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第38話、困難な依頼


 結局、モデスト伯爵の依頼を受けることにした。

 難しい依頼ではある。世の中、簡単なクエストばかりではないということだ。しかしこちらは一人であり、正直、伯爵の依頼向けではない。

 だから、はっきりと言わせてもらう。


「水の聖女を運ぶ手段の確保。そしてモンスターの交戦に備えて、道を切り開いているあいだの聖女を監視して守る人員が必要です」


 だから俺が仕事に専念できるようサポート役がほしい。知り合いにいないですかねぇ……? いないならギルドで誰か適当な人材をスカウトしますけど。

 その場合、間接的にでも雇うことになるので、その人材への報酬もつけてくださいよっ、と。


「わかった。その代わり、必ず連れてきてほしい」


 目的のための経費、その他必要なものはいくらでも用意するとモデスト伯爵は言った。それだけ、子供たちの呪いを解きたいのだろう。


「一応、説得してきてもらうことになると思うのですが、本人が拒否した場合、あるいはダンジョンから出ることができない場合は、諦めてもらうことになるますが、よろしいでしょうか?」

「どういうことかな?」

「水の聖女というのが本物かもそうですが、私が目撃した時点で、生きているかどうかもわかりませんでした。もうすでに死んでいる可能性もありますし……」


 あるいは人間に見えて人間ではなく、結界の中でしか生きられず、連れ出したら死んでしまう……限定的環境でしか生きられない場合というのも存在する。


「よりシンプルに呪いで身動きできないなんてこともあるかもしれない。……そういう場合は」

「どうしても、やむを得ない事情がある場合は仕方がない。だがそういう場合は私を納得させるだけの証拠なりを提示してほしい」


 噓をつかれて報酬を持ち逃げされたり、クエスト失敗を誤魔化されても困る、ということだろう。雇う方としては、冒険者がきちんと仕事をしたか確認する方法が限られる。信用できるかは別問題なのだ。


「死体を持ってこればよろしいですか?」

「……できれば生きている状態で連れ帰ってもらいたいのだがね」

「最善は尽くします」


 ということで、伯爵には冒険者ギルドに、俺指名の依頼を出してもらうようお願いした。これはギルドを通すことで、後で揉めた時に備えての保険ではある。依頼主が冒険者を信用できるかどうかの問題同様、俺の方からも依頼者をどこまで信用できるのかわからない。気に入らない結果だった時、貴族である権力を利用して、俺を潰しにかかったり悪評をばらまかれたりしても困る。


 最悪、仕事をこなしたのに難癖つけて報酬未払いなんて悪党も世の中にはいる。ここでギルドを間に噛ませておくと、不義理な依頼者に対してギルドが制裁してくれるからね。……たとえ相手が貴族でも。


 これは逆も言える。冒険者が不正や虚偽報告した時、ギルドもペナルティーを発動させる。最悪、冒険者資格剥奪、賠償などに繋がるから、依頼する方としても真っ当な人間であるなら悪い話ではない。仲介料はとられるけど。



  ・  ・  ・



 さて、早いほうがいい依頼だが、タイムリミットがあるわけではないので、早々に準備を整えよう。

 マナンティアルダンジョンの障害といえば、やはり水位の高低差ギミック。水位の上昇に対応できる装備が必要だ。


 向かうのは地下の一番深い場所ではあるが、水位ギミックの制御できる仕掛けは、複数ある塔の中。そこへ移動するためにボートなどの水面を渡る装備がいるのだ。

 だが、ボートなんて個人で持ち込むなんて至難の業。パーティーであっても大変なんだ。必要のない時は縮小して持ち運べる魔道具か、マップホルダーのヴィッターラントがはいていた水面歩行ブーツのような装備が理想。


「それかいっそ、水中対応したほうが早いかもしれないな」


 てっとり早いのは、水中呼吸ポーションなどの魔法薬だろうか。だが水中はマーマンがいるから、ただ潜るだけでなく水中戦に対応できるのが望ましい。……予想はしていたが、対策しようとすると多くなるなぁ。

 装備を整えるにしても、俺はこの町はまだ詳しくないから、冒険者ギルドに行って店を紹介してもらう。

 そしてギルドに足を踏み入れたわけだけど……。


「うわ……」


 変な声が出た。

 ギルドフロアにずいぶんとくたびれた様子の冒険者が十数人。がっくり肩を落としている者もいれば、ギルド職員と話し込んでいる者もいる。


 何かあったのだろうが、例のマナンティアルダンジョンに行って戻ってきた連中じゃないかと想像する。

 呆然と冒険者たちを眺めている受付嬢がいたので、声をかけて聞いてみる。案の定、フロアの冒険者たちは、例のダンジョンからの帰還者だそうだ。


「あの方たちで最後の組です。道中知らずにすれ違った方がいれば別ですが、マナンティアルダンジョンから全冒険者が撤退したことになります」


 依頼未達成が大半で、依頼者と揉めるんだろうなぁ、とその受付嬢は何とも言えない顔になった。……うんそれ、命からがら戻った冒険者たちの前ではあまり言わないでね。八つ当たりされるから。

 まあクエストを仲介しているギルドとしても、依頼者から文句を受けるので、気持ちはわからなくはないんだけどさ。


「あのぅ、よろしいですか?」


 柔らかな女性の声がした。えっ、と俺かな?


「はい?」


 見目も麗しい女性――格好からすると軽戦士といったところの彼女が声をかけてきた。金髪碧眼。これで耳が長ければエルフと言っても信じられるくらいだ。


「すみません、冒険者の方、ですよね?」

「そうですが。そういうあなたも冒険者で?」


 尋ね返すと、一見少女にも見える若い女性は苦笑した。


「あー、ええまあ、そうです。鉄級なので新人みたいなものですが、一応」


 ややオドオドしているというか、緊張している雰囲気だ。声は張りがあるし、内向的な様子ではないが、あまり慣れていないような雰囲気を感じた。


「その、ソロの方、でしょうか……?」

「はい、一人ですよ」


 ゴールドランクの冒険者です、って冒険者証を見せたらかえって萎縮させてしまうかな。


「それで、俺に何かご用ですか?」

「マナンティアルダンジョンに行きたいのですが……一緒に行ってくれませんか?」


 探るように彼女は言った。えっと、これは何。もしかして、デートのお誘い?

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