第35話、適当にクエストを選べば
クエストを見れば、大体のところは想像できるが、その重要度という要素は、ある程度土地勘がないとわからないものがある。
もちろん、クエストにはランクが設定されていて、高いランクのものほど困難。より上位のランクの冒険者が受けて遂行されていくものだ。
ただ難しい依頼を見るなら、ランクが高くて報酬額が高いものを選べばいい。重要度も高い傾向があるが、緊急性から見ればそうでもなかったりする。
……なんだか、我が儘を正当化しているようになってきたので、さっさとギルド職員に相談して、初級冒険者の仕事を潰さないよう難度が高く、かつ重要度、緊急性が高いクエストを紹介してもらおう。
なんてお願いしたら、ギルド職員と受付嬢二、三人が集まって、クエスト探しが始まった。……皆、例のマナンティアル・ダンジョンに出払っていて、受付業務が暇なのだそうだ。
「ペット探しはどうですか? これランクが高めで、かつ報酬額も高いですよ!」
「猫……希少種?」
俺は、内容だけ聞いて嫌な予感がする。
「どうせ、金持ちの商人か貴族の依頼でしょ?」
「あ、鋭い。さすが上級冒険者のウィロビーさん。こういうのわかっちゃいますかね」
「パターンだよね」
でも誰かの命がかかっているとか、緊急性には欠けるな。高額報酬を求める新人に回してあげたらどうかな。
「バウファルコン退治、これはどうです?」
男性スタッフが言った。
「何でも町の近くにまで出没していて、手を焼いているそうです」
「バウファルコンって、あれか全幅三メートルになる大型の猛禽の」
「そうそう、本来は海に近い場所に生息しているはずなんですが、何だってこんな内陸にいるんだか……。それはそれとして、このバウファルコンは赤ん坊を狙って襲ってきたとか」
「それで、割と高いランク付けされているのか……」
鳥系だから素人には難しいとクエストランクが高めになっている。空から赤ん坊を狙うとか、小さな子供も襲われる可能性が高い。割と緊急性もあるかもしれない。
「こちらは、シャリーンくそ――すみません、噛みました。草です草」
くそ、と草を言い間違えたらしい。ギルド職員や同僚受付嬢が声を上げて笑った。
「シャリーン草って、あれか。薬草の」
「そうですそうです。高熱に効く薬草なんですけど、町の医局が緊急で採集依頼を出しています。町の近場にシャリーン草の群生地があるのですが、その当たりランクが高めな魔獣もいて――」
「それこそ緊急じゃないか?」
「ええ、ですから緊急と言いました」
しれっと受付嬢は言うのである。何でそんな依頼が遂行されずに残って……ああ、聞くまでもない。冒険者がマナンティアル・ダンジョン依頼に行ってしまったからだ。
「よし、その依頼、俺がもらう。ちなみに群生地の場所は?」
緊急性の高い依頼だ。場所を確認したら、さっき聞いたバウファルコンがいるかもしれないとギルド職員が言った。どうも森から飛んでくるのを見かけたのどうとか。
「じゃあ、バウファルコン討伐の依頼も受ける」
「猫ちゃん探しはどうします?」
「……もし見かけたら、後出しでクエスト受注を受けてもいい?」
今は、命に関わる要素の高い方を優先で。
・ ・ ・
「えい、くそ、馬鹿野郎!」
ベリエの町を出ようとしたら、灰色の猫を見かけた。首輪つき、話に聞いていたペットのそれと特徴が似ている。
「どうしてこう、後回しにしたものが、目の前に現れる!」
緊急性とは? 俺は最優先対象をペット猫に定めた。こういうのは探すと見つからない。見つけた時に捕獲するほうが、一番手っ取り早いのだ。
「はーい、猫ちゃん、こっちへおいでー」
ぷい、とそっぽを向き、猫は民家の塀の上を我が物顔で歩く。……わかってる。猫というのは気まぐれだ。関心を持ってはダメだ。関心を持たれなくては。
どうぞお好きに。俺は猫に近づかない……。うん?
顔を上げる。でっかい隼が、こちらへ真っ直ぐ突っ込んでくる。船のへさきのような頭の形は、噂のバウファルコンじゃ――
狙いは猫ちゃんか! 俺はサブウェポンのセブンスエポンを弓、いや、鞭――やっぱり弓モードにして、飛び込んでくるバウファルコンを狙う。
猫ちゃんのおかげで、奴は一直線でダイブしてくる。軌道が予測できるなら、こうよ!
電撃魔法弾を発射! 猫の上を通過した電撃弾は、バウファルコンの頭に命中。一瞬で麻痺したか、石つぶてのようの落ちる。
猫のいる塀の直前に失速して墜落。その衝撃に、猫がおびえて塀から飛び降りてこっちへ駆けてくるので、正面に回り込んで抱き上げる。
「はいはい、怖かったですねぇ。もう大丈夫だよー」
「おおっー」
周りにいた住民から、驚きの声が上がる。そりゃあ町中にバウファルコンなんか墜落したら目につくよな。落ちたところ、大丈夫かな? 民家に落ちていないのは確実だが……。庭ならまだよしだが、あの巨体で落下だと、まあ物によっては潰れたり壊れたりするだろうからな。
俺は猫ちゃんの背を撫でてなだめつつ、バウファルコンの墜落現場に行く。
……塀の一部が壊れていた。顔面を石の壁に強打したらしく、そのままお亡くなりになっていた。なるほどね、猫ちゃんが慌てて塀から飛び降りるわけだ。
「予定が全部狂っちまったんだぞ。ん――?」
俺が猫に顔を近づければ、そんなの知らんとばかりに、そっぽを向かれた。
・ ・ ・
「お早いお帰りで――」
受付嬢が笑顔なので、俺もスマイルで返す。
「猫の依頼って、こいつでよかったかな?」
抱えてきた灰色猫を見せ、ついでにぶら下げてきたバウファルコンの頭を見せる。
「ひぇっ!」
「手が不自由でね。申し訳ない」
猫を片手で抱えて、ぶら下げてきたモンスターの頭入りの革袋、その紐を残る片手で持ち上げる。
「バウファルコンの依頼、たぶんこれだと思うんだけど。胴体はまだ民家の庭にあるから、猫を預けたら、戻るつもりだけど……」
「それならギルドから解体員を派遣しますよ」
「ほんと? それは助かるよ」
ということで、ペット探し依頼を後付け受注し、即達成。今度は逃げるんじゃないぞ――猫をギルド職員に押し付け、シャリーン草採集の依頼に戻る。
やれやれ、手順が狂っていけない。




