36 アカツキとの戦い
「ついに【魔王】になったのさ! オレは誰よりも強い!!」
アカツキの闇の魔力は、視界に入るだけで恐ろしく背筋が凍りそうだ。俺と同じ黒目黒髪だったアカツキの瞳は、なぜか金色になっていた。髪の毛は逆立ち、毛先が赤黒くて様変わりしていた。全体的に痩せていて骨が浮き上がっていた。
俺は、アカツキと対峙した。
アカツキの闇の魔力が強すぎて、遠巻きに様子を窺っていた魔物や魔獣達はさらに後退した。魔物も恐れる魔力。体の表面に闇の魔力をビリビリと感じるけれど、平気だ。まさか挨拶だけに、来たわけじゃないだろう。相手の出方を待ってみる。
ニィ……とアカツキが笑った。邪悪な顔のひきつった笑い。なぜ笑う?
すっと、アカツキは腕を天に掲げた。
「ソラ! ドラゴン! よけろ――っ!!」
アカツキが掲げた人差し指に、闇の力が集まるのを感じた。やつは殺意を躊躇なくぶつけてくる。俺は察して両脇の仲間、ソラとドラゴンに避けるように叫んだ!
「「!?」」
バチバチと音を立てて、凄い速さで大きくなっていく。
アカツキは自分の何倍もある、闇の魔力を集めた玉を頭上に作り出した。
「た、退避――――!」
アカツキの後ろで俺達を見守っていた騎士達は、俺達と反対の方向のお城の外へ避難を始めた。お城の中にいる、仲間達も声をかけて避難してくれるだろう。
アカツキが作り上げた、闇の魔力の大きな玉を数回指先で回転させて俺達の方向へ放ってきた。
でもそれまでの皆の動作がスローモーションのように見えて、俺は誰よりも早く動けた。
宝剣を握りしめて精霊の名を呼ぶ。
「サラマンダー! ウンディーネ! ノーム! シルフ! 力を貸してくれ!!」
自分の体に魔力を巡らせて、勇者の剣にも魔力を込めた。
『ホォォォォ!』『はぁ――い!』『存分に使え!』『よろしくてよ?』
それぞれの精霊が返事をして【魔宝石】になった。俺のすぐ目の前に浮かんで、クルクルと宙に回っていた。
虹色に輝く【魔法石】は勇者の剣の凹んだ四つのところへ、ぴったりとハマった。
「ありがとう!」
俺は精霊達にお礼を言った。眼前に巨大な闇の魔力の塊が迫っていた。
俺は腰を低くし力を入れて飛び上がり、勇者の剣を斜めに斬り上げた。
「なんだと!?」
アカツキの驚いた声が聞こえた。
バリバリバリバリ! ビシッ――! バァ――――ンッ!
この一帯を、物凄い音と光が響いた。アカツキの放り投げた強力な闇の魔力の塊は、俺の剣で空へ高く弾かれて木っ端みじんになった。
遠くで叫び声や、避難を促す声が聞こえてきた。
トスッ! 地面に着地した俺は胸を張り、アカツキを睨んだ。
「くっ! バカな……!」
アカツキは身を丸め、自分の腕で爆風を防いだ。俺の後ろには魔物や魔獣達が大勢いる。闇のものも一緒に、吹き飛ばす気だったのか!?
「ソラ、お願いがある! ドラゴンと一緒に、お城の人達を避難させてくれないか!?」
「クウゥ……ン? ……ワン! ワ、ワン!」
ソラは首を傾げたが、すぐに分かった! というように返事をした。
「ワ! ア、アン!! ワン! ア、ワン!」
ソラはドラゴンに話しかけて? 駆け出した。ドラゴンはソラの言葉が通じたのか、大きな足を動かしてソラのあとに着いて行った。良かった。ここにいればアカツキに、攻撃されてしまう。お城の皆の、避難の手伝いが出来たらいい。
「ソラ、頼む」
ふわふわのしっぽが遠ざかるのを見た。
「ふん! 少しは強くなったのかよ?」
そう言いアカツキは空中から地面へ降りてきた。コスチュームのような黒いローブをパタパタと翻して、静かに地面へ降り立った。
「アカツキはなぜ、攻撃するんだ!?」
俺はアカツキがなぜ、ここまで攻撃的なのか疑問だった。俺より前に異世界転移していたアカツキ。俺と変わらないくらいの年齢。そこまで力を欲しがっていた理由はなぜだ?
「これだから……甘い奴は嫌いだ」
ペッ! と唾を吐き、憎らし気に俺へ言った。ギラリ! と睨みつけたと思ったら、いきなり剣で切りつけてきた。
「アカツキ!」
ガッ……! キィィィン! 俺とアカツキの剣が交わった。ギリ……、ギリリ……とお互いの剣が音を立てて、俺とアカツキはにらみ合った。
「は!?」
アカツキの片手が、動いた。俺は咄嗟に飛びのいた。
ブン!
顔のギリギリの所を、アカツキのもう一本の剣が掠っていった。やつは片手剣を両方の手に構えていた。少し切れた前髪がパラリと地面に落ちた。
「ちっ! かわしたか」
アカツキはだらりと両腕を下げてそう言った。本気で俺に向かって来る。俺も本気で向かわないとやられる……。
「頼りの、父と母がいなくなっちまったからなぁ……。くくっ! 残念だな」
楽しそうに俺に言ってきた。父と母が還ったのは、お前達が魔法陣を使ったからだ。
「……」
俺が真の勇者になったことは、アカツキは知らない……? それに父がこの国からいなくなって、アカツキが魔王になった訳も知らないのか? ……俺は黙った。
そもそも……アカツキを、魔王に祭り上げたやつは誰だ?
黒い長いローブの男は前に見た。そいつが仲間なのは分かっているが、正体は分からない。
「カケル殿!」
お城の中から姫様が走って、こちらへやってきた。サラサさんも一緒だ。姫様は杖を空中から取り出して、呪文を唱えた。
「炎よ!」
アリシア姫はアカツキに向かって、巨大な炎の魔法を放った。
「ちっ!」
後ろから放たれた姫様の炎の魔法は、アカツキの不意を突いたようで大きく端にジャンプした。
その隙を狙って、俺の方へ駆けてきた。
「今までの魔物や魔獣達の発生の原因はすべて、お兄様と魔法使いのオンブルによるものです!」
アリシア姫が息を乱して教えてくれた。アデル王子と魔法使いオンブルが?
「父と母はお兄様に軟禁されていましたが、無事です。お兄様の姿はありませんでした……」と俯いて続けて言った。
「王よりアデル王子の拘束を命じられました。生死を問わず……とも」
サラサさんは表情を無くして冷静に話してくれた。生死を問わず……。
アデル王子に軟禁されていた。王子はもう、取り返しのないことをしてしまった。
アリシア姫は辛いだろう。俺はアリシア姫の手を取って握った。
「アデル王子を見つけよう」
アリシア姫とサラサさんに、辛い選択をさせてはいけない。俺はアリシア姫と目を合わせて伝えた。
「ええ」
一瞬、瞳が潤んだけれど、キッ! と上を向いていつもの凛とした姫様に戻った。
「おやおや。仲が良いようですな……」
「オンブル師匠……、いえ、オンブル! あなたが元凶だったのね!」
魔法使いオンブルは、黒い長いローブの姿で俺達の前に現れた。俺達は不気味な雰囲気のオンブルに警戒をした。
「アカツキ、いつまであいつと遊んでいるんだ? さっさと片付けろ」
「っ!」
姫の炎の魔法を避けて俺達から離れたアカツキは、ビクッ! と体を揺らしたがまた俺に殺意を向けてきた。
「育ててやった、恩返しをしろ! アカツキ! 勇者を○せ!!」
「!?」
魔法使いオンブルは、俺が勇者だとアカツキに教えてしまった。呆然として俺を凝視した。
「お前が……、勇者。だと……?」
ゾクリ……。
足元から冷えていくような殺気と、闇の魔力が膨れ上がった。
「うそ……。こんな膨大な闇の魔力、知らないわ……」
アリシア姫が怯えて少し震えていた。
「大丈夫。俺に任せていて」
俺はギュッと姫の手を握った。笑いかけると姫は、「ええ」と言って微笑んだ。温かくて柔らかい小さな姫様の手を、名残惜しく離した。
「ブチ○してやる!!」
やつの魔力の圧が膨れ上がり、突風が吹いた。
「きゃあ!」
「姫とサラサさんは下がっていて! アカツキの相手は俺がする!」
ざっと、大地を踏みしめて剣を握りなおした。姫とサラサさんは戸惑ったが、アカツキの俺へ向ける殺気に頷いた。
「私達は、魔法使いオンブルを倒します! カケル様、身体強化魔法をかけます!」
俺の体の周りに渦を巻いてかけられた強化魔法は、ぴったりと厚い鎧となった。
「ありがとう、アリシア姫! 気を付けて!」
「カケル様も!」
姫様とサラサさんは、オンブルのいる方へ駆けて行った。
「お前が勇者だと!? 俺は認めない!」
地面を蹴って俺に突撃してきた。
「くっ!」
ガッ! アカツキの両手の剣が交差して、俺の剣とぶつかった。互いの力で、ギシッ! と軋む。
「育てられたって、魔法使いオンブルに!?」
歯を食いしばって、力を入れているアカツキに言った。魔法使いオンブルはだいぶ前から、魔物や魔獣を襲わせる計画をしていたのだろうか? アカツキを育てたのもまさか、魔王の器にするためなのか?
「育てた、なんていうほどじゃない! 飼ってたの間違いだっ!」
「うわっ!?」
アカツキは俺を力まかせに押した。両手の剣で二回切りかかってきたが、うまくかわした。
「くそっ!」
アカツキは何回も切りかかってきた。俺は何度も避けたり受けたりした。
ガッ!
キィィィン!
シュン!
「ちっ!! ……ちんたらやってられねえ!」
俺に傷をつけられないのが悔しいのか、魔法を使う気配がした。
「はっ!? まて、やめろ!」
強大な魔力を感じて、俺はアカツキを制止した。
始めに放り投げた闇の魔力の玉よりも、大きく強力なものを作り出そうとしている!
「地形が変わるぞ!? やめろ!」
「うるせ――っ!」
俺は母と愛里が以前に護ってくれた “守りの盾” を思い浮かべた。
キラキラと輝く、聖・魔法の盾。勇者の盾。
アカツキは俺の制止も聞かず両手を伸ばした。
「アカツキ――!」
俺に向けて、強大な闇に魔力で作ったおぞましい姿の化け物を放った。




