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第30話、報告は大事


 大穴の形に沿ってらせん状の階段通路がある。俺とルドーは、そこを下っていくわけだが。


「これ、歩くと意外と時間がかかるやつじゃないか?」

「ああ、飛び降りれるなら、そのほうが絶対に早いやつだ」


 ぐるぐると歩数だけが増えていく階段通路。


「帰りは仕方ないんだが、行きはショートカットしたいな」


 俺は浮遊魔法を使う。ふわりと階段から足が離れる。ルドーは首を傾げた。


「どうするつもりだ?」

「ここから飛び降りる」

「大丈夫なのか?」

「俺の浮遊魔法は地面からせいぜい二、三メートル(メット)しか作用しないんだけど、飛び降りる時は、これで上手く勢いを殺せるから、割とうまく下りることができるんだ」


 落下の衝撃を軽減させることができるが、あまりに高すぎるところからだと、浮遊魔法が作用しても間に合わないこともある。落下速度は一定のはずなんだが、何でだろう? わからん……。

 ルドーは半信半疑な顔になる。


「浮遊魔法にそういう使い方があるなんて聞いたことがないが……」

「応用だよ」


 浮遊魔法なんて、浮き上がることばかり考えるけど、効果を考えれば、着地や制動などにも応用できるものさ。


「というわけで、俺は一足先に下りて様子を見てくる。君はまあゆっくり来てくれ」


 何もなければ、どうせ引き返すだけだからな。


「何かあった場合は、タリサたちに報告に行ってもらいたいし、何ならここで待っていたほうが君にとっては無駄がないかもな」


 じゃ、そういうことで。俺は階段から飛び降りた。浮遊魔法の効果外の高さからの落下は普通に落ちるので、スリル満点。浮遊魔法が効かなかったら、着地時の衝撃で両足の骨が砕けるかもね!


 ふわりとした感覚。勢いが落ち、足が地面に着く寸前、俺の体は床から一メットほど浮き上がった。


「ウィロビー!」

「大丈夫だ!」


 上に向かって手を振った後、辺りを確認。ここはダンジョンだから警戒。上から見た様子では、モンスターはいなかったが暗かったからな。見落としや隠れている奴がいるかもしれない。

 モンスターはいない。……いないが――


「ルドー!」

「どうしたーっ!?」

「タリサに報告! さらに奥に行く通路がある!」

「了解ー!」


 ルドーは合図すると引き返して階段を駆け上った。俺は改めてその通路を見る。水が流れ出る排水口とはまた違った入り口のようなそれ。


 奥がどこまで通じているかわからないが、その確認は行動を共にするパーティーに報せてから。

 万が一何かあれば、仲間に迷惑がかかる上に捜索の手間をかけさせてしまうからな。


 こういう時、一人だと全部自己責任で突っ込めるんだけど、それはそれで一人で全て対処しないといけない。

 いざという時のバックアップがあるのは、パーティーの利点だな。……もちろん、探索中にパーティー全滅なんてこともあるんだけど。


 

  ・  ・  ・



「……遅いな」


 俺は天を仰いだ。

 ルドーがタリサたちに報せに向かったのだが、帰ってこない。

 塔を調査しているタリサらを見つけられないとか? いや、マップホルダーは探索する塔の周りに印をつけていたから、どこを通り、どの塔にいるのか、仲間であるルドーにはわかるはずだ。


 伝令に走ったルドーに何かあったのではないか? ちょっと心配になってきた。

 あの入り口は、目を離したらどこかに消えるというわけではないし、一度戻るか。もしかしたら向こうもこちらに向かってくる途中かもしれないが、もし何かあったら大変だ。


 俺は階段に従ってらせん状の階段通路を上る。通路に柵があれば、浮遊魔法とセブンスエポンの鞭モードで引っかけで上りもショートカットできたかもだけど。……仕方ないな。

 階段通路をのぼり切る前に、向こうからルドーなりタリサたちが来てくれるといいのだが……。


 そんなことを思いつつ、とうとう都市遺跡の地面のところまで戻ってきてしまった。見渡す限り、ルドーも、マップホルダーの面々もいない。


「……どうしまったんだ」


 何やら嫌な予感がしてきた。例の水位をいじった何者かがいて、マップホルダーを襲ったのか?


「こういう時、単独行動をした奴からやられるって言うが……」


 単独の俺だけ残っているってどういうんだ。まあ、その理屈でいけば、伝令のルドーもやられているってことになってしまうが。


 近場の塔を見回り、マップホルダーの面々の残したマーキングを探す。探索中、もしくは探索済の塔がそれでわかるようになっている。

 しん、と静まり返る都市遺跡。水の流れる音だけが聞こえるが、それ以外、本当に物音が皆無だった。不安感を煽られる。


 マップホルダーの面々が俺に何も言わずに去るなんてことはあり得ない。だからこそ、最悪の展開も脳裏にチラつくのだ。


「……ここか」


 探索中の印を見つけた。済のマーキングがないから、普通に考えればこの塔にタリサたちはいる。

 俺は塔に入った。ここも他の塔と同じような構造だ。中央の吹き抜けは、頂上まで延々と螺旋(らせん)階段があって、各階層に部屋がある。これを一つ一つ見ていくのは面倒ではあるが、仕方がない。


「物音がしない……」


 誰かいる気配も感じられない。済みの印を刻むのを忘れて、別の塔にいるのではないか……そんな考えがちらつく。

 そして何だかんだ最上階まで来てしまったが、道中にタリサたちの姿はなかった。


「……」


 何やら怪しいキラキラ光るリングがあった。これはあれか、転移系の魔法陣か。

 トラップ、というよりは移動用っぽいが、タリサたちが調べているうちに魔法陣が発動してしまい、どこぞへ飛ばされたのではないか?

 仲間たちを探していたルドーも、ここにきて魔法陣に入ったのか。


「さて、困った」


 この魔法陣で飛ばされたと思われるマップホルダーの面々は、戻ってきていないようだ。何かあったと考えるのが自然で、俺はともかくルドーにも連絡を寄越さない時点で、よろしくない事態に巻き込まれたと考えるのが正しい。


 そうなると、行き先がわからない以上、迂闊に飛び込んだら危ないのではないか。それを承知で追いかけるか。一度ダンジョンから脱出し、冒険者ギルドに報告。改めて増援と救助隊を派遣してもらうか、ということになるのか。

 ……しかしこれ、もしタリサたちが緊急事態だったら、救助隊を呼ぶ間に手遅れになってしまうのではないか?

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