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トリカブト  作者: 軽田おこめ
第2章 存在が消える髪飾り
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第23幕 嘘をつくのは得意なので

 


□□□


「……という訳なんだけど、どうしようねぇ」


「シオン、素に戻っているよ」


「………小声だからセーフ」


  シャルロットの元へ戻ったシエルは男達から聞き出した情報を語った。情報共有は潜入捜査において基本中の基本。仲間との情報の相違が残念な結果を生んでしまう可能性もある。丁寧に丁寧に話していたが、シャルロットはケーキに夢中である。今はショートケーキの上に乗っているイチゴを頬張っていた。ちなみにシエルが用意したケーキの皿はすべて平らげていたため、今シャルロットが食べているケーキは彼女が自分で持ってきた2皿目のケーキである。こんなに甘いものをよく食べれるな、と感心しながら続ける。


「俺たちは顔も知らない。相手は目の前にいても気付かないかもしれない。出席者に聞いて回っても見てない、って言われるだけだろうねぇ。やみくもに探しても埒が明かないね」


  さて、どうしたものか。頭を悩ませている隣でシャルロットは相槌も打たずチョコレートケーキにフォークを刺していた。シエルはじ、っと彼女を見つめて「聞いてる?」と問うと彼女はコクコクと頷きながらケーキを頬張って、少ししてから言った。


「………こっちから見つけられないなら、出てきてもらうしかないんじゃない?」


「そんなのどうやってやるのさ」


「…………そんなの知らないよ」


  お皿に残った最後のフルーツタルトにフォークを刺しながら「それはシエルの仕事でしょ」と言った。その言葉にはぁ、とため息を吐く。


「………そうだよねぇ。そうなるよねぇ」


  こうなることは分かっていた。頭を悩まれるのはいつもシエルだけ。例え危険な任務の時でも、緊張感のある場所だとしても。大体焦っているのはシエルだけで他のメンバーの呑気さといったらない。しかしその分皆には身を守ってもらっているので大きな声で文句は言えないのだが。

 

  さて、どうしたものか。シャルロットの能力は戦闘特化であるし、そもそもシエルはヴァンダーですらない。能力でどうにかするのは難しそうだ。だからといって先程シャルロットに伝えた通りやみくもに探しても埒が明かない。現実的に考えればシャルロットの言う通り、”出てきてもらう”しかないのだがどうすればーーー。


  難しい顔をして頭を悩ましていると少し離れた場所から近づいてくる人影を感じとった。シエルはすぐに外行きモードへと切り替えて表情を作る。近づいてくる男性はどうやらシャルロットに興味があるようだ。質のいいスーツを身につけた彼はどこかの貴族だろう。


「(……これは使えるんじゃないか?)」


 シエルは心の中でニヤリと笑う。もちろん表情には出ないようにして。

 男性はワインの入ったグラスを手にニコニコとした表情を浮かべて「こんにちは。お嬢さん」とシャルロットに声をかけた。


「おひとりですか?」


「えぇ」


「それはよかった。僕も1人で心細かったんですよ。もしよろしければあちらで踊りませんか?」


  流れるようなお誘いの言葉と共にシャルロットの右手を取る。慣れてるなと思った。なるほど。身分などを気にせずシャルロットに声をかけるなんて珍しいと思ったが女性好きの遊び人のようだ。隠し事の苦手なシャルロットは嫌そうに顔を歪ませて握られた手を払い除ける。右手にフォーク、左手にお皿と両手が塞がっていたためその程度で収まったが、シャルロットが何も持っていなかったら男性は投げ飛ばされていただろう。そんなこととは露知らず、男性はクスッと笑って「失礼。先に名乗るのか礼儀でしたね」と言った。


「僕はアル。アル=セバスチャン。君は?」


  シャルロットはさらに嫌そうな顔をしながらチラッとシエルを見つめる。助けてほしい、と言いたげな目だが何も言わないでにこりと笑うシエルにため息をつく。嫌々ながら名乗ろうと口を開く。


「………………私はーーー」


「マリー=レゾニック」


  シャルロットが仮の名を告ようとしたその瞬間、シエルがそう言った。あまりに自然と話すからシャルロットはその違和感に一瞬気づかなかった。


「お嬢様はレゾニック家ご令嬢、マリー=レゾニック様でございます」


  混乱するシャルロットに追い打ちをかけるようシエルが言った。驚いた顔をしたシャルロットがシエルをじっと見つめる。その表情が珍しく、少しだけ気分がいい。


  相手は透明人間なのだ。存在感がない。姿も見えない。だが名前は貴族の中には広く知れ渡っている。ーーーだったらこっちが目立ってやる。


「……え、、、えぇ??あ、貴方が、あの、あのレゾニック家の!?」


  そんな中、貴族の男が声を荒らげて叫んだ。その声は周りの貴族達にも届いたようで当たりが少しざわめく。


「(上手くいってる上手くいってる……)」


  思った通り。名前を名乗っただけでこんなに目立てるとは。それほどレゾニック家というのは貴族たちの間では恐ろしい存在なのだろう。シエルは自分の思惑通りに事が進んでたまらずニヤリと笑う。そのニヒルな笑顔を見た貴族の男は顔をひきつらせて「、ご、ごめんなさい!!」とだけ言い残して一目散に逃げていった。


「………………あぁ、行っちゃった」


「あは、よかったね。嫌だったでしょ?ああいうの」


「………………………………………………助けてくれなかったくせに」


 口を尖らせて文句を言う彼女にはは、と笑う。執事の身分である自分があのタイミングで間に入る勇気は全くない。面倒事なゴメンである。


「さて、この調子でじゃんじゃん目立っていこうか」


「………………………………なんのつもり??」


  ご機嫌な様子のシエルは得意げな顔で

「見てれば分かるよ」と笑った。




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