するためか。急激なターンをするたびに、俺の体は右へ左へ振り回された。


 塔が無数にある中、その間を通過しながら中央の穴へのルートを探る。真っ直ぐ行ければすぐなはずだが、アクアが遠回りばかりしているのはマーマンがいるせいである。

 急がば回れ、ではないが、アクアの遠回りルートのおかげか、至近まで踏み込めたマーマンはいない……。今のところは。


 振り回された調子に後ろを見れば、多数のマーマンが追尾してきて、一つの魚群のようであった。

 追いつかれたら命はない。連中が手にしているモリによって、蜂の巣にされるに違いない。


 何とか反撃できないものか。しかし俺に水の中で距離が離れた相手への攻撃手段は……ない!


 そもそもの話、アクアに引っ張られ、ぶん回されている時点で、たとえ攻撃する手があったとしても狙って当てる余裕はなかった。


『ウィロビーさん!』


 アクアの念話が俺の脳に響いた。


『中央はマーマンだらけです! 塔はどれですか?』


 どれ、と言われてもこれだけの速度でぶっ飛ばしていればわからない。もっと下の地面近くまで降りて、速度を落とせばマーキングを見つけられるかもしれないが……。


『わかりました! ギリギリを行きます!』


 どうやら念話として届いたらしく、アクアがグンと加速し、都市の地面近くまで潜った。塔と塔の間をすり抜け、追ってくるマーマンの何体かは塔との衝突を避けようと身を翻した。


 ずっと引かれている俺がいうのも何だが、見ている方向がめまぐるしく変わるせいで位置把握に苦労する。マーキング探しをしたくても、見たい方向を見れないのでは見つかるはずがない。――いや、一瞬、見えたような!


『あった! アクア!』


 その方向を俺は指さすが、なにぶんスピードが出ていて、あっという間に離れて他の塔で見えなくなった。


『一周します!』


 アクアはそう念話で返した。その間にもマーマンがしつこく後を追ってくる。さすがにここで戻るのはナンセンス。外回りが正解だろう。

 俺は何とか塔の群生している方向を視界に収めつつ、前回きた時の脳内記憶を頼りに大体の位置を思い描く。もうすぐ――一周!


『アクア!』

『突っ込みます!』


 俺の適当な指さしを頼りに、彼女はひとかき加速。地面にこするような勢いで突き進む。水の中でなければこんな高さでの高速移動なんて経験できないね!

 水没している塔の入り口が見えてくる。たぶんあの中だけど、このスピードで突っ込むのはさすがに危なくない? 止まれる?


『ぶ、つか――る――!?』


 その時、アクアは俺の腕をグイと引っ張り引き寄せた。塔に激突する勢いで突進した俺たちだが、その寸前にアクアは水中の中で俺を投げた。

 水の抵抗で、俺は取り残されたように減速する。一方で、アクアはそのまま突っ走り、あっという間に離れていく。塔を避けたのだ。

 そして減速した俺は、そのまま塔の中へ飛び込んだ。衝突余裕で回避っ!


 と、そのまま下降すれば、水位調整の大型宝玉を視認した。こいつに触れれば水位が下がる!


 マーマンが塔の中に入ってきた。さすが水中生物。マーメイドほどではないが、すぐ追いついてきやがった。

 だがそいつらはモリを構えかけて、急に塔の外へ逃げ出した。水位が下がってきたのだ。あいつらは陸上歩行ができないから、完全に水が引く前に撤退するしかない。



  ・  ・  ・



 都市遺跡から水が引いた。前回のそれと同じようにマーマンは去った。

 さて問題は――


「アクア! 無事かっ!?」


 どこにいるかわからないから大声で呼びかける。俺をここまで導いてくれた彼女は、果たしてあの後どうなったか。

 あの分なら、敵から逃げ切れたと思うが……。


「アクアーっ!」

「はーい――」


 遠くから彼女の声が聞こえた。


「大丈夫――生きてまーす!」


 塔の外に出て、声の方を見れば、隣の塔の三階部分の窓からアクアが手を振っていた。


「よかった、生きていたか」

「すぐ降りますから、待っててください!」


 そう言うとアクアは塔の中へ引っ込んだ。彼女はマーメイドだったが、人のように歩行することができる。

 ……あれどうなっているんだろうな? もともとマーメイドというなら、人間の足があるってありえないことだけど。


 人魚伝説にありがちな、魔法薬か何かだろうか。

 少し待っていると、アクアが塔の外に出てきた。しっかり二本の足で立っている。言われなければ絶対にマーメイドだってわからない。改めて思うけど、マーメイドへの変身もあってスカートに生足チラだったんだな。


「お疲れさま。怪我はないか、アクア?」

「はい、大丈夫です」


 彼女は元気だった。マーマンどもに追われて逃げ回ったわけだけど、ついに怪我一つなくやり遂げた。


「君が特別早いのかな? それとも種族的にマーメイドはマーマンより早いのかな?」

「マーメイドの方が全体的に早いですよ」


 アクアは答える。


「ただ力に関しては、マーマンの方が若干上ですけど」


 なるほど、マーメイドはスピード型。マーマンはパワー型なんだな。一つ勉強になった。


「さて、それじゃ水の聖女様のもとへ行こうか」


 都市から水が引いたから、塔を登って転移魔法陣に行くより、中央の穴を下りた先の通路から遺跡に入るほうがいいだろう。


 さてさて、前回から何か変化があったりするんだろうか。冒険者たちが探索にきて、水位上昇で大惨事になったらしいが、それまでにそこから入った者もいたはずで……。あまり考えたくないが、冒険者たちの溺死体とかあったりするのかな……?

次回から水曜、土曜の週2回更新となります。よろしくお願いします。

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