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第26話、橋をかける


「いやはや、本当に、あそこを渡ってくるとはね」


 タリサは呆れ顔になる。まあ、わかるよ。魚人がうろつく水辺で、飛んでくるモリを躱しながら氷で作った足場で渡ってくるとか……。我ながら、よくやったよ。


「どんなバランス感覚だよ。普通、あんな風に氷の足場を跳んで渡るとか無理だね」

「どうかな、昔やったことがあるかもしれない」


 ちょっと難しかったけど、体は上手く動いた。とりあえず、俺もヴィッターラントも辿り着いた。


 ここにいたのは、タリサと魔術師のアン、ヒーラーのジャーニー。前衛がタリサしかいなかったから、俺なりヴィッターラントがきたことで塔内から入り込もうとするマーマンを防ぐ壁ができた。……ルドーとコンロイは別の塔だ。

 俺は先にもやったように塔内の水に氷を張って時間稼ぎを行う。


「ヴィッターラント、敵が顔を出したら妨害して足止めを頼む」


 そう頼んで、俺はタリサとアンにこれからのことを話す。


「まず、ルドーとコンロイと合流しよう。各個撃破はまずい」

「それには同感だよ。だけど、今の状況で塔から出る方法がない」


 タリサは俺をじっと見つめる。


「いいかい、ウィロビー。氷を渡ってこれるのはあんただけだからね」

「足場は無理だろう」


 俺はアンへと視線を向ける。


「なによ、どうせわたしには、あんな芸当は無理なんだからね」


 魔術師だから。運動神経はよくないと彼女は言う。


「足場は無理だろうな。俺だってギリギリだったんだ」


 モタモタしていたらモリで打ち込まれて、おしまい、だ。


「だが、橋ならどうだ? 俺とアンで塔と塔の間に氷で橋をかける。その上なら渡れるだろう?」

「氷の橋! ……橋、それなら。……アン、できるかい?」

「いやいや、橋? 橋って――」


 ブンブンと首を横に振るアン。タリサは睨む。


「できないのかい?」

「やったことないもの! そんな魔法!」


 アンはきっぱりと言った。うーん、まあ、橋をかける魔法なんてそのままのものはないけど、何事も応用だと思うんだよね。


「水を凍らせて、川に橋をかけるって魔法は聞いたことない?」

「ない」

「本当に……?」


 念を押すと、アンはムッとした顔ながら眉間にシワを寄せた。


「……実際に見たこともないし、教わったこともないけど、そんなことをやったという話は…………もしかしたら聞いたことがあるかも」

「それで充分だ。水を凍らせて、道を作るイメージだ。ここは川じゃないから流れは気にしなくていい。まずやってみよう。……氷の魔法は使える?」

「馬鹿にしないで! 水を凍らせるくらいはできるわ!」


 よしよし、さすが専門の魔術師。とはいえ世の中には特定の属性を極めるためとか、あるいは適正がないからと属性が偏っている魔術師も珍しくないからな。アンが氷の魔法が使える魔術師でよかった。

 塔の上層に出る。俺たちの姿を見たマーマンがモリを投げてきたが――


「洒落臭い!」


 ブロードソードで叩き折る。水に落とさなければ、今モリを投げた奴は新しく武器を取りにいかないと手ぶらになる。……よし今だ。


「アン、あそこの塔に道を繋げるようにイメージして氷を伸ばせ」

「え、ええ!」


 杖を手に、アンは詠唱を行う。俺はその間に敵の攻撃が彼女に及ばないようにガードする。


 氷の道――

 バリバリと氷が水面を走る。お、おお、これは……。ちゃんと氷が塔まで届いた! 俺の補強は必要なかったな。


「やった! タリサ、橋がかかった!」

「わかった! ヴィッターラント、ジャーニー、そっちはもういい! 移動するよ!」


 タリサが塔の中で遅滞戦闘をしていた二人を呼ぶ。その間、俺はアンを見て、おっと! 彼女が膝を付きそうになったので、とっさに支える。


「大丈夫か? 橋はかかったぞ」

「初めてやったんですけど!」


 恨みがましそうに言うアンである。その様子だと思い切り魔力を使ったようだな。ここでへばられると敵の的になってしまう……。


「マジックポーション、飲んどけ」


 俺はマジックポーションを渡す。魔力枯渇で具合が悪かったのか、アンは迷うことなくマジックポーションを口にした。初めてで、失敗できないから全力で挑戦してくれたんだな。


「初めてであれは大したものだ。さすが本職は違うな」

「当然、これでもラウラ魔術学校の生徒だったんだから」


 ラウラ――はて、どこかで聞いたような。ふむ、よく思い出せないが、もしかしたら有名な学校だから聞いたことがあったかもしれない。


「アン、ウィロビー!」


 氷の橋を語りかけたタリサが振り返る。水の上を歩けるヴィッターラントは先導し、ヒーラーのジャーニーも続いている。


「アンは俺が運ぶ!」

「え?」


 驚くアンをよそに俺は彼女を抱えた。


「失礼。回復するまで待っている余裕がないんだ」


 華奢だなー。俺はアンを肩に担いで氷の橋へジャンプ。着地したらメキッって嫌な音がした。


「こりゃよろしくない!」


 俺は氷の橋を走る。少し前をタリサが走り、移動しながらスリングショットでマーマンを牽制する。

 何だか足元でよくない音がしているようだが!?


「氷、割れてる……?」

「急いで、ウィロビー!」


 担いでいるアンは後ろを向いている格好なので、氷がどうなっているのか見えている。その彼女が急げというのだから……、急げ急げ! 間に合わなくなっても知らんぞー!


「アン、前に魔法は撃てるかい!?」


 タリサが叫んだ。


「塔に敵が群がってる!」


 ルドーとコンロイが立てこもっている塔に攻めていたマーマンが氷の橋に気づき、向かってくる。


「後ろ向いているから、無理!」


 アンが怒鳴り返す。そりゃあ見えないと狙いがつけられないもんな。俺が後ろを向けば、彼女は前が見えるようになるわけだが、氷の橋が俺たちの重量で割れかけているとなると、方向転換していたら二人ともドボンだ。水に入ってしまったら、マーマン相手に勝ち目はない。


 ……あ、そうか。直接踏まなければいい。俺は浮遊魔法を使って、氷から浮き上がる。直接重量がかからなければ、氷の橋もしばらく持つだろう。この道をはずれなければ浮遊魔法は有効のはず。


「アン、方向転換する! 魔法で前方の魚人を吹っ飛ばせ!」

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