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第14話、上級討伐依頼


 宿で朝食をとった後、冒険者ギルドに顔を出した。


 何というか、冒険者の日課というべきか。ギルドがある場所だと、朝のはじまりはこれ、という気分になるのだ。

 覚えていないが、たぶん俺も駆け出しの頃は、毎朝クエストを求めて、ギルドに通いつめていたのだろうな。


 先日の地下探索をすると俺の予定は決まっているので、ギルドから冒険者への通達事項を確認する。

 どこぞに上級モンスターが現れたから近くを通る時は注意しろ、とか、この国のどこかで紛争が起きたとか、時事ネタを得る意味でも割と役に立つのだ。


「コルト峠に、金色の狼……?」


 同じく確認にきていた冒険者がざわついている。


「――金色ってあれだろ? 呪いの」

「そうそう、噛まれたら、そいつも黄金になっちまうとかいう」


 呪いの魔獣。そうそうお目にかかるものではないが、大変危険な魔獣だから、特Aランクとか下手したらSランクなんていう上級認定されている。


 通達事項の説明にも、金色種は危険なので近づくなと警告がかかれている。倒せば莫大な報酬が得られるが、それにつられて討伐にいく連中は大抵返り討ちになって、体の一部が黄金になって切り落とす羽目になったり、あるいは全身黄金になって死亡したりする。


「あ、ウィロビーさん」


 昨日の事務型男性スタッフが、俺に気づいて声をかけてきた。


「ちょっと、よろしいですか? 緊急の案件がありまして」

「……はい」


 何となくお察しだが、談話室まで連れていかれることになる。


「金色の狼なんですが――」


 ほらね。察していた。


「ウィロビーさんに討伐を依頼してもよろしいでしょうか?」


 ギルドからの指名依頼だな。俺のことをゴールドランクであることしか知らないだろうから、指名と言ってもランクで選ばれただけだろうけど。


「俺でいいの?」


 昨日きたばかりのよそ者だけど。


「お願いします」

「わかりました」


 他に都合がつけば、俺に声をかけなかっただろうから、そういうことなのだろう。

 地理に疎いので、コルト峠の場所と地理と、金色の狼について現時点でわかっている情報を教えてもらう。


「――現地までは、ギルドの用意する馬車で送迎いたします」


 俺がパーティーを組んでいない一人(ソロ)だから、運んでくれるらしい。まあ、戦果確認が主な理由だろうけどな。仕事の完遂、もしくは俺が討伐に失敗した時のための。

 今日の予定はキャンセルだな。



  ・  ・  ・



 ギルドの馬車で、目的地まで移動。俺は荷車に乗っているのだが、これ、倒した後の狼の死体を回収も兼ねているんだろうな。

 狼一頭を持ち帰るなんて、俺ひとりじゃ無理だろうし、色々手間が省けるから悪い話ではない。……まあ、俺が討伐できるかという根本的な問題もあるわけだが。


 今回、俺の他、ギルド職員一人が御者として同行。治癒魔法を得意とするクレリック系女性冒険者が一名ついてきた。


「ひょっとして、黄金の呪いを解除できたりする?」


 尋ねたら、ブンブンと首を横に振られた。若い冒険者で、緊張しているのか、元からなのか、ほとんど喋らなかった。

 数時間をかけて、コルト峠へと移動。


「ゴールドランクの旦那!」


 御者のギルド職員――元冒険者であるその男が振り向いた。


「そろそろみたいですぜ!」

「……ああ」


 そうみたいだ。道端に、何とも奇妙な黄金像が――


「ひえぇ、これ、アレだよな?」

「ええ、たぶんソレです」


 阿吽の呼吸で、御者は察して言った。


「金色の狼の噂を聞きつけたか、たまたま通りかかったか。金に目がくらんだ者共のなれの果てですな」

「……」


 クレリックちゃん、絶句。冒険者か、はたまた盗賊か。武装している男と女が十人、黄金になって果てている。逃げようとしてやられた姿や、痛みにのたうちながら黄金となってしまった姿もあった。


「これは全部持ち帰れないですな……」


 皮肉げに御者のギルド職員は言った。……そうだな、馬車の荷台のキャパシティをオーバーだろう。


 最初の被害者は別として、この人数は後からきた奴らだろうが、黄金を求めた結果、自分たちが黄金になってしまうという皮肉。この呪いの怖いのは、一度黄金になったら元に戻すのはほぼ不可能だってことだ。


 溶かされて延べ棒になっても、それが元人間だなんてわからない。中まで金になってしまう恐ろしい呪いなのだ。


 早々に退治しないと被害者が増える。過去、犯罪組織が、奴隷や老人子供を捕まえて、金色の魔獣に襲わせて、黄金に変えたところを回収するという恐ろしい犯罪の事例もあったらしい。事件が長引くのは別の意味でもよろしくない。


「下がっていろ」


 俺は荷台から飛び降りる。金色の狼が、この近くにいる……そんな気配がする。その証拠に、黄金になっているのは人間ばかりではなく、近くの木などがポツポツと黄金に変化していた。

 この近くの木などを引っ掻いたりした痕跡だ。この様子では、この辺りをテリトリーに定めた可能性も高い。


 ……やれやれ、こういう棲んでる場所を黄金に変える魔獣は、どこからやってきているんだろうな。痕跡を辿ることができれば、わかりそうなものだけど、不思議なことに、以前はどこにいたのか、そういうのがわかった試しがなかった。


 ブロードソードを手に、正面に左腕のバックラーを構える。右から左、その逆へ視線を素早く往復させる。


 ガサっ、と草が動いた。次の瞬間、金色の狼が飛び出してきた。タン、タン、という地面を蹴って、あっという間に距離を詰めて肉薄……!


 速過ぎ!

 ガッと衝撃。体当たり。左手――バックラーが噛みつきを阻止するが、その小盾が傷つけられて、黄金化する。


 だが、肉を切らせて骨を断つ!

 右手のブロードソードを叩きつけて、噛みつく狼の首を狙う。


「!」


 斬れなかった。さすがに力が分散している。姿勢も全力の振り下ろしに向かないが……もう一発!


 ドスンと首に突き刺さるが、両断まではいかない。だが狼には衝撃となり痛みもある。金色の毛並みはしていても、体が金というわけではない。


 ばっと、狼が離れた。よろめく金色の狼。その怯みの隙を衝いて、両手で持ち直したブロードソードを断頭台の刃の如く振り下ろす!


 斬!

 両断した手応えあり!

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