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家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~   作者: 青佐厘音


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33 シルフ登場


  「これは……!」

 覚えのある、暖かい光。草木が一本も生えてなかった、硬い岩の崖だらけの渓谷に木々や草が芽吹いたり、花が咲いた。


 「すごい……」

岩肌に花を咲かせるほどの力を持つ、聖女。愛里はまぶたを閉じたまま、祈り続けている。

 「ん? ちょっ……、もういい! もういいぞ、愛里!」

 愛里の力で俺は全快していた。これ以上は、いい。

「愛里! そろそろやめないと!」

 皆の疲労も一緒に回復したようだ。不思議そうに全身を確かめていた。


 「あ! お兄ちゃん」

ふと、愛里は我に返ったようだ。良かった。これ以上続けたら何が起こるか分からない。

 「愛里さんのおかげで、皆も全回復しましたよ」

 サラサさんが愛里に話しかけた。

 「ついでに、渓谷全体も緑豊かにしたみたいだぞ?」

 ジョーさんは指で辺りを示した。ここだけではなく、連なる渓谷一帯を緑豊かにしてしまった。


 「すごい聖女の力ね……」

姫様は周りの渓谷を眺めながら、愛里に言った。

 「私、お兄ちゃんのケガを治すのに夢中で……」

やろうと思って渓谷を緑豊かにしたわけじゃない。けど、俺のケガを治すために力を使ってくれた。

「ありがとな、愛里」

 とにかく、無事で良かった。


 

 皆が落ち着いた頃。ふわりと優しい風が、俺達の顔を撫でた。

『勇者様達よ。風をとめ、草木一本も生えなかった渓谷を緑豊かにしてくれてありがとう御座います』


 頭上に俺達の半分の大きさの白く透き通った体をした、精霊が現れた。皆、驚きのあまり口を開けたまま精霊を見ていた。美しい姿をした精霊だった。

 長い髪が、サラリと風になびいた。


 「いえ。あなたは風の精霊様ですか?」

俺は精霊に話しかけた。精霊はにっこりと微笑み、綺麗な細い両腕を広げた。

『そうです。私は風の精霊 シルフ。勇者。お礼に、力になりましょう』


 どうやら愛里のおかげでシルフを仲間に出来たようだ。

「ありがとう御座います!」

俺はシルフに礼を言った。皆はまだ驚いている。……あ、精霊を見たのは初めてだったかな。それは驚く。

 

 『【魔法石】を授けましょう。これで私の力を使えます。あなたの力と私の力を合わせて使うと、数倍の威力になります。使い方には十分、気を付けて』

 シルフはそう言うと俺に【魔法石】を手に渡してくれた。これも剣にはまりそうだ。


『では。地上まで運んであげましょう。それから魔物など悪意のある者が入ってこないように、結界を張ります。あなたたちは特別ですので、またいらしてくださいね』

 そう言い、腕を動かした。

 「わ!」

俺達、全員ふわりと浮き上がって薄い丸い(まく)に包まれた。

 「きゃっ!」

「ええっ!?」

 「これは!?」


 その薄い膜に覆われて、俺達はふわりと空に浮かんだ。

『では』

 にっこりと微笑んだシルフはまた腕を動かして、俺達が中にいる薄い丸い膜を風で運び出した。

 「え?」


 ひゅ――ん!

 「きゃぁああああ!」

すごい勢いで、急下降し始めた。皆はどうしようもなく急下降に耐えた。

 「もっと穏やかに、降りた――い!」

 愛里は叫んだ。あれ? 何か覚えがある……。


 この世界に初めて来た時も、ドラゴンの急下降の洗礼を受けた。……もしかして移動はみんな、急下降なのか? と、歯を食いしばりながら急下降に耐えた。



 「ちょ……と、もう急降下は、やだ……」

愛里が涙目で地面に座り込んで言った。他の皆もグッタリとしていた。シルフのおかげで早く帰れたけれど、もう少し優しく降ろして欲しかった。


 見上げると渓谷中が緑で覆われていて、来た時とだいぶ様変わりしていた。

「綺麗ね」

 姫様が緑に覆われた渓谷を眺めて、思わず言った。確暴風で荒れくれていた渓谷の風がやんで、崖など土が見えていた場所に生き生きとした木々や花々が咲き乱れた。

 「本当に綺麗……」

 サラサさんも地面にぺたんと座り、渓谷を見て言った。


 「はぁ。まさかこんな……。この俺が、今まで経験のないことをするなんて」

ジョーさんは、ため息をついて立ち上がった。皆の手を取って、立たせた。ジョーさんは騎士をやめる前まで、かなり有名な騎士さんだったと噂で聞いた。母とも一緒に戦った人。

 「でもまさか、精霊さんに会えるなんて……。ね?」

 姫様は愛里と手を取り合って、頷いた。


 その時、シルフから風に乗って耳に小さな声で話しかけてきたのが聞こえた。俺だけしか聞こえてないようだった。その内容は、あとで仲間だけに教えて欲しい内容だった。俺は「分かった」とシルフへ返事をした。

 

 「よし。一度、ホウトリング様の所へ戻ろう」

俺は急降下の時の気持ち悪いのが落ち着いたので、みんなに話しかけた。

「ですね。精霊様に会えましたし……」

サラサさんが返事をしてくれたので、ホウトリング様の家へ戻ることにした。



 森の奥、サラサさんの案内で再びホウトリング様の家に戻ってきた。入るとき、結界に少し戸惑ったけれど何とか入った。

「ほうほう! 風の精霊シルフに会えたか! よくやったのう!」

 迎え入れてくれたホウトリング様は、ご馳走を作ってくれた。お腹が空いていたのでありがたく皆でご馳走になった。


 「皆、食べながらでいいから聞いてくれないか? シルフから教えてもらった事なんだけど」

ご馳走を皆で食べているとき、俺は皆に話しかけた。

 「どうぞ」

姫様、サラサさん、愛里は動かしている手をとめた。ホウトリング様とジョーさんはガツガツと食べている。 

 「どうやら【暴風の渓谷】はシルフの隠れ谷だったようで、魔族の侵略から暴風で守っていたようです」


 「魔族ですって!?」 

姫様は口元を拭いていたナプキンをテーブルに置いて、驚いていた。ホウトリング様とジョーさんの食事の手もとまった。

 「魔族じゃと? それは……!」

 魔物や魔獣ではなく、()()。魔物や魔獣を、命令で動かすことをできる高位の魔族。

 

 「シルフから聞きました。以前に戦った、アカツキという名の者の後ろにいた魔法使い。高位魔族だった可能性があります」

 父と母を元の世界に戻した魔族。アカツキというものは魔の力を持った者だったけれど、魔族ではなかったと思う。魔族にいいように使われていたような……。今はどうしているのか。


 「今までは動物が魔の力によって魔物や魔獣になり暴れていましたが、今後は黒い沼から魔物や魔獣が生み出されたり、魔族によって命令され町や村の襲われる可能性が高くなったと話してくれました」

 短時間だったけれどシルフは、俺にこれから起こるかもしれない危機を教えてくれた。

 「……」

 皆が俺に注目し、静かに黙って聞いていた。


 「いよいよ……。真正面から戦わなければいけない、時が来たのですね」 

 アリシア姫はテーブルに両手を重ねて、俺を真っすぐに見た。サラサさんが姫様の手に自分の手を重ねた。

 「皆がいらっしゃいます。力を貸してくださいますよ、姫様」

姫様を見るサラサさんは優しかった。愛里が姫様とサラサさんの重ねた手の上に重ねて言った。

 「私も力を貸しますのでご安心を! 姫様」

 ニコッと愛里は笑った。もう姫様だけの問題じゃない。異世界から来た俺達も、手を取り合って戦わなければいけない。


 「俺も、力になるぜ」

 コツンと俺の拳にタッチしてきた。ジョーさんもこのまま仲間で戦ってくれるならば心強い。

 「ワシはポーションを大量に作ろう。まかせなさい!」

 ホウトリング様も、ドン! と胸を叩いて言ってくれた。良かった。


 「とにかく、先に黒い沼を浄化しないとね」

 愛里が薬草茶を一口、飲んでから言った。そこから生まれる魔物や魔獣の数は多い。元から浄化しないといけない。

 「ですわね。向こう(魔族)も機会を狙っているわ」

 姫様はキリリと顔を引き締めて言った。


 「今日はさすがに、ここで休んで行きなさい。休むことも大事じゃぞ」

ホウトリング様に言われて、今日もここで休むことにした。


 食事後、片付けをしてそれぞれ自由にくつろいでいた。

俺はホウトリング様の家から外に出て、裏庭にいた。薬草畑だろうか? たくさんの薬草と野菜が植えられていた。

 ちょうど座り心地の良い切り株を見つけて座った。


 シルフにもらった【魔法石】を手に待って、それを指で転がしていた。綺麗な【魔法石】。これはシルフの力を持つ魔法石だ。他にもノームにもらった【魔法石】がある。

 「そう言えばサラマンダーとウンディーネからまだ【魔法石】を貰ってなかったな」

 俺は宝剣を腰から外して、観察するように見た。


 「この剣も立派なものだな……」

俺はしばらく剣を眺めていた。

 

 

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