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第29話、新たな大穴


 いかにも扉の形をした石の壁。他は模様が入っているのにここだけ違うというのは、何かあるのでは、と思うのは自然だと思う。


「ただ模様が途切れている、だけじゃないな」


 壁に切れ込みがある。ここだけ別の石材がはめ込まれているのだ。そうなると本当にこれは扉で、開ける仕掛けがあるのではないかと思わせる。

 問題は、引くための取っ手や隙間がないということ。……そうなると。


「一、押す。二、どこかに自動で開く仕掛けがある」


 どれ、ちょっと押してみるか。大きさからするとかなりの重量がありそうな石材だから、簡単に動くとは思えないけど。ふんぬっ!――力を込めて押すーっ、と。

 ガ、ガガ――おっと、少し押して動いたか。


「ふんぬぅぅっ!」


 力いっぱい押す! 押すうぅーっ! ガガガ、ガガガ――石材同士がこすれながら奥へと押し込める。動いているから間違っていない……と思っていたが、果たしてこれを押して大丈夫だったか、今さらながら不安になった。

 その瞬間、ガコっ、と壁がズレてはまった。あ……これ、動かなくなっちゃうやつ……?


 ゴゴゴゴ、と後ろで大きな音がし始めた。

 都市遺跡で何かが動き出している。何か仕掛けを作動させたっぽい!


 外周通路に戻れば、塔が生えている水面に何やら流れが……。中央で渦が発生しているような。大量の水が吸い込まれていく。

 そして、滝のように水が都市遺跡に注がれ続けているが、溜まっていた水が完全に抜けた。いや、今もなお遺跡外へ流れていっているから水が溜まらなくなったのだ。



  ・  ・  ・



「――ということで、たぶんこれ扉じゃなくて仕掛けだったらしい」


 俺は、異変に気づいてやってきたタリサたちに事情を説明した。都市遺跡の下層に大きな穴が開いた理由は、たぶんこれ。


「壁にこんな仕掛けがあったとはねぇ……」


 タリサは自身の髪をかきつつ呆れ顔になる。


「あたしら、ここを通ったんだ。でも誰も気づかなかったなんてね」

「塔の方ばかり見ていたからな」


 ルドーは腕を組んだ。


「意識していないと、案外視界に入らないもんだ」

「しかしこれで、水を気にしなくて済むわけだな?」


 ヴィッターラントが下を覗き込む。


「全部水が流れてしまうなら、水位を気にせず塔の探索ができるってことだ。――タリサ」

「ああ、調査続行だな」


 タリサは口元を緩めた。


「マーマンは出てこなくなるだろうが、水の高さを変えたかもしれない何者かが潜んでいるかもしれないから、油断はできないけどね」


 意見がまとまったので俺たちは外壁の階段を通って、一番下まで下りる。先ほど上ってきた長い階段をまた下る……。

 魔術師のアンが口を開いた。


「どうせなら、塔に繋がる橋とかがあれば楽なのに」


 行ったり来たりしているみたいで愚痴りたくもあるよな。

 というわけで、下までいって探索再開。……なんだけど。


「俺、中央の穴が気になるんだよな。ちょっと様子を見に行きたいんだが」

「まあ、そうさね。ヴィッターラント、ルドー、あんたらのどっちか、ウィロビーについてやってくれないか? さすがに単独行動は何かあったらまずい」

「オレが行く」


 ルドーが手を挙げた。残るメンバーは先とは違い一グループで行動する。未知の敵に備えてだ。

 俺とルドーは都市遺跡の中央へと歩を進める。


「あんたは大したもんだよ」


 ルドーは言った。


「クリスタルタートルを突破した時の機転もそうだが、マーマンの集団との交戦や、今回の仕掛けに気づく目敏さ。……さすがソロのゴールドランクだ」

「どうも」


 あまり感情を表に出さないタイプのように思えるルドーから、手放しで褒められるのは悪い気はしない。


「オレも命拾いした。……ありがとうよ」

「いいってことよ」


 冒険者仲間だからな。助け合いの精神ってやつだ。


「なあ、ウィロビー。気を悪くしないて欲しいんだが、あんたの名前って、伝説の冒険者のウィロビーにあやかってのものか?」

「どうだかな……」


 俺は肩をすくめる。


「そうかもしれないし、違うかもしれない。俺がその伝説のウィロビーかもしれない……」

「からかっているのか?」

「いや、割とマジでわからない」


 何せ記憶がなくてね。


「俺の名前と冒険者であること以外、正直、どこの生まれで何をしていたのかさっぱりだ。俺がソロで旅をしているのも、そういう俺を知っている人から話を聞くためなのさ」

「へぇ……。いわゆる自分の過去を探しているのか」


 なるほどね、という顔をするルドー。


「君は、ウィロビーと聞いて何を知っているんだい?」

「オレが知っているのは、伝説の冒険者であるウィロビーのことだな」

「教えてくれよ。一応、そのウィロビーにまつわる情報をもとに旅をしているからさ」

「そうか。……そう言っても詳しいことは知らない。伝説とは言うが、どこの出身で何人だったとか、そういう人物を特定するようなものはないな」


 腕っ節が強い冒険者で、様々な未踏ダンジョンを突破し、名を残した。……まあ、俺からしたらいつものやつ。


「お、見えてきたぞ」


 都市遺跡の中央。これまでは塔にばかり注意を向けていて、遺跡のど真ん中がどうなっていたか見ていなかったが。


「デカい穴だな。綺麗に円形に開いている」


 自然に底が抜けた、というのではなく、仕掛けによって開いた穴なのは間違いない。近くに寄って大穴を覗き込む。


「おお、これは……」

「何だこれは、ここも遺跡の一部っぽいな。穴に沿って階段がある」


 らせん状の階段が下まで延びているが……。


「よく見えないな」

「結構、深いか。いや、かろうじて底が見えるな。……行くのか、ウィロビー?」

「そのために来ただろう?」


 底が見えるなら、さほど行かないうちに行き止まりかもしれない。


「だが、もしさらに奥へ行ける通路などがあるようなら、一度タリサたちに報告すべ

きだろうな」


 まずは、様子を見に行こう。

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