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第25話、水面の敵


 都市の水位がかなり上がった。

 塔を下りかけていた俺とヴィッターラントも、水位上昇が終わるまで様子見を決め込む。

 割と水が増えていく時間が早くて、もし塔の外を歩いていたら走って高いところに逃げないと水没してしまうと思った。


「……止まったな」

「みたいだな」


 最上階から見下ろせば、すぐそこまで水が上ってきていた。俺は思わず息をつく。


「このまま止まらなかったら、どうしようかと思ったぜ」

「心臓に悪かったな、本当に」


 ヴィッターラントも胸をなで下ろす。


「しかし、誰が装置に触ったんだ……?」

「――ヴィッターラント! ウィロビー!」


 別の塔から魔術師のアンが手を振っていた。


「水位上げたの、あなたたちー?」

「ちがーう!」


 叫び返すヴィッターラントである。


「そっちはーっ!?」

「わたしたちでもなーい!」


 だろうね。彼女が関係していたら、『ごめーん!』とか詫びが先だと思うし。

 それはともかく、これでまたそれぞれの組で孤立してしまったな。水上歩行できるのはヴィッターラントだけで、彼ならそれぞれいるところまで行ける。が、結局は解決にはならない。


「これは、また下の方にある宝玉のところまで潜らないと、水位は下げられないか?」

「それはそうだが……」


 ヴィッターラントは首をかしげる。


「どうして水位が上がったんだろうか?」


 さあ……。俺にはわからん。


「オレたちではないし、他のメンバーが宝玉に触れたってわけでもない。そうなると、原因は宝玉ではなく時間とか別の条件で水の高さが変わる仕掛けだったりしないか?」

「確かに」


 俺が宝玉に触れて光らせた直後に水位が下がったから、それが原因じゃないかって推測されているが、確実にそうなのかと言われると疑問符がつく。


「だが、俺たち以外に誰か、もしくは何かがいて宝玉を操作した可能性もある」

「オレたち以外の何者か……。何だ?」

「さあ……。今のところ生物らしきものは魚くらいしか見ていないけど」


 でも魚はいたんだ。それにここはダンジョンの中。モンスターがいないほうがおかしい。


「用心したほうがいいってことか」


 ヴィッターラントは表情を引き締めた。ここまで遭遇がなかったから油断していたのかもしれない。


「――ヴィッターラント! ウィロビー!」

「タリサの声だ」


 俺たちは声の方に顔を出す。アンがいた塔にタリサもいた。


「そっちに何か変化はないかいーっ?」

「なーい!」


 ヴィッターラントは返した。


「それで、これからどうするんだー?」

「これから――」


 言いかけたところでタリサはアンに呼びかけられて中断した。なにやら水面を指さす魔術師。……何か見つけた?

 タリサが再度こちらに叫ぶ。


「気をつけなーっ! 水の中に何かいるーっ!」

「水の中……?」

「ほんとだ、何かいるぞ!」


 俺はこちらの塔に近づいてくるそれを指さした。しかも結構な数がいるような。魚――いや。


魚人(マーマン)か!?」


 ざばぁ、と上半身を覗かせた魚頭の亜人、マーマンがモリを投げつけてきた。投擲されたモリは俺たちの近くに当たって跳ね返った。


「攻撃してきた!」

「マーマンは凶暴だからな」


 こいつらがこの都市遺跡ダンジョンのモンスターってやつか。ひょっとして、水位を変化させたのも魚人の仕業か。

 ヴィッターラントが塔の中に退避する。モリが壁に当たり、跳ね返った。


「まずいな。オレたち、皆孤立しているぞ」

「さらに厄介なのは――」


 俺は塔の中、中央の吹き抜けから水面を見下ろした。


「この塔そこら中に入り口が開いているから、マーマンも入り放題だ」


 つまり、塔の中も安全ではないということだ。これ、かなり状況やばくないか……?


 パーティーは別々に探索している上、水位上昇のせいで移動制限がかかっている。この孤立している状態でマーマンに包囲とか、各個撃破されるのがオチだ。


「何とか合流できれば……」


 ヴィッターラントが呻く。俺は塔の水面近くまで階段を下りる。いつ奴らがここから来るとも限らない。


「氷よ、水を覆い、屋根となれ」


 水面に氷を張る。これで奴らもすぐに顔を出してくることはないだろう。少なくとも、張った氷を割るという行動を奴らに取らせる。


「魔法か!?」

「大したことはできない。時間稼ぎだ」


 俺は今度は塔の外に出る。ヴィッターラントが叫ぶ。


「おい、ウォロビー! 外は危ないぞ!」

「中だって危ないさ。とりあえず、仲間と合流しよう!」

「だがどうやって!?」


 宝玉で操作できるとしても、水の底。マーマンがうようよしている状況で水の中に入るのは自殺行為だ。


「オレはともかく、お前は水面を歩けないだろ? 船もないのに移動は――」

「船、というか足場は作ればいい」


 俺はマーマンのモリを避けて、水面に氷の魔法を使う。


「氷よ、我が足場となれ」


 水面に氷の塊を浮かべる。幸いここは波がほぼないようだから、大きさにもよるが足場にできるだろう。理想は氷の橋を塔の間にかけることだが、俺はそこまで魔法が得意ではない。


「タリサたちがいる塔まで、氷を浮かべてそれを渡る!」

「正気か!?」


 ヴィッターラントは喚いた。


「無理だろ! 無理無理! マーマンに狙い撃ちにされる!」

「迷っている時間はない!」


 後ろ、塔の中からガッガッ、と氷を破壊しようとしている音が聞こえてきた。モリで突いて氷を砕くつもりなのだろう。マジで時間がない!


「覚悟を決めろよ!」

「ああ、わかった! くそ、オレは水面歩行で行く! ウォロビー、氷の足場で行けるんだな?」

「そのつもり、だっ!」


 俺は塔を飛んで水面に浮かべた氷の足場に着地。揺れる、というか滑る足場。俺はしゃがんで重心を下げて転覆しないようバランスをとる。着地の勢いで氷の足場は数メートル(メット)分、水面を滑った。


「氷よ、足場よ!」


 適当な詠唱で次の氷塊を作る。それめがけてジャンプ。マーマンが寄ってくるが、攻撃してくるまで無視! 着地で氷を押すように、せこせこ距離を稼いで次の氷の足場を出す。

 マーマンが攻撃してきたが、回避、回避! 氷渡りの妙技、とくとご覧あれ!

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