#5 「大和実践の不思議」
放課後───。
同級生はほとんどそれぞれ部活動や遊びに向かい、教室にはいつもの3人と青井ミノルだけが残っていた。
「あぁぁ〜〜なんか暇!!」
机に突っ伏してレイナが叫ぶ。
あのムキムキマッチョとの喧嘩から1週間と少し、しばらくはそんなこともなく、ただ流れるままの生活だった。
レイナにとって、転入から濃かった数週間が恋しくなっていた。
「そんなこと言ったって……この前のアレも指導されなかったのが奇跡ぐらいなんだから………」
ユカリが言う。
駄々をこねるレイナを諌めながら、だらだらと会話を続けていると、駄々っ子が口を開いた。
「もぉぉ〜!! ミノル!! なんか面白いコトないの!?」
スマホを見ていたミノルは驚く。
まさかこの矛先が自分に向くのかと。
彼は取り乱した表情を立て直し、考えながら言った。
「えぇ……そんなコト言ったって都合良く面白いコトなんて………あるかも」
「「あるんかい!!」」
ユカリとコムギが口を揃える。
スマホで記事を探し出したミノルが話し始めたのは……
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【大和実践に棲む怪異その1-荒ぶる人体模型】
……なんともありがちな、いわゆる“学校の不思議”的なものだろう。
たしかに人体模型は、この校舎にある“化学室”にある。
しかし、こんなものは単なる都市伝説だ。
いくら暇といえど、こんなもので肝試しとは、舐められたものだ。
そう思ったレイナは、その真意を尋ねた。
その疑問に、ミノルは答える。
「これはただの都市伝説じゃないよ。今はこう言った話も、シグナリウムで現実に起こっている。」
ミノルは説明を続ける。
「そう言った現象は『怪異』と呼ばれるんだ。怪異には3種類あって………」
怪異には種類がある。
1つは、人々の感情や記憶、伝承などがシグナリウムによって力を持った『怨念型』。
もう1つは、生物や物体にシグナリウムと力が宿った『変異型』。
そして、それらの複合、またはどちらにも属さない『不明型』。
今回の事案ならば、物体の変異ということで『変異型』か、はたまた複合系の『不明型』と言えるかもしれない。
その話を聞いたレイナとユカリが、目を輝かせてミノルの前に立った。
「「行こう! すぐ行こう!!」」
テンションの上がった2人に連れられ、4人は化学室へとやってきていた。
職員室から借りてきた鍵を通し、建て付けの悪い扉をこじ開ける。
数少ない実験でしか使われない化学室は、経年劣化で少し錆びつきを見せていた。
汚れの染みついた床を歩き、人体模型を探す。
曇り空も合わさり、薄暗くなってきた放課後の雰囲気が、やけに不気味に感じた。
「人体模型って……ここのどこにあるの?」
「たぶんだけど……こっちの方に………」
専門教科の都合、生物の教科が省略される大和実践では、人体模型は化学室の奥に布をかけられて保存されていた。
布を外すと中から出たのは、埃にまみれ、傷のついた死んだ目をした模型だった。
まぁ生物ではないから生きているも死んでいるもないが。
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【大和実践に棲む怪異その1-荒ぶる人体模型】
大和実践高校1階の化学室。
放課後になり生徒たちの賑やかな声が離れると、ボロ布を被せられた人体模型が、目を覚ます。
ソレは自由に、硬い関節を鳴らしながら化学室の中を歩くという。
20XX年X月某日、イタズラ心で忍び込んだ生徒が数人失踪し、その日から化学室から聞こえる物音が増えたという噂が出回っている。
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「なんか……不気味ではあるけど……」
「見る限り特にこれといっては………」
不満げな声がポツリポツリと出る。
対してミノルは、これも都市伝説というものさと答える。
全ての都市伝説だったり怪談が、怪異となるかはかぎらない。
こう言うものは、単なる噂止まりが普通なくらいだ。
少し落胆しながら、はしゃぎすぎた自分たちを嘲笑したように、4人は扉へと向かう
「………あれ?」
扉が開かない。
鍵がかかっているようにビクともしないが、内側から操作できるはずの鍵は『開』である。ガチャガチャと操作しても、扉自体が動く気配はなかった。
4人がざわつき始める。各々が扉を動かし、数分間葛藤してみたが効果はなかった。
「……もしかして………」
「………出られないってこと……?」
1つの結論が、4人の中から出始めた。
明らかな異常事態。
ここらから脱する方法を捜さなければならない。
この中で1人、ミノルには気がかりがあった。
「……! まさか……!!」
そう呟き駆けるミノルは、勢いよく"あの布"を引く。
あらわになったその空間には、さっきまであったはずの人体模型がなかった。
「これって……………」
数秒の間、沈黙が流れる。
全員の思考が再開したのは、ほとんど同時だった。
"怪異"だ。
そこからの4人の行動は、パニックながら中々スムーズなものだった。
まず、人体模型を捜し出す。
それが、最も優先され、共通の認識て行われた。
噂の記事が本当だとすると、この怪異の原点は“人体模型”。
怪異は、本体とされる位置に核があり、ほれを破壊することで、怪異を消滅させられる。
逆に言えば、その核を破壊できなければ、永遠にここから出られることは叶わない。
4人は警戒し、互いに背中を向け、全方位に視界を向ける。
能力者4人による、本気の索敵。
しかし、その若さが、ある時には未熟として弱点となる───
一瞬。警戒が解けたユカリの目の前に、小柄な人影が見えた。
気づきまでのほんの少しの間。
それがこの戦況によって、まずひとつ目の分岐点となった。
腕を交差し、衝撃に備える。
遅れが出たといえど、人影の到達まではまだ時間がある。
薄暗い中から影が晴れ、無表情なプラスチックが現れる。
本来ないはずの手足を、ドス黒い煙のようなモノで補ったその身体は、人工物とは思えないほど、しなやかに動いていた。
そのドス黒い右腕は、防御を構えるユカリへと向かう。
それは殴打などという物騒なモノではなく、単なる接触。
しかし、それこそが目的であり、怪異の勝利条件だった。
「えっ……!? 腕が………!!」
ユカリが驚く。
その声につられて、他3人の視線がユカリの腕へと集まる。
その腕は、触れられた部分から徐々に、プラスチックのような質感へと変化していた。
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やられた………
これが、これこそがあの怪異の力。
『触れた生物を徐々に同族へと変化させる』といったところだろうか。
しかし困った。
固められた腕は動かず、感覚もない。
私の場合、両手が使えないということは、能力に制限がかかるといっても過言ではない。
水晶の生成には、手による補正のようなモノが入るのだ。
脳内のイメージだけでは、不完全な具現化のイメージを、手の動きによって完璧なモノとする。
これは、おそらく『放出』や『具現』の能力を持つ人間なら、ほとんどの人が行うことだと思う。
もし、一切の補助なく、生成を制御できる人がいたとするなら、その人は、魔力の操作技術や脳内で行うイメージ力がとんでもなく高いということ、例えるなら、“定規を使わずに完璧な直線を描くこと”といったところだろう。
このまま行くとおそらく、完全に変化が完了するまで、約10分ほどだろうか。
それまでにこの怪異をなんとかしなければ、この身体がどうなるのか、全くわからない。
私の中で、不安と焦燥が、じわじわと頭の中を支配していく。
「ユカリ!!」
レイナの声だ。
彼女は本当によく動く。
だからこそ、少しは気がまぎれるような気がした。
しかし、油断はできない。
正直言って、私たちはこの怪異を舐めていた。
単なる噂話か、怪異としてもかなり下位のモノだろうと、しかし現実とは残酷なモノだ。
“触れたら勝ち”ד俊敏”とは、あまりにハードがすぎると思う。
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自嘲的になるユカリを見て、彼らは思う。
このままでは全滅は時間の問題だ。
なんとかして、あの怪異を倒さなければと。
懸念点は2つある。
1つ、相手の詳細が一切不明なコト。
今わかっている情報は“怪異”、“触れられたらヤバい”、“速い”の3つのみ。これで真っ向から勝負なんて、自らプラスチック化の未来を進むようなモノだろう。
2つ、この部屋は、ヤツの完全なテリトリーであり、いわば一部であるコト。
鍵をかけられて出られないように、ある程度の自由な操作ができている。
つまり、今の彼らは飛んで火に入る夏の虫なわけだ。
この2つをどう攻略するのか。
真っ向から勝負はできないと見える。かと言って、地の利を活かすことも不可能だろう。
「とりあえず今は……!!」
レイナが手を広げて、翼へと変化させる。
炎による威嚇と、明るさの確保、それがこの行動の理由である。
その判断は、正しかったと言えるかもしれない。
一種の壁ともなり得たこの炎は、怪異の到達を阻む一手となった。
再び間合いを詰めた怪異は、その壁によって、動きを止めた。
しかしその後すぐ、今度は一気に駆け出し、壁を走り、レイナたちの上空へと至った。
プラスチックでできた身体は小柄で軽量。
容易く勢いを増し、3次元的な戦闘など、簡単なことである。
炎の壁を乗り越えて、ドス黒い腕はまっすぐにレイナへと向かうのだった。
遅くなりました#5の更新です。
やろうやろうと思いながら書ききれずにここまでグダグダきました。
ここからはもっと早くに……うん…無理かも()
ある程度の構想しかできてねぇんだなぁ……
まぁまぁゆっくりやっていきましょう。
次回もお楽しみに