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冒険者ウィロビー 気ままに冒険者ライフ  作者: 柊遊馬


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第21話、水の都


「マジかよ……」


 そう呟いたのは、軽戦士のルドーだった。

 タリサもまた、ウィロビーと名乗った冒険者が一撃でクリスタルタートルの首を落とすのを目の当たりにして、口元にうっすらと笑みを浮かべた。


 人間、不思議なもので、驚きのあまり自然と笑みを浮かべてしまうことがある。攻撃力の高いアタッカーがいれば、と口にしてそれがいざ実際にいると、こうもあっさりなのか。

 前衛で大盾を構えていたコンロイが声を漏らす。


「さすが、ゴールドランク」


 初見で攻撃を躱すだけに留まらず、カウンターを決めて仕留めてしまった。うちのライトアタッカーならカウンターまではいけるが、それで魔獣を倒せるかと言われると疑問符がつく。人間ならまだしもクリスタルタートルは無理だ。


 探索中心の冒険者パーティーである『マップホルダー』。シルバーランク揃いで近辺のパーティーでは上位に位置する。不足しているのは攻撃力であるが、探索系で間違いがないのが売りだ。


 ――攻撃力なんて、と馬鹿にしてはいないけど、これは欲しくなるね……。


「タリサ!」


 魔術師のアンが杖を構えた。


「気をつけて。他のカメたちが――」


 一体が倒されたことで他の個体が敵対反応を示した。さすがに仲間がやられて無反応なほど鈍感ではない。

 と、そこでウィロビーが倒した個体を盾にするように回り込むと、ブロードソードをしまい、代わりに弓を取り出した。


 ――今どこからだした!?


 ウォロビーは弓は持っていなかったはず。驚くマップホルダーの面々をよそに、ウォロビーは弓を放った。それは命中と共にもうもうたる煙を吐き出した。視界を覆うような煙に、クリスタルタートルは次々に頭と手足を引っ込めてその場に丸くなった。


「タリサ、今だ!」


 何が今なのか、と思ったのも一瞬、クリスタルタートルがその場で甲羅に閉じこもって動かない。通るなら今ということなのだろう。


「行くよ、皆! ここを突っ切る!」


 タリサの指示にメンバーは全員駆け出した。うっすらとカメのシルエットが浮かぶ白煙の中をメンバーは全力で駆け抜ける。


 バシャバシャと水を蹴って大きなカメたちの間を走り抜ける。だが奥の一体が足を出して動きだした。それに気づいたウィロビーが弓から光る矢――魔法弾を撃ち込む。

 それは甲羅に当たり、まったく効かなかった。だがそれで充分だった。クリスタルタートルが足を引っ込め、防御姿勢に戻ったからだ。


 そして全員が、クリスタルタートル地帯を抜けた。


「やるじゃないか、ウィロビー!」


 タリサは合流した彼の肩を叩いた。


「驚いたね。色々ツッコみたいことはあるけど、とりあえずあの煙はなんだい? 魔法か?」

「そんなようなものだ」


 ウォロビーは答えた。


「魔法武器なんだがね、弓にもなるんだ」


 彼の持つ弓がナイフになり、彼の腰のホルダーに収まった。弓の謎が溶けた。アンが口を開く。


「それにしても煙であいつら動かなくなるなんて……。知っていたの?」

「煙が効くかは確信はなかったけど……」


 ウォロビーは少し考えて言った。


「あいつら、わからないものにはとりあえず防御姿勢をとる性質があるから」


 危険を感じたら頭と手足を引っ込める。それがタートル種の特徴。なるほど、ゴールドランクともなると経験に裏打ちされた勘にも優れるのだろう。

 コンロイが首をかしげる。


「じゃあ、最初から煙でもよかったのか?」

「いや、仲間が倒されて警戒している状態じゃなかったら、防御姿勢を取らない可能性がある」


 あっ、と誰かが声を上げた。コンロイは頷く。


「そうか。一体倒して、周りのヤツも危機感を持っていなかったから、反応が鈍くなるのか」


 とりあえず危ない状況だと思っていないと煙に即反応しない。そうなると、無理やり通ろうとしたところを煙に関係なく攻撃していた可能性もあった。

 これがソロで活動している上級ランク冒険者だ。タリサは納得すると共に、目の前の上級冒険者を頼もしく思うのだった。


 

  ・  ・  ・



 クリスタルタートルの一体を超えた。

 一体は仕留めたものの、さすがに残りをまとめて相手するのは面倒ではあった。いやまあ、時間があれば何とか全部潰せたかもしれないが……。慢心はいけないな。何でもできてしまうというのは驕りというものだろう。


 マップホルダーの面々は通路の入り口を見上げる。遺跡の一部にも見える造形。明らかに人の手が加えられている。

 魔術師のアンが瞬きをする。


「何だか、しっかり門みたいだね」


 これがダンジョンの入り口か。まだ誰も見つけていないダンジョン……こういうのは、とてもわくわくするものだ。

 いったいこの先はどうなっているのか? 天然の洞窟とはまた違った感覚だ。どうなっているのはわからないのは同じだが、いくら進んでもしょせん洞窟なのと人工物だと、何があるか期待できるのが大いに異なる。


 通路を進む。向こう側から水が流れ落ちる音が聞こえてくる。これは滝だろうか。空洞内の滝は先にもあったが、それよりも音が大きいような。

 先導するルドーとコンロイのコンビ、それに続く俺だが、通路からすぐに開けた場所に出た。


「うわぁ……」


 天井は高く、クリスタルが群生しているのは変わらない。だが複数カ所から水が流れ込んで滝となって流れていた。

 何より目の前には都市のような巨大遺跡があった。

 タリサもまた呆然となる。


「これは……凄い。まさかこんな立派な遺跡型ダンジョンとは」


 思わなかった。ああ、まったく同意だ。古代遺跡のようなこれは、これだけでも大発見ではないか。

 ルドーが振り返った。


「タリサ、この石橋を進んでいいんだな?」


 通路が奥の遺跡へと繋がっている石の橋と一体になっている。そこから下を覗き込むと、滝から流れ込んだ水で池ができていた。水が綺麗なのか水の底にも遺跡の一部があるように見えた。

 俺と同じく下を覗き込んだタリサが言った。


「まるで、伝承にある水の聖地マナンティアルみたい……」

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