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トリカブト  作者: 軽田おこめ
第1章 死者が見える壺
18/25

第17幕 不確実性ハッピーエンド

 

 ︎✧


 シャルロットは思う。どうしてこの人はこうも自由なのだろう、と。


「………本当にいい加減にして。探すのに苦労したよ」


「ははは、ごめんごめん」


  もう何度目になるだろうか。彼が単独行動で問題を解決して骨董品を手に入れるのは。いつもこうだ。目を離した途端どこかへ消えてしまう。何かと恨みを買われる組織のトップだというのにこの危機感のなさといったらどうしようもない。襲われたりしたらどうするつもりなのかーーといっても、シャルロットはその事について大して何とも思っていない。何か問題が起こったとしてもルカなら解決できるだろうし、自分の身くらい自分で守れるだろうからだ。ルカの逃亡を心から心配しているのは彼の右腕と自我しているレオンのみ。ルカがいなくなったらレオンがうるさいのでメンバーは仕方なく嫌々捜索を始めるのだ。


「………それにしても、壺の場所よくわかったね」


「まあね。ガーディ村の宿屋の子が言ってたんだよ。”最近近くの村で飛び降り自殺があった”って」


「…………え、それだけで?」


「僕の直感がここだっていってた。大当たりだったね〜」


 ご機嫌な様子で鼻歌を歌うルカ。彼の嗅覚はやはり素晴らしいもののようだ。


「(………流石すぎるな、総統)」


 シャルロットを含む他のメンバーは手紙にあったガーディ村かその付近にある城下町に壺を盗んだ犯人がいると目星をつけていた。実際は隣村であるこの村の住人、カインが犯人だったのだがこの村は険しい山道を超えないとたどり着けず手間もかかるため捜索範囲にいれていなかったのだ。逃亡したルカを尾行する過程で壺のありかを知ることとなったが彼がいなかったら犯人にたどり着くまで相当な時間を費やしていただろう。

  村を出たルカとシャルロットはガーディ村付近を目指していた。険しい山道を登る。このペースでいけばあと2時間ほどで着くだろう。あたりはすっかり真っ暗だが日を跨ぐ心配はないと思った。


「それにしてもシャル、尾行スキル落ちたんじゃない?僕がカインの家に訪れた初日から見てたでしょ」


  突然のその言葉にドキリとする。気付かれているとは思っていたが最初からバレていたとは。シャルロットは少しだけ目を見開いて答える。


「……………………………………………………………バレてたの」


「そりゃあ分かるよ。気配を消すのは上手だけど見過ぎかな。視線が気になって仕方なかったよ〜。気になるのはわかるけどあんな熱烈な視線送られちゃったら馬鹿でも気付いちゃうね」


「…………………………………なんで気付いてないフリしてたの…」


「だってシャルもみんなに内緒にしててくれてるからさ。それに必死になって隠れてるのが面白くてそのままにしちゃった」


 ヘラヘラと笑うルカにまたもしてやられたとショックを受ける。シャルロットははぁとため息をついた。


 ルカという男について。シャルロットが一言で例えるとすると『掴みどころがない愉快犯』といったところだ。何かの利益を得るために行動するというより、楽しそうだから興味があるからと行動する。人の気持ちや感情の変化に敏感なくせに時と場合によって”知らないふり”をして無能な男を演じる。どこかの国で能ある鷹は爪を隠す、なんてことわざを聞いたことがあるが正にこの男のことだろう。


 シャルロットの尾行を知らんぷりしたのだって、ただの彼の好奇心というわけだ。それなのに気付かれてないと思いながら尾行を続けていた。そんな彼に踊らされていたと気づき自分が情けなくなる。やはりまだ彼には敵わない。不貞腐れながら彼の左横を歩いていると「それで?」とルカがつぶやく。


「シャルはどう思ったの?」


「え?」


「マチルダとカインについて。何か思うことなかった?」


「……えっと」


「まさか何も考えないで見てたわけじゃないでしょ?」


 突然のその問いにシャルロットは戸惑う。ニコニコと笑ったルカが「まさかね〜」とシャルロットをちらりと見て言った。煽られている。完全に煽られている。


 しかし実際のところ何も考えていなかった。シャルロットはルカにバレないようどこまで尾行が出来るかを楽しんでいただけでカイン達にはまるで興味がなかったからだ。ぼんやりと話の内容は聞いていたが変なこともなかったし、お互いが納得する結論がでてよかったではないかと思う。


「(………でも総統がわざわざ言ってくるってことは何か気になることがあるんだろうな)」


  試されているような気がしてムカつく。何か気になること……。シャルロットは必死になってカインの身に起きたことを思い出す。


 カインは死んだ奥さんの後を追う約束をしていたけど、それが出来なくて苦しんでいた。そんな中、”死者が見える壺”というものがあると噂に聞いたカインはその壺を盗み、死んだ奥さんとの生活を始めた。しかし実際、その壺の効果は”幻覚を見せる”というもので彼が見ていた奥さんは彼の幻覚にすぎなかった。それを受け止めたカインはその壺をルカに渡し、奥さんの願いであったようにこれからも生きていくことを選んだ。


 まとめるとこんな感じだろうか。なんとも綺麗な話だ。これからも生きていくことを選んだのだからこれ以上にいい結末はないだろう。それなのに彼にはこの結果の何が不満だというのだろう。彼には何が見えているのだろう。不敵に笑うこの男のことがいつもながらに分からず、これ以上考えても彼が望む答えはでないだろうとそう悟った。だからシャルロットは正直に「……ハッピーエンドで良かったじゃん」と答えた。


「カインも幸せだし、マチルダも願いが叶って幸せ。ついでに総統は壺をゲットできた」


「うんうん。そうだね」


「…………総統はこれでも何か気になることがあるの?」


  悔しいけど何も分からない。シャルロットはしょぼくれながらルカを睨む。その怖くも何ともない視線にルカは楽しそうに笑いながら「降参?」と言った。彼に降参だと告げるのがなんだか負けた気がして嫌だったからそう言わないでいたのに。さらにじとっと睨むも彼は楽しそうにヘラヘラ笑うだけである。これでは埒が明かない。シャルロットはなけなしのプライドを捨てて「………………降参」と蚊の鳴くような声で呟いた。するとルカはケラケラ笑いながら言った。




()()()だよ」





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