第40話、あなたの目的は?
情報収集は大事だ。それがダンジョンともなれば、自分の命にもかかってくる。
だからしっかり見聞きして、自分の中に取り込んでいったんだけど……。のんびりしていたつもりはないが、長くギルドにいたせいで捕まった。
マナンティアルダンジョン関係で、依頼を出していた方々に。
「あの、ダンジョンの情報収集をお願いしたいのですが!」
「君、第一発見者のウィロビーという冒険者だな!? マップを! 遺跡のマップが欲しいのだが!」
「財宝が眠っているか確認してきて欲しいんですが!」
……そういや、調査や護衛以来が専門家などから出されていたんだっけ。それを受けた冒険者たちが大挙してダンジョンに詰めかけたが、水位事故による大惨事でかなりの犠牲者を出した。
それで依頼未達がその分発生し……。遺跡専門家やら歴史研究家などが調査続行の依頼を再度出しにきた、と。
冒険者が大勢死んでいるんだぞ。……正直イラッときたが、それを専門家のお遣いの人にぶつけてもしょうがない。
ギルドスタッフを呼んで俺の前に集まっている依頼者たちとの間に入ってもらう。結局、クエストの仲立ちをするのはギルドであるわけだし、これだけ押し寄せられると個々の対応も面倒だ。受けた受けてない問答はしたくないのでね。
「……他の冒険者パーティーに仕事を振れないのか?」
俺はすでに伯爵の指名依頼を受けてしまっていて、それに差し支えない範囲の依頼ならついでに受けてもいい。が、優先度があることを承知してもらわないと、さすがに断るぜ?
「流行りのダンジョンに関心があるパーティーは、ほぼ突撃しましたからね」
ギルドスタッフはフロアの冒険者たちを見回した。
「仲間を失って消沈している者、パーティーの再編など、すぐにマナンティアルダンジョンに行こうというパーティーはほとんどないと思います」
お願いします!――依頼者たちが、ギルドスタッフの答えを聞いて俺に依頼を受けてもらおうと声を張り上げる。
結論を言ってしまうと、すでに依頼を受けている状態なので、他依頼はおまけ程度、先行情報をある程度集めるくらいしかできない――それでも構わないという人の依頼を承諾した。
どうせ一回言っただけで調査が終わるわけではない。遺跡を調べるにしても普通は複数回行われるから、俺たちの今回のダンジョンアタックはその先行調査の一つと解釈してもらう。
護衛依頼系は足手まといお断りの観点から拒否。他の準備ができた冒険者パーティーに頼んでくれ。
ということで解散解散。
「やっと出てこれましたね……」
アクアも苦笑している。本当にそれ。
「マナンティアルダンジョンだけど、水中での行動に備えて魔法薬がほしい」
大事故にも繋がった水位可変ギミックに対応できないと、こちらも命がない。
「小舟もあれば移動に便利だけど、持ち運ぶのは難しいからな」
「舟はありませんけど」
アクアは携帯している小さな革袋を見せる。
「水中で呼吸できる飴玉なら、ありますよ」
なんて都合のいい品を! ……正直驚いたけど、何だか手回しが良すぎるんだよな。
「なんでこんなのを持っているんだ?」
「マナンティアル・ダンジョンに行くためですけど」
何を当たり前のことを聞くんだろう、という顔をするアクアである。
「水の中に潜るかもって聞いて調達したんですよ。後は一緒に行ってくれる人を探していただけで」
「……そうだな。別におかしくはないか」
俺が別件をやっている間にも、ダンジョンから撤退してきた第一陣はギルドにいたようだし、そこから情報を得て準備をしても不審な点はない。自分なりの準備を整えたあと人探しをして、俺に声をかけたというところだろう。
「すまん。勘ぐってしまって」
「いいえ、いいんです」
アクアは朗らかに許してくれた。素直ないい子だ。じゃあそれ以外のポーションなどのアイテム補充をしておこう。
「俺の目的はギルドで見ていただろうから知っているかもしれないけど、水の聖女様を連れ帰ることだ」
まあ、生きていれば、の話だけど。
「俺と行動するということは、それを了承していると解釈するが問題ないか?」
「……はい、大丈夫かと」
アクアは頷いた。よかった。遺跡に眠る聖女とやらに接触することに否定的な考えを持っていなくて。……もっとも信用できるかは別だ。
というのも、俺はアクアがマナンティアル・ダンジョンを目指す理由を知らないからだ。実は伯爵以外で、聖女を手に入れようとしている者がいて、アクアがその使いであったら、連れ出したところで俺を後ろから刺すなんてこともあり得るわけだ。素直でいい子に見えるが、それは俺を油断させる演技かもしれない。
考えすぎな気もするが、油断はするなということだ。だからさりげなく聞いてみる。
「ところでアクアは、マナンティアル・ダンジョンに行きたいってことだけど、目的は何だ? 伝説の水の都に眠る財宝とか?」
「財宝……ええ、まあ興味はあります」
アクアの視線が彷徨う。あまり本心の言葉とは思えなかった。
「都の話を聞いて、いてもたってもいられなくなったというか……。何て言えばいいんだろう」
適切な言葉を探すようにアクアは考える。……何か企んで俺に近づいたってわけじゃなさそうだ。聞かれて答えられる理由を作っていない辺り、どこかの雇われとか裏に何か陰謀があるとは考えにくい。
「しいて言えば、水の都を見てみたい、でしょうか。後は、聖女様にも会いたいな、と」
「へえ、意外とロマンチストな理由だな」
「おかしい、ですか……?」
「純粋に冒険者らしいかもな」
そこにダンジョンが、財宝が、未開地があるから。冒険者は行く! モンスターを狩って日銭を稼ぐとか、細々とした仕事をこなして報酬を得るとか、現実的なものではなく、ガキの頃に憧れた冒険者というものを体現するような考え方だ。
大人になれば冒険者とて現実に染まっていくが、アクアは鉄級と言っていたし、ロマンを抱いて冒険者になって日が浅いのかもしれない。言うなれば初心者だが、戦闘経験があるらしいのでまだマシだろう。
「では行こう。冒険者らしく! 水の都へ!」
「はい!」




