34 嫌な予感
次の日。俺達は黒い沼を浄化するために、出かける用意をしていた。便利カバンがあるから、楽に何でも入れられる。元の世界に帰っても使いたいくらいだ。
「ホウトリング様、お世話になりました。ご飯、うまかったです! また来ます!」
俺はホウトリング様にお礼を言った。ずっと泊まっていたかったくらいだ。
「ホウトリング様。また会いに来ますね」
愛里も名残惜しいみたいだ。おじいちゃん好きだからな。
「おう! おう! 嬉しいのう……。また皆で来なさい。待っておるぞ! 姫様もな」「え……」
ホウトリング様は姫様の頭を撫でた。突然のことで姫様は驚いていた。
「ホウトリング様。姫様の髪の毛が乱れてしまいます!」
サラサさんがちょっと怒って、ホウトリング様に注意した。姫様は焦ってサラサさんの方へ顔を向けた。
「い、いいのです! ホウトリング様に頭を撫でられるなんて光栄ですわ!」
ちょっと照れながら、ツン! とした態度でサラサさんに答えた。ホウトリング様に頭を撫でられて嬉しそうだった。そんな姫様を微笑ましく皆で見守っていた。
バンッ!! ビリビリ――ッ!
「きゃあ! なに?」
「結界が!?」
愛里とサラサさんが叫び声をあげた。体へ感じた振動に不安を感じた。ホウトリング様が姫様の頭を撫でるのをやめて、入口の扉を開けた。
「なんじゃ!? 結界に無理やり入ってくるとは!」
バタバタとホウトリング様が走って、結界に無理やり入ってきた場所まで行ったので俺達も後についていった。
俺達はホウトリング様の家の真正面の入り口から入ってきたけど、進入してきた来たのは空から。ホウトリング様の腕の中に、鳥がいた。結界を無理に入ってきたので弾かれてケガをしていた。
「これは、ドクトリングのお知らせ鳥か!?」
ホウトリング様は、腕の中の鳥がドクトリング様の鳥と言った。おかしい。ドクトリング様の鳥ならば、結界を通れるはずだ。
「え!? ドクトリング様の鳥が、どうして結界に入れなかったのですか!?」
俺はホウトリング様に詰め寄った。ホウトリング様は腕の中の鳥を見て俺に答えた。 「ううむ。いつものお知らせ鳥ではないし、緊急で寄越してきたお知らせ鳥だったのじゃ……。それにしても」
ホウトリング様は、鳥の足に取り付けられていた小さな筒を取って、入っていた紙切れを取り出した。
「この鳥さん、ケガしてる。治しますね」
紙切れを取り出してホウトリング様は、野外に置いてあるテーブルにその鳥をそっと寝かせた。愛里がケガをしている鳥に聖・魔法でケガを治した。
「これでよし」
「くるるるる……!」
愛里はケガが治り、テーブルの上に立ち上がった鳥を撫でた。
「これはっ!?」
紙切れに書かれたものを読んだホウトリング様は、驚きの声を上げた。俺達は大声を出したホウトリング様に注目した。
「どうしました?」
俺は嫌な予感をした。いつもと違うお知らせ鳥。緊急で寄越された鳥。
「……お城へ。お城に魔物や魔獣、魔族が攻めてきたらしい……」
ホウトリング様は、ドクトリング様の鳥が寄越した紙切れに書かれたものを俺達に教えてくれた。
「なんだって!?」
俺達は急な魔族の攻撃の知らせに、体が固まった。
背中に嫌な汗が流れた。
「は、早く! お城に戻らなくちゃ!」
愛里が長い髪の毛を揺らして、俺に話しかけた。姫様の顔色が悪くなっていった。
「姫様、お気を確かに!」
ジョーさんは姫様の肩を持って声を掛けた。少しよろめいたがハッ! と気を持ち直したようだ。
「騎士団の皆や、アデル王子がいるから戦ってくれてるだろう!? 何とか持ちこたえてくれてると思うから、急いでお城へ戻ろう!」
俺は皆に大丈夫だと、話しかけた。でも、姫様の様子がおかしい。下を向いて手をギュッと握って震えていた。
「アリシア姫、きっとお城の皆が頑張ってくれてる……「兄さまが原因、かもしれません!」」
俺が言い終わらない時に姫様は、強い口調で自分の兄王子を否定した。
「兄……。アデル王子は、15歳になる頃。言動や行いなどから次期王として素質が無い、と周りから言われて育ちました」
姫様は言いにくそうに言ったが、キッ! と顔を上げて俺達に伝えようとしていた。
「兄は努力をしてましたが、比較されて。その……私の方が次期女王にふさわしいと言われてから裏で、あやしげな一団と接触するようになりました」
「え?」
アデル王子は、何か嫌な感じはしていた。確か母も、会うのを嫌がっていた。そういえば俺達が旅に出るとき、見送りの人の中にいなかったな。
「私の護衛……間者からの報告で、何かあやしげな動きをしているとありました……」
姫様の悲しげな顔を見て、俺は話しかけた。
「……とにかく、お城に行ってみよう。アデル王子が原因か、調べよう!」
そう言うと、姫様や皆が頷いた。
「う――む。これから馬車で行くとしても時間がかかる。そうじゃ!」
ホウトリング様は、良い案が浮かんだというように微笑んで俺に近づいて来た。皆もホウトリング様に注目した。
「カケル殿は、四大精霊&魔獣ソラと契約できたな?」
ポンポン! と両肩を叩かれ、ニコニコと笑って聞かれた。あれは契約なのか。
「は、はい?」
契約できた、として……今の俺達に何の関係があるのだろう? 俺はホウトリング様が何を言いたいのか分からず、首をかしげた。
「ならば、竜とも契約できるはずじゃ!!」
「「「「ええっ!?」」」」
四人が驚いて同じ声をあげた。俺はそんな馬鹿なと思い、声さえ出せなかった。
「精霊と契約できてるし、魔獣のソラさえも出来てるのじゃから、ドラゴンも出来るじゃろ。なあ? ソラよ!」
「う、ワン!」
ソラは俺に近寄ってきてホウトリング様に頭を撫でられた。嬉しそうだ。どうやら俺達が出かけているうちに、ホウトリング様に魔力をたくさん貰って仲良くなったようだ。
「ほれ。この【竜笛】で呼んでみてみぃ」
着物のような服の長い袖から【竜笛】と言われた骨のような笛を受け取った。
「見覚えある……」
確か俺達家族がこの異世界へ来て初めてドラゴンに乗った時、お城の騎士が持っていたのを覚えている。
俺は竜笛をジッと見てから、ホウトリング様を見た。俺はドラゴンを呼べるのだろうか?
「カケル殿なら、大丈夫じゃ」
ホウトリング様のその一声で俺は、安心して頷いた。わりと手にずっしりと重い竜笛は、どんな音が鳴るのか知らないけれど……とりあえず鳴らしてみることにした。
すぅ……と息を吸ってから、竜笛に口をつけて吹いてみる。
ピィ――、ピィ――! ピィ――!!
意外と甲高い音だった。三回竜笛を鳴らしてみた。……来るのかな? 来なかったら、がっかりだな。俺は空に浮かんだ二つの月らしきものを見つけて、思わず魅入ってしまった。この異世界に来た時は月が三つだった。
「今日は二つなんだ……、月」と呟いた。
日中なのに月が見える不思議なこの異世界の生活に、いつの間にかに慣れたなあ……と、ふと、考えてた。
月を見ていて、その二つの月が、ふっ……と三つになった。
「え?」
三つ目の黒い月は、だんだんと大きくなって俺達の真上に落ちてきた。
「うわ! 月じゃない!? ド、ドラゴン!?」
大きな羽、足から伸びる鋭い爪。そして……。
ドコォォオオオオン!
「「「きゃああ!」」」
愛里と姫様とサラサさんは悲鳴を上げた。
ドラゴンは、結界を突き破って降りてきた!
「はあ!? で、でかいドラゴンじゃ! 見たこともない!」
ホウトリング様はヨロリと体がふらついた。
「ホウトリング様が見た事ないドラゴンって……」
あまりにも大きいドラゴンがやってきたので、俺達は腰を抜かすほど驚いていた。




