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第28話、仕切り直しして見てみれば


 都市遺跡から水が引き、あれだけいたマーマンもどこかへ去った。


「あいつら下半身が魚だからな。水がないと動けなくなる」


 浜に打ち上げられた魚のように横たわるマーマンの死骸がいくつか見える。俺たちを襲い、そして返り討ちにあったものだ。無事なやつは水と共に姿を消した。

 塔から下りてきたマップホルダーの面々。


「ウィロビー、よくやってくれたね」


 タリサが褒めてきて、ヒーラーのジャーニーが俺をしげしげと見る。


「大丈夫でしたか? 怪我は……なさそうですね」

「俺の粘り勝ち」


 マーマンから逃げなかったから攻撃されなかった――しかし周りには意味が伝わらなかったようで、首をかしげられてしまった。わかりにくかったかもしれない。

 それはそれとして。


「ここからどうするんだ?」


 俺はソロだが今はマップホルダーと行動を共にしている。そのリーダーであるタリサは今の状況をどう考えているのか。


「一度、撤退するべきだと思う」


 タリサは答えた。ルドーが若干ムッとした顔をしたが、他の面々も含め反対の声は出なかった。俺が下にいる間に、ある程度話をしていたのかもしれない。


「歩きながら話そう」


 塔の外へと向かいながらタリサは説明した。


「水位の高さを変える装置についてわかってきたところだけど、あたしらが操作していないのに水位が勝手に上がった。理由はわからないが、もしかしたらあたしら以外に何者かがここにいてあたしらを排除しようとしている可能性がある」


 そして水位が上がるとマーマンの大群が現れた。


「次に同じ状況になっても面倒だ。調査を続けるにしても、一度戻って装備を整えるべきだ」


 水位上昇、水浸しになった場合、スムーズに移動できるよう小船を用意するとか、水関係なしに塔から塔へ移動できるよう、ロングロープを持ってくる、などなど。

 現状、問題になった場合、抵抗が難しく、むしろ全滅する恐れまである。冒険者は危険な冒険をするものだが、リスクは最小限に抑えられるよう準備をするものである。


「そうだな。俺もそれでいいと思う」


 俺が同意すると、タリサはホッとしたような顔になった。

 都市遺跡を囲む壁、その階段を上る。すると――


「また水だ」

「急ぐよ!」


 滝のように水が降り注ぎ、また底辺からも水が溢れ出した。『何者』かが水位調整を始めたのか。


「もしかしたら、時間制かもしれない」


 ヴィッターラントが階段を上りながら言った。


「水位を弄ると、一定時間で戻るようになっているとか……」

「どうかな? 来た時と同じ水位の高さだったならあり得たかもしれないが――」


 コンロイが首を捻る。


「さっきの水位の上がりっぷりは、最初の量より多かったと思うがな」


 水が満たされていく中、俺たちは都市遺跡入り口のある高台まで戻った。ここまでは浸水しないようだ。


「こうなると振り出しだよなぁ」


 また塔が水面から覗いていて、歩いてはいけない状態に逆戻りである。ルドーが、リーダーを見る。


「どうするタリサ。このまま引き上げるのか? それとも一晩ここで様子を見るか?」

「そうさね……」


 タリサは、都市遺跡の無数の塔を睨む。


「水位に時間制があるかもしれないって言ったのは誰だっけ?」

「コンロイ」


 俺が即答すると、タリサは頷いた。


「わかった。何ができるというわけじゃないが、今日はここでキャンプして、都市遺跡に変化がないか観察しよう。……ウィロビー、あたしらは残るけど、あんたはどうする?」


 マップホルダーに臨時参加しているが、正式メンバーではないから行動について命令できない、ということだろう。ソロを尊重してくれる態度、嫌いじゃないよ。


「うーん、俺も様子見に付き合うよ。俺ももうちょっとこの都市遺跡を見て回りたいし」

「そうかい。じゃあ、マップホルダーはここでキャンプ! ただし、侵入者に手厳しい何者かが潜んでいる可能性がある。警戒は怠らないように。いいね?」


 仲間たちは同意した。警戒の当番を決め、それ以外は自由時間となった。休憩を取る者もいれば、高台から塔や遺跡を観察する者など、思い思いの行動で時間を潰す。


「俺は都市の周りを一周してくるよ」


 タリサに申告して、俺は高台から都市遺跡の外壁に沿って通路じみた道を散策する。来た時に塔から行ったから、この外周通路はまだ歩いていないのだ。

 何かあるかもしれないし、何もないかもしれない。ただ違う位置、方向から見れば、新しい発見があるかもしれない。



  ・  ・  ・



 そう思って外周通路をぶらぶらと散策。この道自体はマップホルダーの面々が一度通っているが、特に発見などはなかった。


 石の通路はそれなりに広く、数人が横一列に並んで歩けるくらいはある。端に手すりなどはない。足をすべらせたら水へダイブする羽目になるだろう。落ちたくはないから、あまり下を覗き込みたくないねぇ……。


 先ほどに比べて水位は高くない。最初に来た時と同じくらいというところか。これだけなら見れば、水位の上下も時間制というのはそれらしくもある。

 ただそうなると、先ほどはどうしてもっと高い位置まで水位があがったのかわからない。


「やっぱり、何かがいて、やってきた者を追い返そうとしているのか……」


 先の回にはあれほどいたマーマンたちは今はその姿が見えない。これもわからない。さっきはあれほど湧いていたのに今は影も形もない。


「この時は、水の中にもマーマンはいないのか……?」


 最初の時はヴィッターラントが水面歩行で移動していたにも関わらず、マーマンに襲われなかった。

 外周通路の角にきたので道なりに曲がる。この真っ直ぐの途中辺りが、ちょうど入り口の高台の反対側になる。


 入り口から見えない塔の裏側は……うーん、正面から見た時とさほど変わらないな。いやまあ、橋なりあれば、先にマップホルダーの面々が周回した時に気づいて知らせているだろうから何もないか。


 塔から外壁へと視線を向ける。そういえば内側ばかり見て、あまり壁の方は見ていなかったけど、こっちには何かないか?

 壁に模様のようなものがあるが、文字などではなく単なる意匠か。


「うん?」


 壁の一角、模様が途切れて四角い空白があった。壁ではあるが、まるで扉の形のようにそこだけ模様がなかった。

 ……ちょうど、正面入り口の真反対か。


「これ、何か仕掛けがないか……?」

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