39 ③
頬にチリチリと、闇の魔力を感じた。魔力が増えていくようだ。
「アカツキ……?」
だんだんと、アカツキの髪の毛が毛先から赤く染まっていくのが見えた。目はつり上がり、口からは牙が唇からはみ出した。皮膚さえも赤黒くなっていった。
変化するアカツキの姿を恐ろしく感じた。
「へっ……! へへ!」
アカツキは変わり果てた、赤黒く血管が無数に浮き出た自分の腕を見て笑っていた。短時間で異形の姿になってしまった。
「バケモンじゃねぇか、この腕!」
へっ、へへっ! ははっ! と何かをあきらめたように笑っている。
「成功だなっ!! アカツキは【魔獣石】を飲んだ! 誰よりも強くなった! ヒャ――ハハハハッ!」
魔法使いオンブルは、変わり果てた姿になったアカツキへ言った。
「【魔獣石】を飲んだ!?」
「そんなっ!」
俺とアリシア姫は叫んだ。魔物の中にある魔獣石を飲むなんて……!
「ちっ! 無理やり、飲ませたのだろうが!」
アカツキは吐き捨てるように言った。無理やり飲ませた?
「まあ? だが、力は得た! この世界をすべて……滅ぼそう!」
アカツキは邪魔な俺を倒した後、この世界を力の限り壊して滅ぼすつもりだ。
アリシア姫様とサラサさんは、魔法使いオンブルと激しく戦っている。愛里とジョーさんは二人の補助をしていて、何とか互角ぐらいで戦えていた。俺も一緒に戦いたいが、アカツキは強い。気を抜けない。
「お前を倒す」
俺はもう一度全身に魔力を巡らせて、精霊の力を借りた。剣にはめた精霊の玉が外れて宙に浮かび、一つになった。
『彼の中の【魔獣石】を破壊して!』
精霊の声が聞こえた。
一つになった精霊の玉はキラキラ光る淡い光になって、ベールのように剣を包んだ。
「アカツキ!!」
「くそっ!」
俺は走ってアカツキに切りかかった。少し遅れて、二本の剣でクロスに構えたアカツキは歯を食いしばったのが見えた。
精霊の光をまとった勇者の剣を、振り落とした。アカツキの魔力が最高潮に上がる。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!」
アカツキの横を通り過ぎるとき、アカツキと目が合った。
一瞬、目を大きく開いて俺を見た。アカツキの目に俺が映っていて、悲しそうな顔をしていた。
そしてアカツキは。苦しそうな表情をした後に、笑った。
「強く……、なりたかった……」
崩れ落ちる、アカツキと俺。両方が地面に膝をついた。
「お兄ちゃん!?」
「カケル様!」
二人の俺を呼ぶ声が聞こえた。
ドサッ!
アカツキが、地面に倒れた。手からは二本の片手剣が離れて、地面に転がった。
俺は何とか膝をついて立ち上がる。
「お兄ちゃん! 動かないで!」
愛里の泣きそうな声が聞こえた。横を見ると愛里が走ってくるのが見えた。倒れたアカツキを見下ろして、力が抜けた。
「アカツキを、倒した……?」
横たわったアカツキの手足から全部、さらさらと黒い粉になって空へ舞い上げって消えてった。
後に残ったのは黒くて大きな【魔獣石】だった。
「……アカツキ」
俺は上を向いて空を見た。
「いてっ……」
ズキンと痛みが後から感じて、右腕を左手で触って見ると血がついた。剣を振り落とした後に、アカツキに切られた。避けたので最小限の傷で済んだと思うけど、血は滲んでいた。
「すぐ治すね!」
愛里の手から聖・魔法 回復の光が出て、瞬く間に傷が治った。
「ありがとう、愛里」
「聖女! お前も邪魔だっ!!」
魔法使いオンブルは、俺に駆け寄って背中を見せた愛里に攻撃魔法を放った。鋭い槍のような氷の魔法が愛里を狙った。
「させない!」
足に力を入れて走り、愛里の手を引いて背中に隠した。俺はオンブルの攻撃魔法を剣で真っ二つに切った。
ガッ、ガギン――ッ! ドサッ! ドサッ!
「オンブル――!」
魔物や魔獣達を襲わせ、アカツキを自分のおもちゃのように扱い、この世界まで混乱させようとした。その他にも……!
「許さない!」
『許さない!』『許しません! 多くの仲間たちがやられた!』
精霊たちの怒りを感じた。
「お前、お前も倒す!」
「生意気な!」
魔法使いオンブルは呪文を唱えた。長くて太い杖を振り回して俺に向けた。
「地獄の焔!」
今まで見たことのない巨大な炎だった。俺は ”守りの盾” で身を守ることが出来ず、呆然と立ち尽くしてしまった。
「魔法 無力化!!」
急に魔力を含んだ突風が、ザ――ッ! と流れていった。
「うっ!」
「きゃあ!」
髪の毛や服がバタバタと風になびいた。
砂煙が立って目を開けてられなくて、腕で守っていた。
「そ、そんな馬鹿な……」
砂煙が収まってまぶたを開けた時、魔法使いオンブルの放った巨大な炎の魔法が消えていた。魔法使いオンブルはガタガタと震えていた。
アリシア姫様は魔法使いオンブルに杖を向けていて、姫様が魔法使いオンブルの魔法を消したのが分かった。
「カケル様!」
「!」
アリシア姫様に呼ばれて、俺が成すべきことを思い出した。俺は魔法使いオンブルの至近距離まで近づき、高く飛び上がって勇者の剣を突き刺した。
「ぐぁぁぁぁぁぁ……!」
剣は、魔法使いオンブルの身を突き抜けた。
「まさ、か……まさか。この私が……やられる、なん、て……」
そう言って魔法使いオンブルは、黒い煙になって消えていった。
精霊が俺の体を浮かべてくれて、そっと地面に着地できた。
「カケル様!」
「お兄ちゃん!」
「カケル殿!」
「無事か!?」
アリシア姫様、愛里、サラサさん、ジョーさんが俺の所に駆け寄って来てくれた。
顔をくしゃくしゃにして、お互いが無事なのを喜んだ。
「良かった――! お兄ちゃん!」
愛里は、ポロポロと涙を流して泣いていた。
「愛里も頑張ってたよ」
俺は愛里の頭を撫でた。
「カケル様、魔法使いオンブルを、倒して下さってありがとう御座います」
アリシア姫様の綺麗な瞳から大粒の涙が溜まって、今にもこぼれそうだった。俺は姫様を抱き寄せて、ギュッと抱きしめた。
魔の物を操ってこの国の平和を脅かした重罪人。だけどアリシア姫様の、魔法の師匠だった。二人の間に何があったかは知らないけれど、師匠を倒すのは苦渋の決断だったはず。俺がとどめを刺せて良かった。
「あ、あの……」
力を入れすぎたらしい。俺は慌てて、アリシア姫様から離れた。
「ご、ごめん!」
姫様は顔を真っ赤にしていた。
「クスッ! 姫様も、カケル殿も顔が真っ赤ですよ?」
クスクスとサラサさんは笑った。
「サラサさん、ありがとう!」
俺はサラサさんに握手を求めた。サラサさんはちょっと戸惑ったけれど、握手してくれた。
「こちらこそ、ありがとう御座いました!」
サラサさんは、にっこりと微笑んだ。
「ジョーさん、心強かったです! ありがとう御座いました」
俺がジョーさんにお礼を言ったら、ガバッ! と抱擁された。
「こっちこそ! ありがとな? カケル!」
胸板厚い! 俺も鍛えて、ジョーさんみたいにカッコよくなりたい。
ホッとして、皆と和やかに会話をしていた。
魔物や魔獣達も消えた。魔王アカツキと、魔法使いオンブルを倒した。




