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第22話、塔だらけの遺跡


 水の聖地……? 何だい、そりゃ。


「タリサ。マナンティアルとは?」


 俺が尋ねると、タリサは顔を上げて、石橋を歩き出した。


「古代の伝承、水の都伝説ってやつさ。大昔、水の中に都市があったと言われている」

「水の中……」


 伝承が実際にあったとすると、そこに住んでいたのは人間とは思えないが。


「その都市の名前は、マナンティアル。人魚伝説にも似たようなものがあって、今知られているのは、ぶっちゃけ混同しちゃっているんだけどね」


 先導のルドーとコンロイは、石橋の終着点である都市遺跡の入り口に差し掛かる。今のところ、モンスターなどの姿は見えない。


「マナンティアルは伝説の場所として、過去多くの研究者が探してきた。この手の話に付き物の莫大な財宝が眠っているとか、ちょっとしたロマン込みでね。で、今のところ見つかってなかったわけだが――」


 タリサの目が光る。


「もしあたしたちで見つけたとあれば、歴史にマップホルダーの名が残るくらいの偉業と言える!」


 マップホルダーの面々がニヤリとする。探索系冒険者パーティーで食ってきたのだ。古代の遺跡発見は望むところであり、まして伝説の未開拓のものとなれば、一生の自慢となるだろう。


「それもこれも、あんたがあの空洞を見つけたおかげさね」


 タリサはウインクした。


「マナンティアル発見のきっかけを作った人物として、あんたの名前も残るだろうよ」

「まだマナンティアルと決まったわけじゃないだろう?」


 ただの遺跡型ダンジョンの可能性もある。


「それはそうなんだけどさ。……少しは夢を見てもいいんじゃないかい?」


 少し拗ねたように言うタリサである。いやぁすまんすまん。俺もちょっと謝っておく。


 しかし歴史に名が残るといっても、ウィロビーの伝説なんてそれこそ至るところにあるわけで。俺としては、今の俺が作る伝説より記憶に埋もれている方のウォロビーのことを知りたい。

 俺たちも都市遺跡に足を踏みいれる。石造りの古い遺跡、と思いきや――


「ひえぇ……何だこれ」


 無数の石の塔がそびえ建っている。細長いそれが十、二十はあるか。全体が見えないが、下を見れば地面は遥か下で、水面の底のようだった。


「地下なのに高所って、意味わからないな……」


 池がだいぶ下……飛び降りたらちょっと無事では済まない高さだった。いくつもの塔が建っていて、窓や出入り口らしき穴はあるのだが、いずれも橋などがない。


「歩いては渡れなさそうだ」


 ルドーが言えば、コンロイが高所が苦手なのか身を引いた。


「空を飛べなきゃ、ちょっと塔を調べるのは難しいな」

「タリサ」


 もう一人の軽戦士、ヴィッターラントが少し離れたところに立っていて、そこから下を覗き見ていた。実直そうな中肉中背の男である。


「ここに下への階段がある」


 試しに見に行けば、都市遺跡の外壁に沿って、長い階段が下へ下へと伸びていた。


「どこまで伸びているんだい?」

「池の先まで」


 ヴィッターラントが指さした。彼の言う通り、点のように小さいが階段が途中で池の水でちらちら見え隠れしている。


「床でもあれば、そこから塔に入れるところがあったかもしれないのにね」


 タリサは顔をしかめる。


「水が階段の途中の深さってことは、昔に比べて水位が上がっているってことかい……?」

「逆なんじゃないかな」


 俺が呟けば、ルドーもやってきた。


「ここ、本来はもっと水位があって、今はあそこまで下がったのかも」

「そう思う根拠はあるのかい?」

「塔の入り口の位置ですよ」


 ルドーは指さした。


「塔の中ほどにいくつもある。でも橋とかはない。これってここに住んでいたのが、空を飛べる種族か、あるいは水没していて、水の中を自在に泳げる種族だったと考えられないか……と」

「なるほど……面白い意見だ」


 タリサは改めて塔を眺める。


「だが、それらしい意見でもある。そうなると……ちょっと、いやかなり問題だね」

「ええ、空を飛べないオレらには、ちょっとこの遺跡の探索ができない」


 うーん、と一同が唸る。その様子だと、魔術師のアンは浮遊魔法とか飛行の魔法は使えないようだ。……まあ、俺も浮遊魔法はちょっとしか使えないけど。


「俺だけなら、行ってくることはできるかも」

「ウィロビー?」

「あんた、空が飛べるのか?」


 コンロイが首を捻る。俺の答えは当然――


「空が飛べれば楽なんだけど、あいにくとそんな高度な魔法は使えない。ただ、高さ二メートル(メット)の高さを浮遊する魔法は使える」

「それって、ここじゃ役に立たないじゃない」


 アンが肩をすくめた。


「塔の高さを考えなさいよ。池まで落ちるわよ。それじゃ塔には入れない」

「塔のところどころに足場がある。あそこまで飛べれば、浮遊魔法で無理やりぶつからずに着地できるさ」

「あんた正気!?」


 アンが目を剥く。気持ちはわかる。何せ高さ数十メットある塔のどこかの足場に乗れるよう、走り幅跳びで十数メット跳躍するんだから。落ちたら池に叩きつけられて、最悪命はない。


 今いる俺たちのいる都市入り口の高さも相当だから、多少落ちても、方位さえ合っていれば、池ポチャする前に塔のどこかの足場に乗れる脳内計算。


「仮に届いても塔に衝突して結局、下まで落ちちゃうんじゃないの?」

「そこで浮遊魔法の出番だ」


 足場まで飛んで、作用する高さに無理やりこっちが行く。それなら足が着地する前に浮遊魔法が働いて空中静止できるって寸法だ。


「むしろ心配なのは壁にビターンってぶつかることくらいか?」


 荷物を頼む。俺はコンロイに飛ぶのに邪魔になる重量物を預ける。まあ、それでも剣と盾、セブンスエポンは持って行くけど。


「無茶苦茶だわ」


 アンが鼻をならすが、タリサは真顔で言う。


「危ない橋だけど、やれるんだね?」

「そのつもりさ」


 俺は跳躍前の準備運動をする。


「まあ、失敗して死んでも、マップホルダーのメンバーではないからさ。その時は笑ってくれ」

「笑えない」


 タリサがきっぱり言えば仲間たちもうんうんと頷いた。いい奴らだな、こいつらは。


「さあ、行ってくる」


 一呼吸。しっかり助走をつけて、うおおおおおおっ、りゃっ!


 大跳躍。浮遊魔法を発動。浮遊かけてからだと走って加速できなくなるから、空中でやるしかなかったんだけど……あっという間に塔が迫る。思ったより落ちているが、届くか!? セブンスエポン、鞭モード……はいらないか!? 

 塔にぶつかる――

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