第41話、冒険者と追い剥ぎ
キャラマーク屋敷の地下をくぐって、マナンティアル・ダンジョンへの洞窟を行く。
そういえば、あの水汲み少女はどうしてあの建物がウィロビー屋敷であると知っていたんだろうか? ちょっと気になるな。あれから顔を合わせていないが元気にやっているだろうか。
ともあれクリスタル・タートルがいた水辺の部屋に近づいた俺とアクアだが、そこで会いたくもない連中と出会ってしまった。
「おやおや、冒険者さんがお出ましかい」
始めは倒れている仲間を救助しているのかと思った。何人もの冒険者が遺跡ダンジョン探索で負傷し、その手当てをしているものと。
ダンジョンでの大事故があったから、探索でまだ撤退しきれていない者たちがいたとしても自然ではあったが……。
「ハイエナか」
俺はブロードソードを手にする。戦場跡で装備を引っ剥がす追い剥ぎが出ることがある。ここにいる冒険者に見える連中は、ダンジョンで回収した冒険者の死体から装備などを盗っている……ように見えた。
「同業者には見えないなァ。まあ、たとえ同業者でも分け前をやるつもりはないが」
その男はナイフを向けた。
……ここで、違うと否定してくれれば、まだ冒険者が仲間の遺品を回収しているという可能性もあったのだが、あっさり追い剥ぎだと告白しやがった。
よしわかった。知り合いではないが冒険者仲間の尊厳破壊をしている野郎どもは、ここで斬り捨てる!
「ニイさん、強そうだなぁ。だがもう一人の女の方は……初心者くせぇな。新人教育中だったか?」
追い剥ぎ連中がそれぞれ広がりながら武器を構える。相手は七人か。
「いいぜ、オレたちが教育を引き継いでやるよ! やっちまえ!」
「うらぁぁっ!」
向かってくる追い剥ぎども。
「アクア、下がれ!」
俺は前に出る。鉄級冒険者以前に新人臭がするというのはそう。それが見てわかるというなら相手は経験豊富。冒険者を前に怯まないところからして、こいつらは元冒険者かもしれない。……面倒だ!
槍で突いてきた追い剥ぎの一撃を躱しながらのカウンター! 胴体を切り裂き、その手応えからこいつは致命傷と判断。次に向かってくる追い剥ぎに剣を振って、血糊を飛ばす。仲間の血が飛んできて、そいつは顔についた血に刹那怯んだ。
突き! 一瞬の怯みの間で肉迫し、切っ先で首を突いた。鎧が見えたんでね、そこを避けたら他に適当な場所がなかった。
残り五人。
アクアと組んだのは初めてで、実際に戦うところを見たことがないから、どう動けるのか未知数。故に彼女は今回は戦力としてカウントしていない。
モンスター相手なら任せられたかもしれないが、対人戦はまた感覚が異なる。すなわち人を殺すということは、人にとって大きな衝撃を与えるものだ。冒険者をやっていれば盗賊や暴漢と戦うことはあるが、新人から人殺しを経験しているとは限らないのが冒険者である。
突き殺した追い剥ぎの死体から剣を抜くついでに、別の追い剥ぎの方へ飛ばす。それを受け止めるか避けるなどして、しばし時間を稼ぐ。俺を迂回してアクアの方に向かおうとしている追い剥ぎにセブンスエポン、鞭モードで叩きつける。
「おいおい、どこを見ているんだ? 俺と遊んでくれよ」
「うおおおおっ!」
斧をふりかぶって俺に向かってくる追い剥ぎ戦士。その一撃を受け止めるなんてことはしない。かぶりが大きいから避けるのも容易い。振り下ろした勢いで下がった顔面にひざ蹴りを当てる。
「うげっ!?」
悪いな。呻いている間に右手のブロードソードで断頭。――俺の視界に、先ほど喋りかけてきた男が、手に魔力を具現化させるのが見えた。
呪文詠唱中。魔法使いか……!
「アクアブラスト!」
しかし駆け抜けたのはアクアの声と水の塊。それは詠唱中の追い剥ぎ男に命中し、吹っ飛ばした。
ひゅう、アクアって攻撃の魔法も使えたのか! ナイスアシスト! 防御の魔法以外にも聞いておけばよかったぜ。
「アクア、やれるのか!?」
「はい! やれます!」
いいお返事。声もしっかりしているし、対人戦も経験ありかなこれは。なら手分けして残りを片付けよう。
・ ・ ・
俺たちは追い剥ぎを六人始末した。最後の一人は、戦闘の間に逃げた。アクアが魔法をぶつけて吹っ飛ばした奴だ。
「すみません、仕留められなくて」
「いや、盗んだ防具で命拾いしたんだろうよ。気にするな」
冒険者からの追い剥ぎなら、たまに掘り出し物の武器や防具もあったりする。魔法に耐性がある装備とかな。
「俺たちはマナンティアル・ダンジョンにきたのであって、追い剥ぎ討伐をしにきたわけじゃない。逃げた奴は仕方ない」
ただし、冒険者の遺体から冒険者証だけは回収しておく。帰ったらギルドに報告しなくちゃいけないからな。……埋葬してやれないんだ。すまない。
「それにしても」
アクアは沈痛な表情を浮かべている。
「どうしてあんな人たちが……」
「新ダンジョンのことは話題になっていたからな。それで事故が起きて、冒険者にかなり被害が出たと聞いたんでやってきたんだろう」
大事故ともなれば死体も少なくない。そう踏んだんだろうな。
「冒険者をやっていると、ああいう手合いと遭遇することもある」
しばらく冒険者が来ないと見て追い剥ぎ連中がハイエナしていたんだろうけど、連中が思っていたより俺たちが早く来てしまったわけだ。
俺だって、伯爵の依頼がなけりゃこんなに早く戻ってこなかった。
「気を取り直して、ダンジョンに――」
言いかけ、俺は口を閉じた。アクアは死者に対して祈りの言葉を捧げているようだったからだ。
優しいな。知らない冒険者に対しても、礼節をわきまえている。こういういい冒険者が増えるといいな。
祈りを捧げた後、俺とアクアはダンジョンへと侵入した。
クリスタル・タートルはいなかった。おそらく冒険者が大挙押し寄せた時に、まとめて討伐されたのだろう。あと何日かしたら、また素知らぬ顔でクリスタル・タートルたちが棲み着いているかもしれないけど。
「さあ、アクア。この先が都市遺跡。一応、マナンティアルと言われているダンジョンだ」




