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第39話、新人対応


 冒険ギルドで声をかけられた。

 それ自体は別に珍しいことではない。軟派な冒険者が異性の声をかけたり、思い上がった間抜けが新人いびりをしたり、まあ色々。


 俺はそばにいる受付嬢に、失礼ながらこの娘知ってるかとジェスチャー。彼女はブンブンと首を横に振った。地元の冒険者ではなかったかな?


「マナンティアルダンジョン……」


 すぐそこのフロアには、そこから戻ったばかりの冒険者パーティーが複数あるみたいだけど、何故俺に声をかけたんだろう? 行くつもりではあったけど、まだギルドにも俺は何も言っていなかったが。


「今、そのダンジョンがホットな話題のスポットだけど、状況はわかっているか?」

「……?」


 金髪の女性冒険者は首をかしげる。ちょっとわかりにくかったかな。


「伝説の場所かもしれないって冒険者が押し寄せたが……そちらを見ればわかる通り、攻略に難儀している。そういう場所だってことは理解しているか?」


 鉄級冒険者といえば駆け出しに代表される下級だ。経験のある先輩諸氏が追い返されたダンジョンに挑むというのは大変だよ?


「そうなんですけど、ちょっと諸事情がありまして……。わたしは行かないといけないんです」


 ほーん、ワケありか。


「えっと、やっぱりこういうのは、駄目……でしょうか?」

「いや、人にはそれぞれ事情があるものだろう。話せないことなら詮索はしないよ」


 もしかしたら守秘義務が発生する件かもしれないし。

 俺は……どうんだろう。モデスト伯爵の依頼の件、特に呪いの部分って公言したら伯爵家的にはアウトな部分だろうし、べらべら喋るようなものではない。

 そういう例もあるから、言えないこともあるのも理解はしている。


「それはそれとして、何で俺に声をかけた?」


 冒険者なら他にもいる。……いや、今フロアでぐったりしている連中に声をかけづらいのはあるかもしれないけど。フリーな冒険者も他にいなくもない。


「こういうと、変に思われるかもしれないですけど……」


 女性冒険者は、恐る恐る言った。


「伝説に聞く冒険者のウィロビーさんに似ているなー、と思って」


 伝説の……? おやおや、また俺ではない、俺のルーツかもしれないウィロビーさんの名前が出てきたぞ。


「もしかして、と思いまして」

「なるほど。その伝説のウィロビーではないと思うけど、俺はウィロビー」

「アクアマリンと言います。アクアと呼んでください」


 女性冒険者は、そう名乗った。宝石の名前か。由来は目が綺麗だからかな?


「ウィロビーさんで、いいんですね? お名前は」

「そう、ウィロビーだ。なんならギルドに確認してもいい」


 傍らの受付嬢に顔を向ければ、彼女はコクコクと首肯した。


「で、俺もそのマナンティアルダンジョンに行く予定だったんだが、ヘルパーを探していてね。援護役というやつだ」

「同行させていただけるなら、わたしが」


 アクアは志願した。話が早いね。ただ問題は、彼女にその能力があるかどうかだ。

 失礼ながら装備を軽く一瞥する。身につけているもので、その冒険者が大体どのレベルか判断材料になる。


 装備は真新しい。胸甲や肩具は革製のようで身軽そうだ。ただ綺麗な装飾が入っていて、そこらの量産品とは違う。これは金持ちのにおいがする。

 どこぞの貴族の令嬢か、いや騎士の家の娘という線もあるな。武器はショートソードを鞘に収めている。これで騎士の家の子ならば剣技にも多少期待できるかもしれない。腕は手甲で守っていて盾はなし。短めのスカート、太ももがチラリ。


 軽戦士。

 うーん、俺の求める後方での護衛役とは相性があまりよくなさそうだ。装備が徹底して軽く、おそらく疲れにくいだろうからその点は同行者としてはありがたい。

 が、たとえば敵が投射攻撃をしてきた場合、水の聖女のガードができないのではないか? 剣で矢やモリを落とせる達人なら、まあ……。


「つかぬ事聞くけど、敵が投射攻撃をしてきた場合、躱す以外に防御できる手段を何か持っているか?」

「あ、はい。えっと、マジックシールドが使えます」


 魔法による盾。おっ、あるじゃん防御手段。


「ちょっと見せてもらっていい?」

「はい。やります」


 薄い青色の魔法の膜がシールド状に展開した。おお、おお上等上等。ラージシールド並の効果範囲。これなら自分はもちろん誰かを守ることもできるだろう。しかも詠唱なしで展開とか、この子、魔法もいける口だな。


「後はシールドの強度だけど……。ちなみにこれどれくらい展開できる?」

「連続一時間くらいは大丈夫です。魔力の容量は、人より多いと言われますので」

「君、優秀だね、アクア」


 俺の求める条件を満たしているといっていい。これは拾いものだ。後はどれくらい実戦経験があるかだな。


「現状、マナンティアルダンジョンには、クリスタル・タートルが門番にいて、水が多い時はマーマンが出る。遺跡の中にはジャイアントスパイダー、サハギン、あとスライムも出たかな。……これらと戦った経験は?」

「クリスタル・タートルはないです。亀型は遭遇したことはありますが、まともには戦っていないです。ジャイアントスパイダーも見たことは一度で、倒してはいないです」


 うん、とても正直な子だ。鉄級冒険者というからには、最悪素人も同然というのも覚悟はしたら、冷静に思い出せるのは好印象。……しかし。


「マーマンとサハギンは戦ったことがあるの?」

「はい、わたし、海の生まれなので……」


 あー、海近くの生まれなら、そういうのと遭遇することもあるかもしれない。正直、この辺りは内陸だから、水棲の魔物と戦った経験がない者が多いだろう。その点、戦闘の可能性の高いモンスターを知っているのは頼もしい限りだ。


「よし、採用だ。アクア、よく声をかけてくれた。歓迎するぞ」

「ありがとうございます。わたし、頑張ります!」


 元気だねぇ。ますます結構。俺は、受付嬢にモデスト伯爵から指名依頼を受けたのを確認してもらう。

 あとついでに、ギルドが冒険者たちから聞き取ったマナンティアルダンジョンの状況など情報確認をした。


 できたてホヤホヤの新情報。そこでわかったのが、やっぱり探索中に水位が勝手に変わって溺死しただろう冒険者がかなりいたこと。マーマンが多数襲いかかってきて、そこでも死傷者が相応に出たという。


 仕掛けについては、これといって新たな情報はなし。まあ、冒険者が得た情報を全て明かすとは限らないから、もしかしたら誰かが何か重要な情報を持っているかもしれない。だがそれを当てもなく問いただす余裕はない。

 手続きと情報収集の後、俺はアクアとギルドの外へ出る……出ようと思ったんだけど。


「あのー、マナンティアルダンジョンに向かわれるのですか?」


 冒険者でもない人たちが、ギルドに詰めかけているんだが、これは何だ?

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