第20幕 自尊心
時は少し遡りーーー。
˚✩∗*゜⋆。˚✩⋆。˚✩˚✩∗*゜⋆。˚✩⋆。˚✩˚✩∗*゜⋆。
私の愛しのルカたん♡
やっほールカたん。ルカたんまた1人行動して暴走したらしいね。レオレオからお手紙が届いたよ。すごくすごく可哀想だから、たまには言うこと聞いてあげてね!
さて本題なんだけど、めちゃくちゃプリティーでめちゃくちゃ有能なシュシュはまた新たに情報を入手しちゃったんだ!ただん!今回の骨董品は!”存在が消える髪飾り”!!
噂によるとその髪飾りをつけたレゾニック家のお嬢さまはいつも”存在を忘れられちゃう”らしいの。舞踏会でも偉い人達との会合でもお見合いの場でも、彼女は出席しているのに誰も彼女のことを覚えていない。誰も彼女のことを気にもとめない。それは彼女の実の親もそう。ね?不思議な話でしょ?あ、ちなみにレゾニック家はカナン大国で軍隊を取り締まっている名家で国王家とも深い関わりがあるとかないとか…。利益のためならどんな手段も選ばない。怖ーい人たちだって聞いたよ。
でもでも、名家のお嬢様にはそう簡単には近づけない……、シュシュはそう思いました。だから優秀なシュシュは次に彼女が出席すると噂されてる社交界の情報を独自ルートで仕入れることに成功しました!それもなんと、どどん!来月のヴォーリア地方の各国の貴族が出席する社交界!1番直近だとすごく大きな会合になっちゃうけど、行ってみる価値はあるんじゃないかな。オリヴァーさんになんとかしてもらってさ!その名家のお嬢様のお名前はマリー=レゾニック。名前は間違えないようにね!
ルカたん大好き!シュシュより
˚✩∗*゜⋆。˚✩☪︎⋆。˚✩˚✩∗*゜⋆。˚✩⋆。˚✩˚✩∗*゜⋆
ーートリカブトが所有する飛行船内、会議室にて。
「……ってなわけで君たちにはヴォーリア地方の社交界に出席してもらおうと思ってる」
黒を基調とした会議室の中央には数十人が囲んで座れる円卓のテーブルが置いてあり、その上座にルカが足を組んで座っていた。ルカの真っ白でしなやかな髪がモダンなこの会議室に映えていて、様になるなぁなんて場違いなことを考える。こうやって場違いなことを考える時は決まって現実逃避をしたい時か焦っている時である。今回は確実に前者であり、その原因となるガーリーな手紙の内容に男は頭を抱える。
「………えぇ?それ本当に俺であってる??」
この場にはルカを除いて2人しかいない。そのためこの質問が愚問であるということは理解している。理解しているが問わずにはいられなかった。大体今は休憩中。空を旅するにあたって皆の安全を守るため操縦士の休憩は必要不可欠である。この飛行船を操縦できるのはシエルだけなのだからその負担は計り知れないだろうとそのために設けられた休憩時間だというのに、何故か総統様に飛び出されて今は会議室にいる。大切な30分間をなんだと思っているのか。
呼び出された1人はシャルロット=ダンディルナ。今日もお気に入りのワンピースにお気に入りのカチューシャを着けて可愛さ満点である。
もう1人の男はもちろんシエル=リベルタ。金のしなやかな髪の毛をハーフアップで結び、作業着にオーバーサイズのジャケット。頭にパイロットゴーグルを付けた彼は、鋭い目元も相まってチンピラのような装いだがシャルロット曰く”だらしないだけ”らしい。
「いやぁ、だって俺だよ?困るよ流石に。…てかそもそも身分証とかどうするのさ」
「そんなの今更じゃない。今回もオリヴァーさんに偽造してもらうさ」
「…だからさ、いつも言ってるけどぉ、バレたらタダじゃ済まなくない?身の危険感じたらどうするのさ」
緊張感のまるでない声でシエルはルカを問いつめる。余裕そうな顔つきだが内心はドキドキである。また厄介事が回ってきたらたまったもんじゃない。
「大丈夫だよ。もしもの時はシャルが何とかしてくれるから」
「流石に恥ずかしいよ。俺だって一応男の子なんだけど…」
「えー??今更そんなこと気にするの?」
当たり前だ。隣に立つ小柄な少女を横目で見てため息をついた。こんな可愛らしい少女にいつも守られてばかりで情けない気持ちでいっぱいである。
シエルの主な仕事は操縦士である。この飛行船はもちろん、ありとあらゆる乗り物を操縦することができる。また家事や経理、スケジュール管理、情報管理など裏方の業務も彼の担当である。最初は操縦だけという契約だったのに周りの人間にまともな奴がおらず、シエル以外でできる奴はいないだろうと話し合いで決定し、全てシエルが担っていくことになり今に至る。つまり何が言いたいかというと、ただでさえ仕事が多いのだ。そういった表立った仕事はせめて他のメンバーに任せたい。どうして自分の専門でない仕事で身の危険を感じ小柄な少女に守られ自尊心を傷つけられなければならないのか、甚だ疑問である。
「…………………………………………総統。別に私はそれでもいいよ」
どうやって断ろうかーー。それだけを必死に考えていたシエルの隣でシャルロットが鈴のような声で呟いた。
「こいつ、いつもこう言いながら何とかなってるし。要領と頭はいいからね。弱いけど」
立て続けにそう言ったシャルロットはただルカを見つめるだけで、驚くシエルには見向きもしない。
「え、シャルロットさん、俺無理だって…」
「そう言っていつも何とかしてるでしょ」
「いやいやいや………。いつも何とかしてるのは大体貴方かレオンだから。いい加減俺には無理だって気づいてよ…」
自分でも情けないことを言っている自覚はある。が、言っていることは全て事実である。シエルは何度か潜入調査を任された経験があるが、護衛にレオンかシャルロットがついてた。危ない目にあった時はいつも2人が助けてくれたのだ。戦いに慣れていない自分が足を引っ張っている自覚は重々にある。
「そもそもレオンとシャルちゃんで行けばいいじゃない。俺よりよっぽど適任でしょ。しかも執事役なんて、こんなふざけた顔で出来ると思ってんの??」
自分の顔を人差し指で指してそう言う。自分で言っておいてなんて悲しい話だと思ったがその方が最善策だろう。この組織きっての戦闘力をもった2人が共に潜入すれば解決するではないか。それに自身の表情筋が緩んでしまっている自覚もある。真面目な雰囲気の場所でもヘラヘラしていると言われたこともあるし、悲しんでいるのに表情一つ変えない冷たい人と言われたこともある。そんなヘラり顔代表の自分に執事役など荷が重い。
そんな反論も虚しくルカは「んふ、」と笑って答える。
「いやいや〜笑われないでよ。レオンとシャル2人でなんか行かせたら会場が死屍累々で見てられない状態になっちゃうよ」
「………流石にそこまでしないよ」
「んー、シャルのそこまでってどこまでなんだろう??」
2人の軽い会話に鳥肌が立つ。冗談のような物騒な話だが、相手がシャルロットとレオンとなると話は別である。戦闘特化で脳筋2人のことだ。何をしでかすか分からないし、その後始末をするのはきっと自分である。嫌な想像をふくらませているとルカが「あぁ、あと」と言った。
「顔つきについてだけど、大丈夫。君は流されやすいからね」
「……………??」
言葉の意味が分からず眉をひそめると、シャルロットが強く頷いていた。ルカはんふ、と軽く笑ってからさらに続ける。
「それに、執事顔ではないけどめちゃくちゃ強そうなボディーガードには見えるよ。背も大きいし顔立ちもハッキリしてるからね。なんていうか”ネジが飛んだサイコパス”的な、ね?見掛け倒しでめちゃくちゃ弱いけど」
褒められてるのか貶されているのか分からないセリフに更に眉を顰める。一言も二言も余計なのはいつものことだ。ここで怒ったところで仕方ない。ーーーとは思っていたが、隣で静かに笑うシャルロットを見て「え、やめよかな、この組織」と呟いた。
□□□




