第1幕 情報屋からの手紙
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拝啓、最愛なるルカたん♡
ルカたん、いつになったら会いに来てくれるの?ぜーんぜん来てくれないから、シュシュは寂しくて寂しくてルカたんにわざわざ会いに行っちゃいそうです。でもシュシュは、追いかけるより追いかけられたい派だから大人しく待ってようとは思うんだ♪だから早く会いに来てね。じゃないと〜……。頭のいいルカたんならこの先の言葉なんてわかると思うからわざわざ言わないね!
さて本題なんだけど……。ルカたんが喜ぶ最新のお知らせをお届けします!シュシュはいま、ベロニカ共和国の南東にあるガーディ村出身の子にお話を聞いているんだけどここで不思議な現象が起きているんだって。何でも”死者が見える”って人が後を絶たないとか……。し・か・も。その人たちはみーんな、ある”壺”を触っていて、それに”大切な人にもう一度会わせてくださーい”ってお願いしたんだって。ルカたんがだーい好きな怪しい骨董品の匂いがプンプンするでしょ??けど、最近になってその壺が行方不明になっちゃったんだって。ガーディ村の村長が国王へプレゼントするために厳重に保管してたのに、盗まれたんじゃないかって大騒ぎ。
本当はシュシュもルカたんと一緒にこの骨董品を探してあげたかったんだけど……。シュシュ、次なる情報収集に行かないといけないから、どうしても会えないの……。ごめんね、ルカたん。寂しいと思うけど、シュシュのお手紙を見て癒されてね。それじゃあ!待ってるからね!
本妻のシュシュより♡
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「わぁ。今日も過激だねぇ……」
ここは上空約1万メートルの空の上。青く澄み渡った空を飛ぶ大きな船型の飛行船。そのコックピットに彼らはいた。通常の飛行船より広々としたそのコックピットの操縦席には長身の青年が1人。そこから見て休憩スペースなのであろう小さなテーブルとソファを挟んだ先にある入口付近に2人の青年が、1つの紙切れを覗き込むよう囲んで立っていた。見慣れた丸文字と八ートマークが沢山書かれたガーリーな便箋。”今月のニュースだよ♡”と書かれた封筒。これらは、彼らの目的地である”ガーディ村”へ到着するまで何度か読み返した情報屋からの手紙である。月に1〜2回の頻度で届く情報屋からの手紙はとても信頼できるもので、そのテンションとキャラクターから誤解されることも多いが仕事のできる人間である。
手紙を持つ細身な青年、レオン=ピュルテが困り笑顔を浮かべながらポツリと呟くと、その正面に立つ小柄な少年、浩然が怪訝そうな顔をしながら言った。
「……いつも通りだろ。てか、いつの間に結婚なんかしたんだよ〜。総統も言ってくれればいいのに。なぁ、シエル?」
浩然は後ろを振り返り茶化すように青年に笑いかける。この飛行船を操縦している青年、シエル=リベルタは振り返ることもなく「確かにー」と言った。
「ついにルカも結婚か。長かったなぁ」
からかうようにケラケラと笑うシエルにレオンが「ちょ、ちょっとやめなよ!」と叫ぶ。
「ルカさんに聞かれたら2人とも怒られるよ?」
「大丈夫だろ。今いないし」
プリプリと怒りながらレオンはもう一度手紙を眺める。2月前に届いた手紙にも書かれていた”会いに来てね”という言葉がひっかかる。確かに最近彼女に会っていない。決して避けている訳ではないのだがタイミングが合わないのだ。どうやら”ルカ”のことが大好きな彼女は痺れを切らしているようで面倒事の予感がする。レオンは困ったように笑って呟く。
「……そろそろ会いに行かないとまずいなぁ。シュシュちゃんならどうにかこうにかして本当に籍入れかねないよ」
「相変わらず恐ろしい女だな」
話の通り、手紙の送り主である”シュシュ”は昔からの知り合いの情報屋兼旧友であり彼らが総統と呼ぶ”ルカ”の本妻でもなんでもない。心配だなぁ、と呟きながら手紙を封筒に戻したレオンは”レターセット入れ”とお粗末に書かれた箱に手紙をしまい入口付近の棚に置く。もうすぐでパンパンになってしまう。新しいものを買ってとシエルにお願いしなければ、と考えながら「あれ」と呟く。
「そういえばルカさんは?戻ってこないね……」
つい数分前に「すぐ戻るよ」と言ってコックピットから出た”ルカ”がまだ戻らない。これから目的地であるガーディ村付近の平原に着陸できそうなのに。不思議に思っていると「総統なら先に行ったぞ」と浩然が平然と言った。
「は?」
「だーかーらー」
「いや!聞こえてるけど!」
冒頭でも言った通り、ここは空の上。先に行った、と言われて納得出来るはずもない。
「ちょ、ちょっと待って?先に行ってるって何?まだ一回も着陸してないよね?どこでそんなタイミングあったの???」
「そんなん飛び降りたんだろ」
その言葉にレオンは頭を抱える。飛び降りた?どうやって?またよく分からない道具にどこかから入手したのだろうか。
「……うわぁー。ルカってばやることだんだん異常になってきたね」
「異常なのは昔からだろ」
「それはそう」
浩然とシエルの会話に殴り倒してしまいたい衝動を抑えてはぁ、とため息をつく。
ガーディ村付近は山脈地帯が広がっており、村のすぐ側での着陸は困難だった。そのため安全に着陸できる少し離れた平原を目指すことになったのだか”ルカ”はそれを待っていられなかったらしい。我が身一つで高度1万メートル上空から飛び降りたというのだ。ルカとはもう数十年の付き合いとなるが相変わらず突拍子もないことをしでかす。頭を抱えていたレオンはギラりと浩然を睨み「ちょっと」と言った。この童顔の少年の仕事の1つは”監視”だ。この飛行船に侵入者がいないよう見張るついでにルカの行動もよく見張っておいてくれと伝えてある。察しもよく感覚の研ぎ澄まされた彼が”ルカ”の奇行に気づかないわけがない。
「……まさか浩然。また買収されたの?」
「買収って言い方良くないよな。取引って言ってくんない?」
「どっちでも変わんないでしょ別に…」
”ルカ”が逃げ出す時は決まって浩然に何かを与えて見逃してもらっている時だ。つまり彼も共犯ということになる。どうせ彼が大好きなキャラクター”くままん”のグッズか何かを渡されたのだろう。まるで玩具を与えられて喜ぶ子供のようだ。その小さな身長と童顔も含めそうとしか見えない。しかし今そんなことを呟けば彼と大乱闘が始まってしまうのは目に見えているので余計なことは言わない。
そんな失礼なことを考えながら彼をじっと見つめる。全く反省した様子も見せない浩然が「まぁ、でも流石に危ないかもだからな。すぐにシャルを行かせたよ」と呟いた。
「……へえ、何でまたシャルが?あの子がそんな協力的なのは珍しいね」
レオンは驚いた。”シャル”は気まぐれな猫のような子である。”ルカ”の捜索などめんどくさく厄介な業務を受け入れるとは思わなかった。
「さぁな。ご機嫌そうだったからお願いしたら快く承諾してくれたよ。見つけたらすぐに合図を送れって言っといたんだけど……」
チラリとシエルに目線を送る。振り返らずともその視線に気づいたのかシエルが「え?それらしいのは何も見てないけど?」と言った。
「シエルが見てないってことはあいつも買収されたんかな?」
「うぅぅ〜シャルぅぅぅ〜」
レオンは膝から崩れ落ちた。最後の頼みの綱であった彼女までちゃんと業務を全うしないとは。この組織の連中はどうしてこうも自由な奴らばかりなんだ。ーーーと責めてやりたいものの、レオン自身も自由気ままに生きているためあまり強くは言えない。唇を噛みながら「うぅ〜 」と窓から地上を睨んだ。