40 熾烈な戦いの末
お城では貴族や臣下達、街の有力者等を招待してお祝いのパーティーが開かれていた。街や村では【魔王は倒された】【魔物や魔獣達はもういなくなった】と広く知らされた。国からご馳走が振るまわれて、街や村は祝杯をあげてお祭り騒ぎになった。
「皆の者! ここにいる勇者カケル、聖女アイリ、魔法使いアリシア姫、騎士サラサ、騎士ジョーンズが魔王を打ち倒した! 称えよ」
陛下が玉座から立ち上がり、集まった大勢の者達に戦いが終わったことを話し始めた。俺達は玉座の近くに皆で並んで、大勢の人達から拍手と喜びの声を聞いた。長い間、魔物や魔獣達からの襲撃に耐えていたのが解放された。
「今まで皆、よく耐えてくれた。身を犠牲にした勇敢な者へ、黙とうを捧げよう」
王の言葉に皆は目をつぶり祈った。
「これからはこのことを忘れずに、皆で力を合わせて行こうではないか!」
わああああ――! と歓声が上がった。
「もう一つ……。王子アデルのことで、知らせることがある」
一気に静まり返った。もうアデル王子の色々な悪行は知れ渡っていた。特に苦しめられていたのが街の人達で、アデル王子は自身の立場を利用して好き勝手をしていたようだった。
「王子の位と共に、王位継承権をはく奪することに決まった」
ざわざわと騒がしくなる。陛下は片手を上げてそれを制した。
「その者は、勇者によって倒された魔法使いオンブルと結託し、国の平和を乱した。魔法封じの枷をつけて幽閉の身となった」
誰もいなくなったように、その場は静かになった。皇后様は気丈に涙をこらえていた。俺の隣にいる、アリシア姫様の手が震えているのが見えた。いくら酷いことをしてたとはいえ、一緒に育ってきた兄だ……。
俺は姫様の手をそっと握った。少し驚いていたけど、俺の顔を見てアリシア姫は微笑んだ。
「そしてここにいるアリシア姫が、第一継承権を持つことにした!」
うお――!! きゃああ――! という歓声が響いた。姫様は皆に人気がある。
美しい銀色の長い髪の毛に青い瞳、愛らしい顔。ちょっと無表情な時が多いけれど優しい性格で慕われている。アリシア姫様が次の王なら安心するだろう。
「数年は次の王として知識を広めるため、儂の補佐をしてもらう。皆の者。どうかこのアリシア姫に、力を貸してやってくれ」
陛下がそう述べるとさらに歓声が大きくなった。
「アリシア姫。ここへ」
陛下はアリシア姫を玉座の隣に呼んだ。
「はい」
俺はアリシア姫の手を繋いだままだったので、そのままエスコートした。元の位置に戻った時に愛里から「お兄ちゃん、カッコいい」と小声でからかわれた。
「アデル王子の事は非常に残念でした。調査をして、今後はこのような事が起きないようにいたします。私はまだ勉強中なので王のもとで励みますが、皆さまのお力も必要です。より良い国にしていくためにお願いいたします」
アリシア姫様は優雅なカーテシーをした。皆はその優雅なカーテシーに魅了された。
わああああああああ――――! 一番大きな拍手と歓声に包まれた。
きっとアリシア姫様は、並みならぬ努力をして良い国にしていくだろう。その覚悟と意志をアリシア姫様から感じられた。
その後は無礼講になって、美味しい食べ物が並んで皆で食べて楽しんだ。
慣れないダンスなんかもしたけど、めちゃへたくそで皆で笑った。
パーティーも中頃になって、アリシア姫が俺に話しかけてきた。
「カケル様。せっかく楽しんでいる所に悪いけれど、私に付き合って欲しい所があるの。良いかしら?」
アリシア姫の、先ほどまでのリラックスした表情から違ってた。緊張した顔を見て楽しい所に行くわけではないと悟った。
「いいけど」
どこへ行くか、聞けない感じだった。
姫の後について行き、しばらくお城の中を歩いた。話もせず、真っすぐ前を向いたままアリシア姫は進んだ。
「こちらへ」
広いルーフバルコニーというのだろうか? こちらではなんていうか分からないけど、ルーフバルコニーに続く大きな窓を開けて外に出た。
パーティー会場から楽しそうに笑っている声が聞こえてきて、平和になって本当に良かったと思った。皆の表情も明るくなったし。
気がつけば外はもう夜だった。ルーフバルコニーから見える空は星が見えて、元の世界で見るよりも綺麗だった。月も見えたが、ぼんやりと光っていて明るくはない。
「あそこに、塔があるのは見えますか?」
アリシア姫が指を指した先に高い塔が見えた。頑丈そうで、あまり窓がない感じだった。
「見えます」
アリシア姫がこちらを振り向いた。銀の長い髪がサラリと揺れて、お城のあちこちに灯された光が銀の髪に飾られて綺麗だった。
「あそこに兄が、幽閉されてます」
アリシア姫は表情を無くした顔で俺に言った。黙って俺を見つめていた。
「なぜ、俺に教えた?」
疑問を言うと、姫はキュッと唇を噛んだ。
「全部、計画したのは 兄でした。魔法使いオンブルと賢者ホウトリング様が召喚の儀をしました。が、魔物や魔獣達を生み出そうと計画して、魔法使いオンブルと結託しこの国を混乱させようとしたのは、兄です」
俺は意味が分からなかった。戸惑っているとアリシア姫は近づいて、俺の目の前に立った。
「なぜ……?」
なぜ自分の国を混乱させたかったのか分からない。
「魔物や魔獣達を再び発生させて勇者を呼ぶ。それは兄である、アデル王子が命令したもの。アデル王子の命令で呼んだ勇者が、魔物や魔獣達を倒す。それはアデル王子の功績……と、なりました」
姫様はドレスを握りしめた。白い布の上に、青く薄いオーガンジーがいくつもの重なったアリシア姫にとても似合っているドレスなのにと、見ていた。
「カケル様の母君。勇者の働きによって一次的に平和は守られた。それだけでは満足しなかったのです」
俺から顔を反らして言いにくそうに言った。
「勇者である母君様を、妃に迎えたいと強引に命令したのです」
「え、母を妃に!?」
母が嫌がっていたのは、そんなことがあったのだからか……。父は許さなかっただろうな。
「ご存じのとおり……。勇者様、聖女様を王家に迎え入れることができた者は、圧倒的な力を得られます。兄は道具のように勇者様を利用して、自分の地位を確かにしたかったのでしょう」
俺はアリシア姫様の話を聞いてアデル王子を許せなかった。でも。
「アデル王子の思惑が外れて、母は父と一緒に帰ってしまった……ということですね?」
コクンとアリシア姫は頷いた。
「どうやらこちらの時間と流れが違うようで、再び魔物や魔獣達を発生させて勇者を呼んだけれど、カケル様や愛里様とお父様のご家族を召喚してしまったので自棄になったのでしょう」
いい迷惑だ。
皆でそれなりに幸せに暮らしていたのに。アデル王子のくだらない野心のために、俺達家族やこの国の人達が犠牲になった。
「本当にごめんなさい。兄のしたことは許せません」
アリシア姫は俺に頭を下げた。
「アリシア姫のせいじゃないだろ!」
俺は強い口調で言った。今までの事はアリシア姫のせいじゃない。
「あそこに兄が幽閉されてます。カケル様ならここから兄を亡き者にできます」
アリシア姫は、アデル王子のいるであろう場所を指で俺に教えた。冷たい顔をしたアリシア姫様がそこにいた。
俺に見せてくれた笑顔ではなく、これから国の未来を背負っていく女王をしていた。
「アリシア姫……!」
俺はアリシア姫を両手で抱きしめていた。
「カケル様!?」
姫は驚いて俺から離れようとした。けれど、逃がさなかった。腕の中にいるこの人は、兄のやった罪を全部被るつもりだ。
もし、俺が今。アデル王子を亡き者にしたら? アデル王子に恨みのある者が、すべてアリシア姫に向けられるだろう。
「アデル王子はあのまま、一生償ってもらいます。亡き者にするより、辛く苦しい罰をあたえましょう」
アリシア姫様の耳元で言う。この人を守らなければならない。ピクリ、と姫の体が動いた。
「いいの、ですか?」
か細い声でアリシア姫は答えた。俺は姫の肩に、顔を埋めた。さらさらの銀の髪の毛が頬をくすぐった。
「はい」
返事をすると姫は、俺に抱きついてきたけれど、震えていた。
「あり、がとう……御座います」
泣いているようだったが声を堪えていた。しばらく泣きやむまで姫の頭を撫でていた。
しばらくして姫は恥ずかしくなったのか腕の中で、もじもじと身動きした。
「じっとしてて」
俺は少し離れて、姫様の涙をハンカチでポンポンと拭いてあげた。
「ありがとう」
ちょっと赤くなった顔が可愛い。そのままハンカチを渡してあげた。
「お――い! カケル――! 姫様――!」
「お兄ちゃん――! どこ!?」
「アリシア姫様――!」
ジョーさん、愛里、サラサさんが、俺と姫様を探しに来てくれたようだ。
「こっちだ! アリシア姫様もいる!」
俺は大声で皆を呼んだ。アリシア姫から離れて、手を振った。
「お――! カケル! 姫様!」
ゆっくりとジョーさん達はこっちに来た。
「主役がいなくなってどうする? 皆、探していたぞ」
「まあ、休憩は必要よね」
ジョーさんと愛里が話しかけてきた。
「陛下がお呼びですよ?」
サラサさんは、陛下が呼んでいることを教えてくれた。
「仕方が無い。戻るか」
「ですね」
俺とアリシア姫は、お互いに視線を合わせて頷いた。――パーティーは夜遅くまで行われてお開きとなった。
何日か体を休めるためにゆっくりと過ごしてその後は、襲われた町や村を回ってケガ人の回復や建物の修理などを手伝った。
ほぼ国中の町や村を回って、お城に返って来た。
「愛里、そろそろ元の世界に帰ろうか?」
俺は皆とお茶をして、くつろいでいるとき愛里に言った。
「う――ん。そうね」
愛里は返事をした。
「ええっ!? 帰ってしまわれるのですか!」
サラサさんはガタッと椅子から立ち上がって俺達に言った。ジョーさんも慌てた様子で、ティーカップをひっくり返した。
「そんなあっさりと、帰るなんて……」
ジョーさんはそう言い、テーブルに零れたお茶を布で拭いた。アリシア姫様は、持っていたティーカップを静かにソーサーへ戻して俯いた。
「アリシア姫様?」
様子がおかしかったから話しかけた。ガタン! と姫様らしくなく、椅子から立ち上がって部屋から出て行ってしまった。
「アリシア姫と、話をしてくる!」
「ちゃんと話をしてね、お兄ちゃん!」
呆然としてしまったが、正気になって俺は姫様を追いかけた。




