#1 「新たな色」
あれはいつだったか、思い出せないがそんなことはどうでもいい———。
その日、若人は"理想"になってしまった。
『理想』...それは誰もが追い求め努力するもの。書き連ねて捻くれるもの。理想が叶うこととは素晴らしく、誰もが望むことだろう。
しかし、それが『現実からかけ離れた何か』だったとしたら?
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———この国に『シグナリウム(Sig)』と呼ばれる物質が発生し、約2年。人々の生活様式は変化を見せ、この2年で法整備も段々と進んできた。
この中でも特に中高生の変化は凄まじく、いわばおとぎ話の世界のような発展を遂げている。まさに若者の順応性が高いことの証明といえよう。
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ここは大和実践高校。この県で唯一の商業科と工業科がともに学ぶ場。まぁいかんせんこういう場所は個性が強いもんで.........
「......ってなわけで、よろしくぅ!!」
シーンとした教室に似つかわしくない明るすぎる声が響き渡る。彼女の名は『朱坂 レイナ』。
今日、この学校にやってきた、世にいう"転校生"である。
朱に一部金の混ざった外にはねたショートヘア、黄金の瞳。そしてこの勢いと声量。月曜の朝日かと見まがう新入りが来たものだ。
「よろしくね!!」
用意された席について早々、彼女は周囲に恐れなく話している。
「アンタ初っ端から飛ばしすぎっしょ!ウチそういうの大好きだけどwww」
ギャルとは相性がよさそうだ。このギャルは『黄瀬 コムギ』。
褐色の肌に金髪のショートヘアが似合う。誰にでも分け隔てなく接するザ・ギャルだ。
彼女たち2人は勢いと性格の種類が同じだ。手っ取り早く親しくなるのもわかる。
問題はそこではなく、この学校へ来たこと。前の学校でのことは知らないが、この学校は個性と自我の強いやつらの集合体。それはそれほど問題ごとに巻き込まれる。ということを意味する。
「ねねね!キミの名前は?」
は、話しかけてきた~!?このテンションのままでくるの!?
「え...えっと......ユカリ...藤沢 ユカリ...です」
彼女は『藤沢 ユカリ』。
色白の肌に浅紫のロングヘアの、どこかミステリアスさを残す少女。
普段は物静かに読書をたしなむような性格だが、コムギとはかなり仲がいいらしい。一見対のように見える2人だが、どこか気の合うことが多いようだ。
「ふーん...じゃあこれからよろしくね!!ユカリ!!」
かくして、混沌のひしめき合う学校に、新たな色が加わったのだった。これから彼女らがに、どんな学生生活が待っているのか、それは誰にも分らない......
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昼休み、多くの学生が購買だなんだと騒ぐ頃、彼女たち3人は、自己紹介......というか、朝に聞けなかったこと、趣味やら前の学校でのこと、どんな部活に入りたいかなど、普通に女子トークで盛り上がっていた。
そんな中で、ふとコムギがこんな話を切り出す。
「そそ、レイナっち、色んなこと聞いたけど"コレ"は?」
「.........コレ?」
レイナは何のことだとポカンとしている。するとその反応を見たユカリが驚きを隠せずに問う。
「も.........もしかして知らないの?"証幻症状"のコト......」
『証幻症状』とはこの世界に存在する、シグナリウムを用いたその者だけ使えるいわば超能力のことである。
"自己完結型"と"外界影響型"とわかれ、その中で、
魔力により力や現象を生み出す"放出"。
物体そのものを作り出す"具現"。
対象物を自在に操る"操作"。
対象の状態を自在に変える"変化"。
自身と別の存在を呼び出す"召喚"の5種に分けられる。
危険性や系統の分かれ方、発生条件は研究が進められているが、詳しいことはいまだわかっていない.........
「へぇ~~......すごそ」
「凄そって.........」
コムギが引くことも納得できる。
確かに、証幻症状を持たない者は、中高生の中でも少なくはない。しかしそんな状況でも法整備と研究は進んでおり、教育をしないことによる危険性の高さは計り知れないため、教育科目として取り入れることも増えてきた。
つまり、彼女らにとって、シグナリウムやそれに関する現象の基礎は、"知っているコト"なのだ。
「逆に自覚症状とかないの?...なんていうか...こう...超能力的な...」
「うーん.........ない!!!」
自信満々に答える彼女は、「なんとかなるさ」と言わんばかりの曇りなき笑顔をしていた。
本人とは裏腹に、不安を隠せない2人は互いに見つめ合い、苦笑いを浮かべるのだった。
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———時間は流れ放課後、教室から廊下、駐輪場と場所を移りながらも女子トークははずみ、すっかり暗くなった18:00ごろ、定時制のある大和実践高校は、教師と生徒の入れ替わりがほとんど完了していた。
さすがにマズイと思った3人は、今日はお開きにすることに、正門へと歩いていた.............。
「すっかり暗くなっちゃったね~...」
ユカリが呟く。周囲に人気はなく、珍しく車通りも少ない道には、信号と街頭が光っていた。3人が校舎正面に差し掛かった時。
——"ナニカ"がいる。
今、彼女らがいる場所から目と鼻の先、本校舎正面の壁。
暗さでしっかりとは見えないが、幸か不幸か、決して霊的なナニカだとか、スピリチュアルなモノではないようだ。
ヒトのようだが3本指の手足、膨らんだ腹部、生物的な凹凸と照った身体。赤黒いナニカの正体は"カエル"と形容していいだろう。
しかし一点、常識離れしたことがあった。それはその"大きさ"である。このカエルは目分量で全長10メートル、高さ7メートルといったところか。そう、ヤツは異常なほどに"大きい"のだ。
彼女たちがこの存在に気付く頃、同時にソレも彼女らを認識したようだ。
彼女たちの視線に気づいた巨大カエルは、不機嫌そうな表情をしたように見えた。
壁から飛び降り地面へと巨大カエルが降り立つと、大きな衝撃が起こる。それすら、一種の威嚇といえるかもしれない。
「下がって———」
まず行動したのはコムギだった。
2人を制止し、思考を巡らせる。
"まずは自分自身と周囲の安全を確保すること"
これはこのような事象だけでなく、事故時などにおいても重要なコトである。
しかし、相手が生物、しかもシグナリウムによる変異体と考えると、逃げ切れる保証はない。
ここまで変異した状態ならば、"常識"など一旦捨てた方がいい。
その中で考えうる最善の方法、それは———
「ウチが証幻でタゲとるから逃げて———」
そう伝えたコムギは数歩前へ、構えをとる。すると、コムギの手足を獣のような毛皮が覆い、手の爪は鋭く伸びた。
証幻症状『アニマル』
自己完結型 変化系の異質能力。
自身の肉体を獣のように変化させる能力。
危険性を表す能力級位は「異質能力」と最下だが、身体能力の強化というシンプルでかつ幅広い活用ができるため、のびしろは高いといえるだろう———。
両手、両足を変化させると、勢いよく飛び出したコムギが狙うは巨大カエルの眼球。
戦闘において五感とは最重要といっても過言ではないだろう。いくら能力や魔法で外側を固めたとしても、見えなければ、聞こえなければ、ほとんどの場合意味をもたない。
それに、その隙をついての逃亡も可能かもしれない。
しかし、それを理解しているのは相手も同じ。顔などは反射的に防御が可能。
直感的に動くのはコムギの悪い癖だ。
逆を言えばだからこそ、彼女的には真っ向から勝負がしたい。だから自分が動くことを買って出た。
いや、正確には、3人の中で最も戦闘能力に長けた自分だからこその責任感かもしれない。
しかし、間合いが詰まったことは、彼女にとって利であった。
図体の差は、間合い、つまり、攻撃可能範囲に直結する。つまり図体が大きいほど、有利である、と。
しかし、それは"小回り"とは反比例的といえる。
懐にもぐりこんだコムギの両手の爪から、斬撃が放たれる。
本来の狙いからは外れたが、これは効果的な先制攻撃だった。巨大カエルの凹凸だった頭部に、十字のキズが描かれる。
しかし当然、これだけで倒せるほど単純な話ではない。次の瞬間には血と体液を吐き出した巨大カエルの反撃が開始される。ヤツは舌を出してコムギを捕えようとする。
だがそれをも簡単に対処した。
コムギはあえて舌を斬らず、踏み台として距離をとった。相手の行動に即興で返せるのは、コムギの強みである。しかし、戦闘とは、何手も先を読むこと。コムギが着地する地面には、巨大カエルが吐いた血と体液がたまっていた。
「コムギ!危ない!」
ある違和感に最初に気づいたのは、隠れていた2人だった。
それは、血にまみれた無数の黒い球体だった。
なにか危ないと直感的に感じたレイナは、地面に降り立ったコムギを押し出す。
レイナの考えは当たっていた。
黒い球体それは、いうなれば"タマゴ"だ。
中からオタマジャクシのようなモノが一斉に飛び出し、レイナのみぞおちを始めとし全身へと体当たりする。
「ぐっ.........!!」
カエルが大きければ、オタマジャクシも大きい、
例えるならバレーボールほどといったところか。
無数の弾丸によって、レイナの体は宙へと舞う。
空中では身動きが取れない。
これが、巨大カエルの狙いだった。一度この罠にかかれば最後、あとは重力による自由落下を待つのみ。
落下による死か、捕食対象となる死か、レイナに、逃れられないどちらかの2択が迫るのだった———。
5/16更新 「読みにくい」という友のご意見を元に改行と空白を増やしました。次されるのは#2の編集かな?#3の更新かな?当ててみよう!(未定)
テスト週間につきお休み増えますが…勉強モチベがなくなればコッチが動くかもね。大事な時期だろ!いい加減にしろ!!
不定期更新です、ゆっくりやります。気が向いたら観に来てくださいね、最新話があがってるかも?