表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/66

第17話、俺は冒険者


 ダンジョン探索は、冒険者の華だ。

 ウォロビー屋敷の名前につられて行って、そこで見つけた空洞。俺の記憶に直接関係があるかと言われると、正直微妙なところではある。


 だけど俺の冒険者としての気持ちが、未知を目指して探索したいという気分にさせるのだ。

 それも自然にそうなるのだから、これは俺の根っこなんだろうな。記憶のない頃からきっと俺はそういう人間だったのだと思う。


 そうなると、もしかしたら冒険者活動で、ダンジョン探索をしていたら、何かの拍子に思い出す可能性だってなくはない。

 だから……俺は行く!


 などと色々考えてみたが、建前と本音は一致していると思う。

 街道を行く定期便を載せた馬車に便乗できたので、例のウィロビー屋敷の近くまで乗せてもらった。


 先日の水汲みの少女の村も通ったが、その村宛ての荷物はなく、ほぼ素通りだった。屋敷のある森の近くで下車し、一人、ウォロビー屋敷こと、キャラマーク邸へ。


 前きた時より空気が美味しいな。

 ゴブリンの巣窟だった屋敷は、相変わらずゴブリン臭がしたが、先日よりマシな気がするのは気のせいか。


 さてさて、金色の狼の件で出遅れた分、ベリエの町の冒険者パーティーが先行しているだろうけど。

 中庭から屋敷内に入り……あー、これ屋敷の正面から入ってもよかったか。空き家だから、せっかくだし、ゴブリンが潜んでいないか捜索がてら中を通ってもよかったが……まあ、いいか。


 そのゴブリンの気配は今のところなし。先行した冒険者が片付けたのか、あれから地上には出てきていないのか。


 地下室への階段のある部屋に行くと、壁の高いところにマーキングがあった。日付が書いてあるのは、間違いなく探索に入った冒険者パーティーだろう。

 きちんと真面目に記録を取る探索パーティーだな。俺みたいな観光気分と違って、頼もしいね。

 とはいえ、俺も入るからには、適切にマッピングとか記録は取るよー。


 前回入った時、中の空洞、結構大きかったからねぇ。もしかしたら先行組が行ってない場所に行ってしまうかもしれないから、記録は大事。

 特に打ち合わせとかしていないから、被ったり被らなかったりなんてわからないし。まあ、被ったらクロスチェックの材料になるので、どの道無駄ではない。


 地下室の横穴――ここにもちゃんとマーキングで日付と番号が振ってある。道なりに進み、流れの早い地下の川を通り、滝に到着。

 広いなぁ。先行組は……見えないな。さくさく探索しているのだろうな。どこへ行ったかわからないが、こちらはこちらでのんびりやらせてもらおう。


 魔法鉱物のクリスタルがちらほら見える空洞。滝の下まで下りてから、改めて滝の近くによって見上げようと思ったら――


「何か、滝の向こう、光ってない……?」


 ひょっとして、滝の向こう側に洞窟があるとか? うーん、気になるねぇ。しかし残念、滝の周りはちょっとした池になっていて、深くなっている――


「こともない、か……?」


 ひょっとして、ここ浅い? 滝の水は空洞内の川に流れていて、実はそこまで水が貯まっていないのかもしれない。


 剣の鞘で底面を突いてみれば……おお、浅い浅い。耐水性のブーツでビチャビチャやれるくらい。

 試しに水辺を歩いたんだけど。


「……さすがに滝壺は抉れているな」


 上から落下した水によって削られ、きちんと深くなっていた。そうだよなぁ、知ってた。あまり装備は濡らしたくないが……。


 しかたない。滝の裏に本当に空洞になっているかわからないし、ちょっと様子見といこう。ということで脱衣脱衣。盾を外し、バッグやポーチを外し、鎧を外し、ブーツを脱ぐ。


 パンイチ! ブロードソード! 腰にセブンスエポンと予備のサンダル!


 ということでドボン! 防御魔法を頭上に展開。これで上から落ちてくる滝の水から身を守る傘代わりに利用。器用貧乏な俺の防御魔法でも、それくらいはできる!

 ……それでも四苦八苦しながら、滝へ突入。裏の穴にたどり着いた。ひぇえ、水浸し。そりゃ泳げばそうなる。


「……割と先がありそう」


 サンダルを持ってきて正解。さすがに洞窟内を素足で歩くのは危ない。正直これもないよりマシ程度だけど。

 穴からクリスタル状の魔法鉱物があって、それがキラキラ光っている。さて、この先には何があるのかな……?



  ・  ・  ・



 えー、と……。これは。


 人骨が、二人……かな。寄り添うように骨になった人が地面に倒れている。片方は大人、小さい方は子供かな。

 抱き合って死んだ、というところか。死後、数年といったところだろうな……。服もボロボロになっているが、元の造りからすると割と上級民のようでもある。


「……」


 これは、あれかな。一族郎党皆殺しにされたというキャラマークの人間。子供の方は水汲みの少女がいっていたあの子ではないか?

 もちろん、思っただけだ。実際、兄弟姉妹がいて、あの子本人ではないかもしれないけど……。


 もし本人だとしたら、こんな洞窟の中で死んだなんて……。悲しいなぁ。

 埋葬……は岩だらけで道具なしでは掘れない。持ち帰る……いや滝と泳ぎでグチャグチャになってしまうか。火葬……魔法で火は起こせるけど、こんな狭い場所でやったら俺がお陀仏だよ。


 結論、このままそっとしておく。ギルドに報告したら、どうにかしてくれるかもしれない。ここでどうにかできるのならやっていくけど、残念ながら他人任せにするしかないな。


 俺は黙祷を捧げた後、奥まで確認した。特にこれといってなかった。

 俺は引き返しながら考える。


 水汲みの少女曰く、キャラマークの親子は突然いなくなったと言っていた。おそらく身内の反逆罪が一族に及ぶと知り、逃げたのは間違いない。どこへ逃げたか謎だったわけだが……屋敷の地下室の穴を通って、この空洞へ逃げた。そして滝の裏に穴があると知っていて、そこに隠れたが、ここで死亡した……。


 うーん、結構無理がある説か。逃げてきた割に、隠れ住むための物資が持ち込まれた形跡がない。食料などがなければ隠れ住むことはできないから、身一つで逃げるとも考え難い。夜逃げする時だって家財道具は持ち出すということだ。


 その準備の暇がなかった、ということなんだろうか。……考えても、当時のことはわからない。

 これ、どうするかな。あの水汲みの少女に教えるべきか。それとも、黙っているべきか、な……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ