第16話、盾を買う
俺は、金色の魔獣を自分でも思っていた以上、討伐していたらしい。あいにく覚えていないから、冒険者ギルドの人に頼んで、俺の戦績を教えてもらった。
ギルド間で、冒険者の記録のやりとりができるからこそ、できることではある。もちろん自分の記録だから見せてもらえただけで、他の冒険者の記録はまた別だろう。……ま、そんな見たいという冒険者は思いつかないけど。
それはそれとして、今回の指名依頼はたぶん、俺が金色の魔獣撃破数が多かったからだったんだろうな。ゴールドランク冒険者だから、というわけではなかったかもしれない。
……本当に十五体、倒しているわ俺。
記録を流し見したけど、それ以外にも結構大物を討伐している。これが本当であれば、俺がゴールドランクの冒険者なのも納得だ。覚えていないから、すっきりはしないけど。
「どうもありがとう」
「いいえ。……また何かありましたら、お願いします」
はーい。ギルド職員に見送られて、冒険者ギルドのフロアを横切る。
「――金色の狼、討伐されたって」
「へえ、早いな」
「どうやら、金色の魔獣退治のプロがいたらしいぜ」
へぇ……。通達事項の情報が更新されたからか、もう話題になっている。俺は知らんぷりをして、ギルドから出た。
さてさて、もう昼回っているんだよな。例の屋敷と洞窟探索は、明日以降にして、今日はこれから盾の調達をしよう。
愛用の小型盾が黄金にされてしまって、防具としては甚だ頼りなくなってしまったからだ。
俺がこの町にホームでも持っていれば、愛用品として記念に残してもよかったんだが、一人旅の真っ只中。不要な装備を持っていく余裕がないから、処分するしかない。
ということで、冒険者ギルドで紹介された武具屋に近い場所から行く。
一件目。
冒険者の初心者から中級者向けの武器、防具が揃う店。量産品を多く取り揃えていて、お金があって冒険者であれば、その場で即購入も可。
ということで、いくつかバックラーを見たんだけど、あまり好みのものがなかった。
練習用の木製の小さなやつとか、バックラーというにはちょっと大きめのものとか、しっくりくるものがない。
オーダーメイドという手もあるが、明日にでも探索に出かけたいという事情もあるから、市販品で間に合わせたかったんだけどな。
まあ、別に期日があるわけでもなく、仲間もいない一人旅だから、そんなに慌てる必要もないが……。
何かあった時に盾がないというのは、よろしくないし落ち着かない。
防御範囲が狭く、扱う際にそれなりのコツが必要になるバックラーだが、金色の狼と戦った時だって、あれがなかったら最悪腕一本なくしていたかもしれない。
あれで、獣の噛みつきに対して強いんだ、バックラーは。
手甲で防ぐという手もあるし、盾を嫌う冒険者はそれで腕を守っているけど、野生の獣の噛みつきは、鉄をも貫くこともある。
それで左腕を失うリスクを考えれば、小型とはいえ噛みつきにくい小型盾は腕を守る有用な防具だ。
『装備品はこだわるべし』
俺たち冒険者の間で、先輩から新人へ伝えられる伝統である。命を守るものは、惜しんではならない。それが命取りになることもあるから。
「……」
次の店へ行こう。
防具店。先ほどの武具店と違い、武器はなく、防具だけを取り扱っている。専門店といっていいのかな。品揃えは、武器がない分、充実している。
壁一面にかけられた盾の数々。木、鉄、少数だが魔法金属でできたものもある。
その分、お高いんだけど、たとえばミスリルであったなら、魔法に対する防御性能にも優れている。ゴブリン・マジシャンとか、モンスターの中には魔法を使ってくる者もたまに現れるから、あって困るものではない。
ただ高価な装備は、同じ人間から狙われる可能性もあるのが怖いところ。スラムなんかで、そんな装備で移動したら、追い剥ぎにあってしまうだろう。ベテランならともかく、新人だったりしたら、まず助からない。
黄金に侵食された盾を破棄する理由も、防御上の問題に加え、この手の金になりそうなものを持ち歩くことへの警戒が含まれている。
「いらっしゃい」
店の奥から店主らしき年配の男性が出てきた。なお店番はカウンターにて、防具を磨いている。
「お客さん、何をお探しで」
「盾をね。前の依頼で、駄目にしてしまってね」
俺は答える。店主らしき人物は頷いた。
「盾と言っても色々あるからね。ラウンドシールドにカイトシールド、タワーシールドその他、大小様々だ」
そこで俺は、先に店主が聞いたのは、防具の種類ではなかったことに気づいた。盾の棚を見ていたから、どの盾を探しているのか、という確認だったのだ。
「探しているのはバックラーだ」
「なるほどなるほど。あんた、冒険者だろう?」
「……非番の騎士って言ったら?」
「騎士様だったら、こっちのカイトシールドを進めるね」
馬に乗って戦う騎士が、馬上でも取り回しやすいように下側の形状を工夫したものだ。冗談はこのあたりにしておこう。
「昔使った……かなぁ? 憶えがあるような、ないような。それよりもバックラーだ」
店の人の助けを借りて、バックラーを購入。腕に固定するバンドも、その場で調整してもらって――
「盾用のカバーがあるけど、つけるかね?」
もちろん、追加料金なんだろうけど。武具は基本お高いからね。たとえばオーダーメイドの鎧となると、家が建つくらいするからね。
「時間がかかる?」
「紋章を入れると、二週間くらいかな」
「いや、俺は紋章とか家紋とかないから」
「騎士様なら、あるのにな」
冗談で返された。貴族や騎士となると、それぞれ自分の紋章を持っている。わかりやすいのは旗だが、盾もまた紋章アピールに使われる防具だ。戦場で盾を見ると、それぞれ紋章やパターンが入っていて、それである程度識別できたりするから面白い。
「俺は冒険者なんでね。カバーだけもらうよ」
金属が熱で熱くなりすぎないように、とか、水から守るために、カバーは有用なんだ。俗に言われる皮の盾って、木製の盾に皮のカバーが被せてあるものだったりする。意外と馬鹿にできないものだよ、皮もさ。
「どうかな?」
「悪くない。いい感じだ」
ふだん使いしていたものより、若干重く感じるが、今回選んだものがこれが一番近い。そのうち慣れるだろう。
これにて盾の調達、完了だ。




