第24話、水位の変化
宝玉の輝きに嫌な予感がした俺は、一度水から上がるべく浮上した。
「どうした? 大丈夫かい!?」
ヴィッターラントが、水から出た俺に声をかけた。
「何が光ってるんだ?」
「わからん。触ったら何か作動したっぽい!」
罠でも発動させてしまったんじゃないかと心配になる。ふと耳から何かの音が聞こえた。滝の音とは少し違うようだが……。
「何だ、この音」
「ああ、何か聞こえるな。外か?」
ヴィッターラントが塔の外の様子を窓から見る。俺はふと、塔の中の水位が下がりはじめているのに気づいた。階段によりかかって見るが、明らかに水の量が減っている!
「水位が下がってる!」
「えっ? あぁ、そうかも。いやそのようだ」
この都市遺跡の水が引いている。どうしてそうなったかを考えれば、おそらくは――
「このデカ宝玉を動かそうとしたからか」
俺は、いまだ光っている宝玉を見下ろす。その間にもみるみる水位が下がっていく。
「変な……いや凄い仕掛けだな」
「ウィロビー! こっちへ来てみろよ」
ヴィッターラントが手招きする。窓から外を見れば。
「地面が見える」
「遺跡から完全に水が引いた……」
石畳の敷き詰められた地面。水がなくなるとこんな風なのか。壁に沿って配置されている階段も全容が見える。
「滝の水は変わらない。あれはどこに流れているんだ……?」
「たぶん、どこかに抜けているんだろう。でなきゃ、すぐに水が貯まって水浸しだろうし」
ヴィッターラントは上から下へと視線を動かす。
「見ろよ、ウォロビー。魚が跳ねてるぜ」
「気の毒なことをしたな……」
忘れ去られた遺跡。まさかこんな仕掛けがあるとは思わなかった。ここに普通に生き物が棲んでいたんだなぁ。
「おっ、タリサたちだ」
例の壁の階段を、マップホルダーの面々が下りてくるのが見えた。水が引いたことで、普通に歩いて探索ができるようになったのだ。
・ ・ ・
「――なるほど、この宝玉ね」
タリサは腕を組んで頷いた。
どうして水がなくなったのか、当然の疑問を向けられたので、宝玉に触れた経緯を説明。今のところ、これがもっとも有力な説と言える。
「何はともあれ、これで歩いて塔が調べられるね」
障害だった水が引いた結果、徒歩で塔から塔へ移動できるようになった。水中に面倒なモンスターがいるかも、という警戒もしなくて済む。
マップホルダーのリーダーは一同を見回した。
「今のところモンスターなどは見かけていないが、二人組で探索する。注意点としては、あの宝玉が水位をいじる装置みたいだから、見かけても安易に触るな。場所を記録し、あたしに報告しな。――ヴィッターラント、ウォロビー、何か他に気を付けることはあるかい?」
「ない」
「俺も」
宝玉が他にあるかは知らないが、下げる装置があるなら上げる装置もあるかもしれない。宝玉がそれとはまだ予想でしかないけど、可能性があるのを無視して事故るのは洒落にならないからな。
「よし、それじゃ手分けして調べるよ。ヴィッターラントはウォロビーと組みな」
「了解。……じゃあ、よろしくなウォロビー」
「こちらこそ」
地味に二人組と聞いた時、俺はどうなるかと思った。そもそも俺はマップホルダーのメンバーではない。お一人様だからね。組み分けでぼっちになるのはよくあることだ。
塔から出て別の塔へと向かう。他のメンバーと被らないように。……それでなくても塔の数が多い。
「遺跡の町というのはあるが、これは探索に骨が折れそうだ」
「あぁ、これだけ高層の塔だとな」
ヴィッターラントは同意した。
普通は二階とか三階で終わって、ぐるっと回って確認したら次、だもんな。これ塔の上まで確認しないといけないから何階上ることになるやら。
「今日はこの遺跡でキャンプだろうが……その頃には足腰立たなくなっているんじゃないか」
「膝に悪そうだもんな。上って下りて、階段を延々と」
「ウォロビー、あんた、体力に自信があるかい?」
「こちとら一人旅だぜ? そんなに柔なつもりはないよ」
何かあっても全部自分で何とかしないといけない一人旅。体力の維持と管理には人一倍注意している。動けなくなったらおしまいだからな。
「しかし、こうなると――」
休憩がてら窓から外を見て、大体の高さを測る。
「何か、上り下りするのに便利な仕掛けとかありそうな気がする。そうでなきゃ、ここに住んでいた奴ら――どんなのか知らないけど、上り下りが大変だ」
「確かに大変だろうけど」
ヴィッターラントは考える。
「オレらみたいに一つ一つ対策する方が大変なだけで、この塔の住人は自分の部屋以外は上り下りすることがなかったりするんじゃないか? つまり思ったほど大変じゃないってことだ」
「そうかもな。……でも、ここらは居住用の塔っぽいけど、職場とかあるなら、やっぱ上り下り大変じゃないか?」
ふむ、とヴィッターラントは考える表情になる。
「ちなみに、仕掛けというのはどんなのあると思う?」
「うーん、今のところは、あの宝玉がキーじゃないかな」
俺が思うに、水位を動かせるってのが、どうにも気になるわけだ。何かしらの仕掛けがなけりゃ、あんな機能いらないと思う。
「船を浮かべたら、水位を上げ下げすることで、乗っているだけで上や下行けたり」
「それ便利そうだ!」
ヴィッターラントは手を叩いた。
「だけど、一人の都合で、都市全体の水位調整とか危なさそうだ」
外を歩いていたら突然水位があがって……とか。うーん、確かに。場合によっては溺れるなぁ。
などと、あれこそ考えながら塔の上へと向かう。途中の部屋も見て回ったが空っぽばかり。
「収穫なし!」
「次へ行くか」
せっかく天辺までのぼったのに、また下るのか。
「長いロープとかないかな。上に結びつけて、下へそのロープをつたって下りるって」
「それができたら楽だなぁ」
ヴィッターラントも同意する。そして彼が外を見やる。
「何の音だ……? おい、ウォロビー。外の水位があがってないか?」
「え? ……本当だ」
音がしているなと思ったら、都市の水が上がってきている。おいおい、何も聞いていないんだが?
「誰かが例の宝玉を見つけて触った、とか……」
「タリサが注意したんだ。うちのメンツでそんな勝手はしないはずだが――」
いったいどうして?
「というかこの水、どこまで上がってくるんだ?」
まさか塔の天辺まで水没なんて言わないよな……?




