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トリカブト  作者: 軽田おこめ
第1章 死者が見える壺
13/25

第12幕 漆黒の光が指す方へ

 


 やっと潮の香りを感じない道まで戻ってきたカインは大きく深呼吸をした。バクバクとしていた心臓もやっと正常に戻ってきてふう、と息を吐く。あと小一時間も歩けば村に戻れるだろう。今日も何も捕まえられなかったが仕方ないと己を納得させているとルカが「そういえば」と呟いた。


「幽霊の奥さん、何か変わったことはないかい?」


「変わったこと?」


「うん。まあそろそろだと思うんだよね。暴走するの」


「暴走……?」


  不思議そうに首を傾げるカイン。「暴走って何の話ですか?」と聞くもルカは何か教えてくれる様子もなく空を眺めながら「まぁまぁ、答えてよ」と言った。カインは仕方なく、最近のマチルダについて考える。


「(………と言われても、別に普通だったしなぁ…)」


 今日のマチルダを思い出す。いつも通り小言を言われ、いつも通り『早く死ね』と罵られ、いつも通り狩りに出かける自分を見送ってくれた。そういえば今日は姿を消さなかったなぁと思い、ふと思い出す。度々姿を消すようになった要因であるあの手紙のことだ。最近はすっかり手紙について聞くことを辞めてしまったので彼女が消えることはなくなった。だからカインのモヤモヤは残ったままだった。このことが脳裏に過ぎり「あ、」と呟く。漏れ出してしまっただけの小さな声だったがその声もルカには届いたようでニコリと笑う彼と目が合った。もう誤魔化すことも出来ないと悟り、カインは「大したことではないんですが…」と前置きを付けて話しだした。


「最近手紙を貰ったんです。生きていた頃、肉屋の店主に報酬と一緒に渡してもらうようにってお願いしていたようで………、」


「うん、それで?」


「どうやら彼女が亡くなる直前に書いたみたいなんですが、内容があまりにも優しくて…。幽霊の彼女の言うこととは少し違うなぁと言いますかなんと言いますか…。生きていてね、って言われているような内容なんです。でも本心を確かめたくて彼女に話しかけても、手紙の話をした途端何も言わずにスっと消えてしまうんです。だから真意を確かめられなくて。どっちが彼女の本音なのだろうって………」


  今更こんなことで悩むなんて馬鹿げていると思う。死にたくないがための言い訳だろうか。


  ルカだってこんな話を聞きたかったわけではないだろう。つまらない話をしてしまったと思い謝ろうと立ち止まると「それはそうだろうね」という冷静な声が聞こえた。


「え?」


「どっちが彼女の本音なのか…気にならないかい?」


  少し前を歩いていたルカは振り返ってそう告げる。木々の隙間から漏れる夕暮れのオレンジ色が彼を照らしていた。神々しいその光景に圧倒されながら「…それは…まぁ、」と辛うじて呟く。


「僕だったら君の悩みを解消してあげられるかもしれない」


「そ、そんなこと、、どうして…」


 彼を照らす光がさらに強くなる。目が眩むほどの光に影が濃くなった彼は少しだけ笑う。その光は美しく、可憐に、怪しげに光る。まるで悪役のようだと思った。物語における必要不可欠な悪役。どこか不気味で恐ろしい。全てを見透かされているような怪しげな光。この世のものとは思えないその光が彼の手足のように光り輝く。呆気にとられていたカインにルカは「ねぇ」と言った。


「彼女に合わせてくれないかな?」


「え」


「彼女と話をしてみたいんだ」


  ルカがマチルダと…??何故彼がそんなことを…??なんのために??


 戸惑う脳内で必死に考えるも答えはでない。冗談なのでは…と考えるも彼は先程からずっと真剣な表情をしていてその言葉に嘘はないのだと思った。恐る恐る「で、でも!」と叫ぶ。


「僕以外の人がいると彼女は消えちゃうんです。だから会わせられるかどうか……」


「大丈夫。君が”消えないで”って思えば消えないよ」


 何を根拠にそんなことを。カインがどうこう思ったところで彼女の行動を制限できるとは思えない。しかしまっすぐただ見つめてくるルカの眼差しに圧倒され本当にそうかもしれないと思った。本当に”消えないで”と願えば消えないのではないか。彼に託せば彼女の本音が聞けるのではないか。彼に託せば何かが変わってくれるのではないかーーと。


「…………話をするだけ、ですか?」


「そうだよ」


「無理やり壺を奪う気じゃ…」


「そんな事しないよ」


  眩しい。まるで全ての夕暮れが彼を手助けしてるかのように。全ての光が彼の下僕であるかのように。そんな錯覚を起こすほど彼は眩く、儚い存在だった。


「僕をただ信じてみてよ」


 呆然と立ち尽くすカインにルカは手を伸ばす。その漆黒の光が怪しげに笑う。


 カインは思った。この手を掴めば何かが変わってしまうと。良い方向になのか悪い方向になのかは分からないけれど。どうなるかなんて見当もつかないけれど。

 だけどどうしてかその手を掴む以外の選択肢はなかった。彼に託そうと、そう思った。そうするべきだと夕暮れが言っているように感じた。



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