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第37話、明かされた依頼


 モデスト伯爵は、すらりとした紳士であった。四、五十代くらいか、口髭が中々様になっている。


「ようこそ、ウィロビー君。我が招きに応じて感謝している」

「光栄です、閣下」


 何とも豪勢な屋敷であった。庭も整っていたし、室内の手入れも行き届いており、お金のある貴族であることには間違いない。……辺境には、貴族と名乗る一方で、金がなく貧しい者もいる。貴族も十人十色である。


「我が娘、アディーシャの命を救ってくれたこと、礼をいいたい。ありがとう」


 ……うん? アディーシャ?


 はて、その名前、俺の記憶違いでなければ、あの灰色猫ちゃんの名前ではなかったか。……猫を娘と言ってしまう方だったか。


「ええまあ、間に合ってよかったです」

「あの不届きなバウファルコンが襲ってきたとか」


 頭を抱えるモデスト伯爵。


「寿命が縮んだ。君が助けてくれなければ、私は今頃――」


 言葉にならないようだった。猫を娘といって可愛がる人だ。実の子のように愛情を注いでいるのだろう。


「アディーシャも君の腕前を褒めていた。まるで伝説の冒険者ウィロビーのようだと……。ああそういえば、君も同じ名前だったね」

「ええ。なので、私としては、その伝説のウィロビーの話をぜひとも聞きたいところです」


 俺の失われた記憶と関係あればいいのだが、それは聞いてみないとわからない。しかし、この人、猫とお喋りできる能力でも持っているのだろうか。


「私も伝説の冒険者についてはほとんど知らない。ウィロビーと聞くと、私は街道のそばにあるとある屋敷の方を思い出すが」

「ウィロビー屋敷とか言われているあれ、ですか?」


 キャラマークという貴族の屋敷が、かつてウィロビー屋敷と呼ばれていたとか云々。正直、今になっては何だったんだろうかと思うんだが。


「そう、かつては国家反逆罪に問われた貴族の一族が住んでいた屋敷で、その前は、確かにウィロビー屋敷と呼ばれていたと記憶している」


 伯爵は頷いた。……おっと、ではその由来を知っている人か?


「何故、昔はウィロビー屋敷だったのですか?」

「その昔、ウィロビーという名の騎士が所有していた屋敷だからだよ」


 記憶を辿るようにモデスト伯爵は視線を彷徨わせる。


「騎士……?」

「そう、騎士だった。街道を見回り、事があれば急行する……。そんな役回りだったが――」


 伯爵は記憶を辿る。


「だが、いつしか行方不明になったらしい。その後に、彼の友人で、同僚だったキャラマークが後を引き継いだ」

「同僚だったのですか? キャラマーク氏は?」


 貴族と聞いていたが……。


「貴族でも、三男、四男ともなれば騎士をやる者もいる。さほど珍しいことはない」


 そうかもしれない。家督を継げるのは大体長男だからな。言われてみれば、貴族の家の出で騎士もさほど珍しくないか。

 それにしても、その騎士のウィロビーは行方不明になった、とは。いったい何があったんだろうな。


 盗賊とかモンスターに出くわして、不運にも命を落とすことになったか。……まあ、何はともあれ、騎士ウィロビーは冒険者ウィロビーとは、ほぼ関係がないことがこれで決まったんじゃないかな?


 同じ名前というだけのこと。それを言ってしまったら、俺が探している冒険者ウィロビーのことだって、俺が勝手に関係があると思い込んでいるだけかもしれない。ここまでやってきて、まったく無関係だったってオチもある。


 俺と伯爵の話は続く。しばし他愛のないことであったのだが――


「聞けば、ウィロビー君。君はゴールドランクの冒険者であるとか」

「はい」


 いまさらながら、よろしければ冒険者証をお見せしますよ。


「もし、都合がつくならば、私からの依頼を受けてくれないだろうか? もちろん、報酬は約束する」


 ……ただお礼を言うだけの招待ではなかったな。嫌な予感的中。……まあ、まだ悪いこととは限らないわけだが。


「お話を伺いましょう」


 冒険者として、内容も聞かないというわけにもいかない。よっぽど評判が悪い依頼主でなければ、だけど。


「ありがとう。私には息子と娘が二人いるのだが――」


 モデスト伯爵は語った。伯爵の後継者である息子と、先ほども名前も出ていたアディーシャという娘。……猫ではなかったのか? そして末っ子の妹。

 問題は息子の方は呪いで虚弱。姉の方もやはり呪いで猫になってしまっているのだという。


 なるほど、あの猫を救ったことで我が娘と言ったのは、そういうことか。それにしても……。


「呪い、ですか……」

「信じられないのはわからないでもない」


 緊張の面持ちのモデスト伯爵。いやいや――


「信じますよ。ダンジョンを探索すれば、呪われた物が発見されることもありますから……」


 それよりも解呪はしなかったのだろうか? 教会の神官や、冒険者の中のヒーラー職の中には、呪いを解除する術を使える者もいる。


「もちろん、解呪は依頼したよ。だが強力な呪いでね。今に至っても解決していない」


 それは気の毒に……。しかしここで俺にどうしろというのか。器用貧乏な俺だけど、そんな強力な呪いを解く魔法は使えないし。


「マナンティアル・ダンジョンというのが見つかったそうだね」


 モデスト伯爵は真顔に言った。……ご存じでしたか。発見されたばかりの新ダンジョン。


「水の聖女が眠っているかもしれない、とも」

「……そう言われているようですね」


 あのダンジョンの遺跡の中で眠っていた女性。それを報告したら、その聖女じゃないかって説が出ている。本当にそうなのかは確定している情報はないが……。


「水の聖女は、あらゆる呪いを解く力を持っているという」


 伯爵の目に力がこもる。あー、これは――俺は、嫌な予感がした。


「水の聖女を、連れてきてもらえないだろうか? 本来ならこちらから向かうべきなのだろうが……」


 いやいや、ダンジョンは、虚弱体質な人間や貴族が行くような場所じゃない。目的の人物のもとに行く前にモンスターなどに襲われてやられてしまうだろう。護衛なんて頼まれたら、それはそれで面倒であったが……。


「連れてくる……ですか」


 眠っている、というか生きているかもわからないんだけど。

 これは、どうしたものか……。

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