#3 「挑戦者それは」
朝の教室───憂鬱な面持ちで続々と揃いはじめる面々。
朝の準備を進めるクラスメイトの中で1人、レイナに近づく青年がいた。
「あ…あのさ…朱坂さん……ちょっと聞きたいことがあるんだけど………」
青年の名は『青井 ミノル』。青髪を目元まで伸ばし、メガネをかけている。根暗のように感じる無造作な髪型だが、髪と目の鮮やかな青が、それを否定するように存在していた。
「キミなの……?噂の“火の鳥”って………」
レイナの表情がピクリと変わる。彼女は嘘をつくのがヘタだ。泳いだ目、額の汗。とてもわかりやすい。
「ナ……ナンノコトカナ〜………」
苦し紛れの棒読みが、更に怪しさを増す。いや、どちらかといえば、確信に近づいたと言った方が正しいか。
いかんせん彼女の言動と行動は、近くのコムギやユカリに不安を感じさせていた。それと対局的に、ミノルはキラキラと目を輝かせていた。
「じ…じゃあさ…!その“力”……見せてくれないかな…!!」
ミノルは、小さな声を振り絞ってこう言った。
レイナは、その言葉に一変、ポカンとしている。というか彼女自身、先日の“アレ”から証幻症状を使っていない。制御する術を考えなかった経験しかない彼女にとって、明確な対象もなく、ただ見せるだけとはいえ、いきなりの実践は、不安が残るものだった。
「いや〜……その…私もアレに慣れてなくてさ……だから……」
レイナは不安げに、途切れ途切れに、やんわりと断ろうとする。
万が一、以前のように暴走してしまっては、今度は人的被害が発生してしまう。しかし、その反応を見たミノルから返ってきたのは、意外な返答だった。
「あっ…それなら大丈夫!僕に全力でぶつけてくれればいいから…!!」
想定外の返答に、レイナ達3人は心配そうに驚く。
言い方は悪いが、ミノルは一言で表すと『ヒョロガリ』。身体能力や証幻症状のことはわからないが、単純に見た目だけなら、レイナの炎で速攻燃えカスになってしまいそうだった。
そんな彼から来た『相手になる』という申し出は、彼女らにとって、文字通り、『飛んで火に入る夏の虫』と感じられた。
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そんなこんなで、ミノルとの模擬戦を行うこととなったレイナは、いつもの2人の立ち会いで、校内のひらけた場所にきた。
ここなら、ある程度はもってくれるだろう。
いざその場に立っても、レイナは不安げだった。
「じゃあ………はじめて……!」
そんなレイナと裏腹に、ミノルは真剣な眼差しで先を見つめる。
そこまでの目線を向けられ、レイナは渋々力を込め、魔力のオーラのようなものが見えたようだった。
「………!!」
拳を握り、深呼吸をすると同時に、オーラが炎へと一気に変化する。瞼を開けて目を見開き、ミノルを一点に見つめる。
「………信じるよ」
ポツリとレイナが呟くと、ミノルはしっかりと真正面でレイナを見つめている。気合い十分といったところか。
レイナは炎を翼に変化させると、クラウチングスタートの構えから、一直線に突っ込む。
炎を纏った彼女の身体は、ミノルの前方1メートルほどまで一瞬にして到着した。
ミノルはその速度に驚き目を一瞬見開いたが、口角を上げながら指を鳴らす。
その音に一瞬───。
気を取られたわずか数秒、いやコンマ数秒。
目の前に、ミノルの姿はなかった。
これは小手先の騙し技だとか、死角だとか、そんなトリックものではない。
おそらく『証幻症状』───。
しかし、経験の少ないレイナにとってはこの一瞬が大きな動揺となった。
レイナはその勢いのまま、大きく上方に旋回し、辺りを見渡す。目に映るのはアスファルトで舗装された地面と見上げるいつもの2人。
『なるほど……そういうわけね』
レイナの背後から、どことなく声が聞こえる。
振り返ろうと、どこにもミノルの姿はない。
必死に見つけ出そうとするレイナに、またも声が聞こえる。
『今のままじゃダメだ……魔力を正しく使えてない……不安定だ………!』
「ッ……!! だったら……!! さっさと出てこいっての……!!!」
レイナは苛立ちに任せて翼を四方八方へと飛ばす。
幸いにも炎はすぐに消えるが、場合によってはボヤ騒ぎになってもおかしくない量の炎が辺りを舞う。
『イメージするんだ……キミは今、理性で無理やり証幻を制御しようとしている。 それじゃダメなんだ………!』
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彼女、朱坂レイナから出た魔力が一斉に炎に変わった時、期待は完全な確信へと変わった。
そして、彼女が一気に間合いを詰めた時、あの姿の真相がわかった。
彼女はあの時、理性ではなく感覚によって証幻を使っていた。そして、今は逆に感覚を捨てて理性だけで制御しようとしている。
それは、魔力残量への恐怖か、それとも僕への心配か。しかし、そんなことは杞憂だ。
証幻症状『インビジブル』
自己完結型 変化系 異質能力
名前の通り、肉体を透明化させる能力。
単なる透明化ではなく、呼吸を止めている場合には実体がなくなり、空中浮遊さえ可能となる。
つまり、呼吸を止めている場合は自由な移動と行動が可能となる。
僕にとっては、急激な間合いの詰めなど、認識さえできれば問題ではなかった。
指を鳴らすと同時に、息を止める───。
これは、言わばねこだましのような小手先技だが、案外良く使えたものだ。
そんなことを考えていた次の瞬間、炎の塊が僕の身体を抜けていく。
ここまで想定内。
同時に飛び上がり、背後に立つ。
隠れた状態で位置を変えさえすれば、もはや見当もつかない完璧な戦況が完成する。まさに、一方的。
一言、彼女に呟いていると僕の横に羽が一枚、頬を掠める。勘はよく働くらしい。
………違う…そうじゃない……!キミの本領は…!!!
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「チッ…!! どこに……!!」
『冷静になって……探るんだ!キミの欲望と理性の間…!!』
「間…?? 何のヒントにもなってないんだけど!!」
どこからともなく聞こえるミノルの言葉に、レイナは焦りからか的外れな返答しかできない。
『冷静さを欠いて、証幻もろくに使えない状態じゃ何も見えないよ…!!』
訂正……というか、レイナに更なる喝が飛ぶ。
その言葉をレイナは受け取り、考える。じっくりと、しっかりと。
(間……理性で……制御できる欲望………? 好き勝手するだけじゃダメ……でも……抑えすぎてもダメ……?)
そのポイントを探し、深呼吸する。維持ならできる。限界まで放出することもできる。そのちょうど中間。
「……オッケー…………」
深呼吸を終えたレイナは呟く。
それに呼応するように、ミノルが高揚した表情をしたように感じられた。
顔をあげ、自信満々に叫ぶ。
「よくわっかんないけど……いつかできるっしょ!!」
自信満々というか、吹っ切れたというか……
しかし、その返答は、この戦況を変える一手ともなった。
『はぁ!!??』
焦り、というか落胆というか、想定外の返答にミノルは、驚きを隠せなかった。
「アタシは感覚でやらせてもらう!!そしたら、いつかわかるって!!……早速…!!!」
レイナは羽を一枚、下方へと投げ飛ばす。
一直線に飛んだ羽は、空中で停止し、炎が強まる。
「なっ……!?」
炎に照らされるのと同時に、ミノルは姿を見せた。
小さな爆発が起こり、ミノルは後方へと下がった。
「……なんで……僕の場所が………?」
問うミノルに、レイナは笑顔で答える。その返答は、あまりに単純で、彼女らしいモノだった。
「ん〜………勘!!!」
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驚いた。ここまで勘だとか、感覚だとか。
それだけでやってきた天然タイプは、初めて出会ったかもしれない。今まで、僕の周りにいた人間っていうのは、大抵恐怖感だとか、不安感、経験から、大抵マージンをとるヤツがほとんどだった。
この学校には、ごくごく一部、恐れ知らずのヤツもいると聞くが、そいつらでさえ無意識な余裕をもっている。
しかし、彼女にはそれがない。全力で戦って、全力で道筋を見つけ出す。
純粋というか、天然というか。
真に恐ろしいのは、能力が強い者ではなく、彼女のような、真っ向勝負タイプなのかもしれない。
「……ハハハ! 降参だ…!」
両手をあげ、負けを認める。
彼女は本当におもしろい。率直にそう思った。
上空にいる彼女は、見せつけるような笑顔を見せた。
僕は、彼女の証幻症状をもっと見てみたい。これから一体、どんな成長を遂げるのか。
彼女は今、伸び代だらけだ。同年代の僕が言うのもなんだが、後方から見ているのが本当に楽しい。
この芽が摘まれることのないよう、僕は願っている───。
どうも、テストから解放されたぎゅらです。
#3ができたよー!やったぁ!
今回ちょこっと前回とは違う演出が入りましたね、そう、一人称視点です。
こういうのを入れてみると臨場感が出るかなぁと…
なので場面は変わってないけど視点が変わるって時は
-----(5本)で現してます。お見知り置きを。
↑こういう細かいのって忘れそうだよねぇがんばろ
ていうか話しかけてきた時と戦ってる時ミノル君中々口調違いますね、これはミスとかではなくそういうやつです。楽しくなったんだろうね。知らんけど()
さてさて#4の作成を始めようかぁ
気長に待っといてくださいね〜