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#6 「影からの一筋」

怪異に知性が芽生えることは珍しくない。

それは、自身の目的を効率的に行うため。

そうでなければ、意味もなく、本能のままに動くだけ。

まあ無生物に『本能』があるかといわれれば、首をかしげるが。

この人体模型の目的とは、『仲間』を増やすコト。

ソレは、この化学室、そして人体模型に向けられた、多くの感情によって生まれた。

『憂鬱』『不気味』『怒り』そして『学校の不思議としての噂』

多くの負の感情や、人々の念が、ここに形を持って現れたのだ。

そして持つのは、『触れた生物を侵食し、自身の眷属へと変える能力』。

完全な変化までは約10分。しかしそれを理解できるほど、ソレに知性はない。

怪異として、この狭苦しい化学室から出ることはどうしようとかなわない。

正直、何度か脱出を試みたことはあった。

それが、この場に集まった感情から生まれた自分の運命などだと、薄々気付いていた。

だから、興味本位で寄ってくる生徒たちは、ソレにとって、恰好の獲物だった。


ソレにとって、自身を縛り付けるこの化学室は、自身の力によって自在に操れる、最高峰の要塞でもあった。

これまでの生徒は、完全な密室を作り出して襲えば、ほとんどほとんどが蛇に睨まれた蛙といったほどだった。

だが、そんな経験は少ない。

いつだったか数人、おもしろ半分でスマホを構えながらやってきたが、そこから情報が出たからか、そこから段々と、生徒たちが忍び込むことは減っていった。

おもしろみのないやつらだ。ちょっと3,4人、眷属にしてやっただけだと言うのに……

まあいかんせん、今目の前にいるヤツらは中々面白い。

最近となっては珍しい来客だ。しっかりもてなさなくては。


----------


ヤバい。

マジでヤバい。

コイツここまで速いとか聞いてないんですけど!!

そりゃあユカリも対応しきれないわな………

ま、ここまでやられっぱなしじゃ面白くないし、痛い目見せなきゃいけないよね……!!


目の前の小柄なガラクタ。

炎の壁という第1の壁は破られた。

ニヤリと笑い、手をコチラへ伸ばしてくる。

勝利を確信したというか、してやったりといった、嫌な笑顔だ。

ヤツにとって私の返した笑顔は、どう映っただろうか。


-----


怪異は、そのプラスチックの眼球に映った赤髪の少女を不気味に思っていた。


(何故コイツは笑っていル? 自身の負けを悟りおかしくなったカ?)


その答えはすぐに出た。

手を伸ばした先にある女の顔面、そこに手が届きそうになったときだ。

熱い。

まるで燃えるように。

いや、正しくは燃えているから。か。

レイナの炎は、何も手足からしか出せない訳ではない。


【???】

自己完結型 放出系 異質能力

自身の身体に炎をまとう能力。

魔力により生成された炎のため、使用者本人は熱を感じない。

炎を自在に形作り、幅広い活用が可能となる。


右目周辺を炎で覆ったレイナは、怪異のみぞおちへと一撃を喰らわせる。

不意の反撃に、怪異は吹き飛び、化学室の隅に追いやられた棚へと激突した。

使われなくなり久しい物品達と、乗っかった埃が宙を舞う。


「っしゃあぁぁ!! どんなもんじゃい!!」


してやったりと、レイナが叫ぶ。

ようやっと、鬱陶しい羽虫を捕らえたかのような感情だった。


散乱したボロボロの物品達にまみれた怪異に、1人の男が近づく。

男は、黒いパーカーと青いズボン、ジーンズのような物を観に纏っていた。

背格好は高く見えるが、フードで顔は見えない。

男は、懐から注射器を取り出した。

中にはいかにも毒々しい紫の液体が満ちている。

その針が、怪異へと突き立てられる。

意外にもすんなりと入った針を伝い、怪異へと液体が流し込まれた。

それから数秒すると、怪異の身体が大きく跳ねた。

無理やり力を流し込まれたような、そんな現象だった。

すると、怪異の身体が段々と膨張を始めた。

体つきは、筋骨隆々、又はソレを超越したようなモノとなる。

そして、ドス黒い手足にも、その筋肉はおよび、実体を持ち出来上がった。

一種の『進化』といったところか。


子供のような体格をした人体模型は、いつしかボディビルダーをも凌ぐような、巨漢。いや、人間離れした化け物へと姿を変えたのだ。

怪異はギリギリと歯を軋ませ、出来上がったばかりの両腕を握り、目を見開いた。


埃による幕がはけると、中からさっきとは違った雰囲気の影が見えた。


「ちょっと......何アレ...?」


4人はこの現象に驚きを隠せなかった。

それは、怪異についての知識を持ったミノルでさえだ。


「おかしい.........こんなケース......今まで聞いたこともない......!」


怪異の進化などというものは珍しくない。

前述した『知性の発生』などいい例だ。

だが、目の前のこの現象。

これは明らかに不自然だ。


しかし、どうあれ対処しなければ、自身の命が危うい。

怪異に向かって、走り出した2人の影があった。

炎を纏った赤髪と、爪を伸ばした金髪だった。

2人は、肥大化した怪異へと、それぞれ攻撃を行う。


「クッソ……!!」


強化された肉体には、先ほどの殴打も意味をなさず、コムギの斬撃は、かろうじて傷を与えたほどだった。

しかし、その反動か、コムギの爪は、たったこの一撃で、刃こぼれのように、鋭利さを失っていた。

2人の攻撃を同時に受け、怪異は少し揺らいだものの、ほとんどたじろぐことなく、反撃を始めてしまった。

雄叫びのような呻き声をあげ、拳によって2人は軽く吹き飛ばされてしまった。

さっきまでの戦況から、完全に逆転されてしまったようだ。

激突の衝撃が、2人を襲う。

反撃をする気力すら、その痛みとレベルの違いにより、失われてしまった。


絶望が空気を包む中、転機は訪れた。

どこからか、ガラスが割れたような衝撃音が聞こえた。

それは、ピロティ側の窓。

その一角で、カーテンが揺れていた。

前には、足を肩幅で開き、しっかりと構えた1人の少女がいた。

後でひとつにまとめた黒髪は、窓外から流れる夜風に揺られていた。

一直線に揃った前髪の下にある目を開き、橙色の瞳が見える。


「ちょいちょい……次から次に何よ!!」


レイナが叫ぶ。

その様子を見て、一拍おいてから、少女は口を開いた。


「まったく……物音がしたので来てみたら……怪異でしたか。 仕方がありません……少し、乱暴させていただきます。」


淡々と、彼女がそう言うと、呼吸を整えて空手の構えをとった。

極限の集中。

その境地に、思わず誰もが息を呑む。

凪いだ水面のように、美しさまで感じさせる無駄のない間合いから、それを崩さない洗練された動きが繰り出される。

居合斬りのように高速で怪異を駆け抜けた彼女の拳から、嫌に生物的な液体が垂れ落ちる。

怪異の腹部、その中央に開いた風穴から、向こう側が容易に見えていた。



圧力波(インパクト)

外界影響型 放出系 異質能力

拳を纏う物質、大気や水といったモノを圧縮し、拳がどこかに衝突した瞬間に発散させる能力。


【部活魔法 - 空手部】

競技、形としての空手を、護身術として完全に昇華し、運動神経を極限まで高めることが可能となる。


彼女はこの2つを組み合わせた。

大気を高度に圧縮し、限界まで高めた身体能力と反射神経により、真正面からの攻撃を可能とした。

高速でかつ強力な一撃を繰り出すことができたのだ。


腹部に重傷を負った怪異は、痛みに堪えながら背後の少女へと拳を向ける。

この負傷による報復のため。

ここまでの傷を負ったこと、そして完全なる死角にいたことで、難なく攻撃への道筋は作ることができた。

しかし、現実とは残酷なものだ。

研ぎ澄まされた感覚か、それともこれまでの戦闘経験か。

彼女が振り返る頃には、構えが完成し、容易にカウンターを繰り出せる状態だった。

拳が衝突して一呼吸おいてから、怪異の体液が飛び散る。

それは、殴打による出血だけではない。

一撃目で彼女の拳にまとわりついた血液。

それを彼女は圧縮し、攻撃の手段としたのだ。

手榴弾のように散乱する水滴が、ダメージを広げる。

怪異が反撃をすることすら、彼女の手のひらの上だった。

全ての水滴が、地面に落ちるのと同時に、怪異の巨体は膝から崩れ落ち、活動を停止した。

じりじりと、燃える灰のように、怪異の肉体が消滅する。

それを確認したかと思うと、少女は、まっすぐとミノルの方へと歩き出した。


「……もうっ!! だから危ないって言ったでしょ!!」


先程の雰囲気からは想像もつかない声色だ。

しかし、怒りという感情はハッキリとわかる。

苦笑いのミノルに叱咤の声が向けられる。

その様子を見て、レイナが口を開く。


「何? ミノルの彼女??」


「かっ……!!」


少女の仏頂面が、崩れ、赤らむ。

冷酷な殺戮マシーンかと思ったら、意外と可愛げがある。

少々取り乱した彼女は、咳払い、身なりを整えて、改めてレイナ達に向き直った。


「少々乱れましたが……改めて、私は、総合商業科2年、生徒会役員、永井 ユミと申します。」


ユミは、自己紹介を終えると、深々と頭を下げた。

頭を上げ、再度口を開く。


「遅くなりましたが、ここに来た目的を───」


ユミは胸元のポケットから、1つの封筒を取り出す。

中からは、3つ折りになった白い紙が出てきた。

その紙を掲げ、レイナに見せる。


【証幻症状未登録生徒への警告通知】


「アナタ……それほどの力を持っていながら、学校への登録が済んでいないようですが……このままだと、学校側から()()()()()()()をしなければいけなくなりますよ」


無表情な彼女から淡々と、事実だけが伝えられるのだった。

さてさて、お待たせしました……!!!

誰だこんなにほっといた奴()

えぇ、リアルが高3の1学期ですよ。けっこう大事な時期。

学校で万博行ったり、テスト始まったりと……色々やってたらこんなにも空きました。ゴメン。

次回はいつになるやら……今テストが終わって、ちょっとした余裕()ができたのでそのうちに!! と、皮算用しております……

気長に待っておいてください…!

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