#2 「目覚めと選択」
巨大カエルの罠により、空中へと投げ出されたレイナ。
下で待ち受けるのは、舗装された地面か、ニヤリと笑って見える巨大カエルか。
上向きの力が重力によって弱まり、落下を始めようとしていた。
「………!?」
追い詰められたレイナは、何か違和感を感じた。
鼓動が早い。
絶望的すぎる状況だというのに、何故か興奮が抑えられない。
胸が熱い。この状況を楽しんでしまっている。
笑みが溢れるレイナは高らかに叫ぶ。
「コムギ!ユカリ!今ならある!!超能力的なやつ───!!!」
レイナの体から大量の炎が噴き出す。
十字架のような火柱を作り出した炎は、翼や尾を作り出す。その姿は形容するなら“鳳凰”といったところか。
「コレが………」
圧倒的な迫力に、2人は息を呑み、その姿に釘付けになる。
その衝撃は、理性をかなぐり捨て、本能と知性だけで動く巨大カエルでさえ思考が止まるほどであった。
「アハハハハハ!!さぁ、始めるよ!!!」
レイナが腕を振ると、巨大カエルの手元に燃えた羽が無数に散らばる。
当たらなければ問題ないと考えた巨大カエルの勘は外れていた。
羽を中心に燃え上がった炎の渦は、今日カエルを巻き込み、全身に火傷を負わせた。
これはマズイと、焼けずに生き残ったオタマジャクシを放ち、同時に舌を伸ばす。
それらは一斉にレイナへと向かう。
しかし、苦し紛れの行動など、一種のゾーンに入ったレイナにとっては、チュートリアルのようにしか思えなかった。
オタマジャクシを炎で処理し、舌を翼で切り刻む。
攻撃手段を失ったカエルは逃げ出そうとするが、炎の壁と落ちるオタマジャクシの火の雨によって、逃げ場がない。
そして、大きすぎる図体が災いした。
小型ならば持てた機動力を、巨大化によって失ったことは、無情にも今は的が大きいことだけを示す。
「コレで………終わりィィ!!!」
レイナは翼を広げて一気に上昇し、巨大カエルめがけて一気に下降した。ハヤブサの狩りのような急降下は、なす術のなくなった巨大カエルにとって、処刑宣告と言えるだろう。
激突と共に、覚醒時よりも大きな十字の火柱が上がる。コレが、巨大カエルにとっての墓標となった。
「こんな………力が………!?」
コムギ達2人は驚きを隠せない。
あの狡猾なカエルを、レイナはいとも簡単に倒してしまった。
火柱が収まると、中からはレイナだけが現れた。
あれだけの炎の中心にいたレイナに、2人は大丈夫かと駆け寄る。
しかし、彼女の身体、ましてや衣服さえ、一切の火傷や損傷がなかった。
コレが証幻症状である。
あの炎は、レイナが魔力を使って生み出したモノ。
だから自分自身は燃えることがない。
しかし、これには一点、穴がある。
「大丈夫大丈夫!なんか火傷とかないしコレくらいどうってこと…も……」
突然、レイナは平衡感覚を失い、意識が朦朧としだした。
閉じかかった瞼で歪んだ視界の中で、コムギとユカリが何かを叫んでいる。
しかし、何を言っているかまでは聞き取れなかった。そのまま、レイナの意識は深いところへと沈んでいくのだった………
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───時間は流れ、すっかり辺りは暗くなって20:00ごろ、レイナは目を覚ました。
ここはどこだ。整えられたベッド周り、自身を囲むカーテン。
ここは保健室のようだった。
起き上がって、朧げな記憶を辿る。さっきの出来事を思い出そうとしていると、1人の女性が顔を覗かせた。
「まったく……あんな無茶して……それにアナタ全日制の生徒でしょ?……こんな遅くまでいたらダメじゃない……!」
彼女は保健室の先生のようだ。
先生は呆れたように言う。一見厳しくも聞こえるが、心の底から生徒を心配に思っていることがわかる声色をしていた。
「あ、そうそう。運んでくれた2人にも感謝しなさいね?ココに運んでから、ずっと心配そうにアナタのコト見てたんだから……ま、今日は遅いからどっちも帰らせたけど」
話を聞く限り、コムギとユカリが、倒れたレイナを保健室に運んでくれたようだ。
定時制課程で保健室が開いており、たまたま引き継ぎ作業のため、全日制担当の彼女がいて顔が効いたのだ。幸運が重なり、なんとか応急処置ができたらしい。
レイナは、何故自分が急に倒れたのかを問う。
レイナ自身、生まれながら健康そのもので、倒れる原因が何か、一切わかっていないのだ。
すると、先生が答える。
「えっ!?わかってないの?自分が“魔力切れ”起こしてたコト………」
『魔力切れ』とは、
証幻症状はじめ、魔法などの使用者が陥る、シグナリウムの枯渇状態を指す。
シグナリウムを動力源とする力は、空気中からシグナリウムを取り込み、体内で魔力に変換することによって行われている。
しかし、体内の魔力を使い果たし、空気中からもシグナリウムを摂取できない場合、能力者は魔力切れを起こす。
魔力や空気中のシグナリウムの残量など、メーターなどの指標などあるはずもなく、完全に自身の感覚によるモノになる。
だから、能力に目覚めたり、魔法を習得したすぐの者は、特出して魔力切れを起こしやすいのだ。
今回は、レイナ自身、証幻症状の扱いに慣れていなかったコト。高威力技を連発したコトなどが、魔力切れの原因と言えるだろう。
「まだ中期段階の症状で良かったわ……とにかく、今後は無茶に能力使わないコト!今回ので限界わかったでしょ?」
彼女が安堵していたのには理由がある。
というのも、魔力切れには段階がある。
今回レイナが陥ったのは第Ⅱ段階程度。
本来、この手が原因では疲労感を感じたり、使用が一時制限される第Ⅰ段階が一般的といわれる。
問題はその先、第Ⅲ段階に突入した場合である。
第Ⅲ段階まで到達してしまうと、後遺症が残ったり、最悪の場合死亡する可能性もある。
つまり、レイナ自身、かなり無茶な能力行使をしていた。ということだ。
「ま、とにかく!無事で良かったわね。もう大丈夫そうなら、帰っていいから。」
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───翌日の朝。教室の扉を開けると、それに気づいたコムギとユカリが小走りに近づいてきた。昨日のコトが余程心配だったのだろう。
心配そうに見る2人に、レイナは昨日の出来事の詳細を話し、心配ないと、感謝とともに応えるのだった。
そうした会話をしていると、ふと、教室の隅で話す男子たちの声が耳に止まった。
「なぁ聞いた?昨日の“火の鳥”の話」
「聞いた聞いた!アレなんなの?あんなの今まで見たコトないけど……」
レイナが疑問に思っていると、目の前の2人が答える。
昨日のコトが、定時制や遅くまで残っていた部活動生から広まり、噂になっているらしかった。聞くと、『大和実践に火の鳥が出た』と。
噂の周りが早い若者の間では、もうほとんどの生徒が知っているようだった。しかも、彼らは物珍しさを好む。今まで見たコトがない事象に、全員興味深々のようだった。
「噂ってすぐ広まるからねぇ……」
「バレてもめんどいしなぁ……」
2人はこの噂が広まるコトに乗り気ではないようだ。
そんな2人の望みとは裏腹に、噂は広まり続けるのだった………
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「ハァ!?ナニコレ!?」
昼休み、スマホを見ていたコムギが叫ぶ。
画面に映っているのはSNS。そこには誰が撮ったか、昨日の写真が投稿されていた。
ネットリテラシーの低い輩の犯行であることは間違いないが、コレはマズイことになった。
この噂が外部にまで広まれば、より厄介なコトになる。不幸中の幸いか、画質は荒く、炎で誰か、ヒトかどうかまでは認識できないほどだった。
しかし、ミステリアスさもあり、拡散され続けるこの投稿は、彼女たちにこれから降りかかる波乱万丈を予見するようだった。
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───放課後、日も落ちる18:30頃。
昇降口近くでスマホを触っている青髪の青年に、黒髪を後ろでまとめた少女が近づく。少し待って、画面に集中して自分に気づかない青年を叩く。
「あだっ!?」
叩かれた青年は小さくうめき声をあげ、その衝撃で持っていたスマホを落とす。
少女は落ちたスマホをキャッチし、頬を膨らませ青年を睨んでいる。
「ご…ゴメンって!」
反射的に彼女に謝る。
2人にとっては、コレが日常のようだ。
「まったく……またウワサ調査?」
「またって……今回のは徹底的に調べるしかないでしょ!!」
テンションの上がる青年に、少女は呆れた様子で問う。
「それで?目星はついてるの?」
青年は目を輝かせて答える。
“1人”、候補がいる、と。
青年はそう答えると、冗談混じりにキミの手合わせ相手になってくれるかもしれないし、と小さく呟いた。
少女は心配そうに青年を見つめる。
彼女的には、厄介ごとに足を突っ込んでほしくないのだ。それは、それほど危険な目に遭うから。
しかしその反面、青年が好きなコトに打ち込んでいるところを見るのが嬉しくもある。
彼女の中で、相反する気持ちがぶつかり合うのだった。
「……って、アタシそんな戦闘狂じゃないしっ!!」
恥ずかしさと怒りで少女は青年を叩く。
逃げるような小走りの青年と、それを追いかける少女は、同じ方向へと走って行った。
……この2人が、いや、それだけではなく多くの挑戦者が、レイナ達といつ出会うのか。
そしてそれはどのような形となるのか………不明ながらその影たちは着々と近づいているのだった………
5/18更新 さ、答えは#2の編集でした〜みんな、当たったかな?
さて、絶賛テスト期間です。課題がヤバみ(笑)
笑ってる場合じゃないんすけどね。#3の作成も進んではいるんですが、まぁ順番に行きたいなぁというんでこっちを先にやりました。
さ、勉強(笑)に戻ります。相変わらず不定期ですが#3の更新もお楽しみに!