31 古(いにしえ)の女神の加護と精霊達
俺が休んでいる間に、皆で夜ごはんを作ってくれていた。
シチューに薬草サラダ、キノコのキッシュと木の実が入ったパン。デザートのアップルパイまであった。
「美味しそう!」
俺は、とたんにお腹が減ってきた。グーグーとお腹が鳴っている。美味しそうな香りもしてるし、仕方が無いだろう。準備が出来て、皆が椅子に座った。お祈りをして静かになる。俺と愛里は皆に倣って手を合わせた。
「さあ、皆で食べましょう!」
サラサさんの掛け声で、皆が一斉に食べ始めた。温かい食べ物はホッとする。
「このシチュー、美味しいですわ!」
姫様が、ジョーさんの作ったシチューを気に入ったようだ。上品に木のスプーンで口に運んでいる。
「お城の料理人の作る最高なものと違って素朴だけど、気に入ってもらえて良かった」
ジョーさんは照れながら、姫様に返事をした。
「シチューも美味しいし、この薬草サラダ苦みが無くて新鮮。キノコのキッシュは何だか食べなれたような感じで美味しいし、こんなに木の実が入ったパンは食べたことない。みんな、美味しい!」
俺はパクパクと食べながら、食レポみたいに言った。語彙力ないけど。
「お口に合って良かったです。たくさんあるので、お代わりして下さいね」
サラサさんがニコッと笑った。
「キノコのキッシュは、私が作ったのよ? お兄ちゃん」
愛里がクスクスと、笑いながら言った。
「だからか! 食べなれた味だと思った。美味しいよ、愛里」
俺はニカッと笑った。よくお休みの日に、愛里がよくキッシュを作っていた。
「木の実のパンは、ホウトリング様の手製のパン。アップルパイは、姫様がお作りになったのですよ」
サラサさんが教えてくれた。
「姫が? すごいな。さっそく食べていい?」
一通り食べたので、デザートを食べたくなった。
「たくさん召し上がりましたね。取り分け致しますわ」
アリシア姫様が、アップルパイを切り分けてくれた。
「ありがとう!」
大きなリンゴが入ったアップルパイだ。表面に、パイ生地で作った花が飾り付けられていて可愛らしかった。
「では私はお茶を淹れてきますね」
サラサさんが椅子から立ってお茶を淹れに行った。
「アリシア様は器用なのですね! 私にアップルパイの作り方を教えてください!」
愛里が可愛いアップルパイの飾りを見て、瞳をキラキラしていた。
「私で良かったら」
姫様は微笑んで愛里に言った。愛里は嬉しい! と喜んでいた。
皆も食べ終わり、食後のお茶を飲んでいた。そろそろ話した方がいいかな。
「洞窟であったことを、話すよ」
皆が注目した。俺はコクンと一口、薬草茶を飲んだ。
洞窟でソラは入れなかった事。魔物や魔獣が、たくさん出てきて倒したこと。
最後にゴーレムと戦い、倒せたことを話した。
「ううむ。いつもと違う勇者の試練だったようじゃな……」
「え?」
ホウトリング様が、何か考えるような仕草をして言った。
「歴代の勇者達の話を聞くと。洞窟を進むときは魔物や魔獣は出て来ず、最後に魔獣と戦って、勇者にふさわしい武器を与えると聞いていたが……」
「ええ!?」
俺の時は、たくさん魔物や魔獣が出てきたけど?
「とにかく無事で良かった!」
もしかして危なかったのでは? 本当に無事で良かった。
「それで? 武器や祝福は贈られたのかな?」
ホウトリング様はテーブルの上で手を組んで俺を見た。皆も食べたり、飲んだりするのをやめて俺を見ていた。
「武器は剣でした。祝福……、とは?」
祝福って何だろう? 俺は首を傾げた。すると愛里が俺の手を取り、皆に甲を見せた。
「これを見て下さい。お兄ちゃんの手の甲に現れた、この紋章ではないですか? ホウトリング様」
愛里が、俺の手をテーブルの上に引っ張って皆に見せた。
「こ、これは!?」
「わっ!?」
ホウトリング様がテーブルに乗りだして、俺の手を掴んだ。じっくりと甲に浮き出た紋章を見ている。皆も気になったのか身を乗り出して、俺の手の甲を食い入るように見た。
「その紋章は女神さまの紋章ですわ」
姫様が、甲の紋章を見て言った。ポケットから手帳みたいなものを取りだして、皆に見せてくれた。
「これは王家の宝物庫から見つけたものです。古代語で書かれていて、半分くらいしか解読出来てませんが。確かにカケル様の甲に浮き出たものは、古の女神さまの紋章です」
古の女神さまの紋章?
「ええと……? どういうこと?」
「つまり。古の女神の加護が得られた……ということではないでしょうか? ホウトリング様」
姫様はホウトリング様を見た。しかし姫様は古代語を読めるのか。凄い。
「うむ。間違いない」
ホウトリング様は頷いた。皆がワッ! と湧いた。
「凄いです! カケル様!」
サラサさんが俺の手を握った。
「古の女神の加護……驚いた」
ジョーさんは指で紋章をそっと触った。くすぐったかった。
「お兄ちゃん! 良かったね……!」
愛里が喜んでいる。……古の女神の加護ってどんなのだろう? 俺は実感がなかった。
「洞窟では皆の祈りが届いたよ。そのおかげで、女神さまの加護が得られたんだ」
俺は皆にお礼を言った。皆は照れていたが笑っていた。
「皆でお祈りしていたの。力になれたなら良かった」
愛里がそっと教えてくれた。
「あ、そうだ。あとシルフを探せって、ノームが言ってた」
俺は思い出して皆に話した。
「……」
とたんにシーンと部屋が静まり返った。え? 俺、何か変な事を言ったかな?
「シルフ!? ノーム!? 選ばれた者しか会えない、上位精霊じゃぞ!」と、ホウトリング様は大きな声で言った。
「ですわ!」と姫様は驚いた顔をして言った。
「だよ!? お兄ちゃん!」と、愛里は怒ったように俺に言った。
「まじか……」
ジョーさんは口を開けたまま、ボソリと言った。
「今まで歴代の勇者様では、いらっしゃらなかったかと……」
サラサさんは頷きながら言った。……そんな凄いことだと、俺は知らなかった。
「ところでシルフって、どこにいるのかな?」
シルフを探せ、と言われても心当たりはない。その辺にいるものじゃないと思う。
「そういえば、そうだよね? 何かノームさんからヒントを教えて欲しかったね、お兄ちゃん」
愛里が首を傾げながら言った。
「これは、この国に昔から伝わっているお話なのですが……」
サラサさんは思い出したように、この国に伝わっている話を教えてくれた。
「『風の精霊 シルフは風の谷からやってきて、人間と仲良くなれば町や村に良い風を吹かせる。だが人間が自然を壊すようなことをすれば、シルフは怒って人間に害をなすだろう。決してシルフを怒らすな。まわれまわれ、クルクルと。三回まわれ……』と子供が眠るときに必ず聞かされるお話です」
ジョーさんや姫様、ホウトリング様までも頷いた。
「風の谷……というものがあるのですか?」
シルフの名前が出てくるお話。何か関係があるのでは? 俺はサラサさんに聞いてみた。
「風の谷……という場所はないのですが、暴風の渓谷という場所はあります」
暴風の渓谷……? 風が強い渓谷か。
「その名の通り、風が強く吹く渓谷です。ほとんど人は近寄らない場所ですね」
サラサさんとジョーさんは、お互い顔を見合って頷いた。
「違うのかな? 他にシルフの名前がある、言い伝えられたお話とかありますか?」
他にあったならいいけど。
「いいえ。聞いたことがないですね」
サラサさんは少し考えて答えた。ないらしい。
「……王家の書庫に、古代語で書かれた精霊の本を見たことがあります。持ち出し禁止なので、手元にはありませんが読んだ事があります」
姫様が、カップに紅茶を注ぎながら言った。
「それぞれ、好む場所というものがあってシルフは、常に風の吹いている場所を好むらしいのです。風の精霊が風を好むのは当たり前の様ですが、行ってみても良いのではないのでしょうか?」
話が終わり、上品に姫様は紅茶を飲んだ。
「そうね。行ってみてもいいかも?」
愛里が姫様に話しかけた。姫様は愛里に微笑んだ。
「決まりだな。万が一ハズレでも、あそこの場所は良い薬草が取れると聞いたことがある。ホウトリング様の良い土産を持って帰れる」
ジョーさんは賛成してくれた。皆が一緒ならば心強い。
「よし。では、明後日。準備して出発しようか。カケルは大丈夫か?」
ジョーさんは俺の体調を気遣ってくれた。
「大丈夫です」
明後日ならば体調も回復するだろう。
「女神さまの加護を受けると、馴染むまで体に負担がかかるのです。カケル殿、無理は禁物ですわよ?」
姫様が言った。皆が俺の体調を気遣ってくれてる。嬉しい。
「姫様は、古代語や精霊に詳しいのですね? 私も勉強させて下さい」
愛里が姫様に話しかけていた。確かに姫様は詳しい。聖女である愛里も知っていた方が良いだろう。
「もちろんですわ、愛里さん。聖女である貴女の方が、知っていた方がいいですのよ」 「私の方が?」
俺はホウトリング様のいるキッチンに行き、クルミのクッキーをもらって食べながら愛里と姫様の話を遠くで聞いていた。
「精霊は光のものを好みます。聖・魔法は光の魔法。聖女である貴女は仲良くなれるでしょう」
姫様は愛里に話をしてくれていた。愛里は興味深そうに聞いていた。年が近い二人。愛里は一般庶民から聖女、だけど姫様は身分に関係なく接してくれるから良かった。
姫様も楽しそうだ。
「姫様は幼い頃、聖女候補になったことがあるのです」
サラサさんが俺の近くにきて、話をしてくれた。
「聖女様は、国の待ち望んだお方だったので皆、喜びました」
え? 姫様が聖女様候補だった? 初めて聞いた。
「聖女として、色々お勉強なさいました。……だけど魔法使いの素質の方が強く、制御しにくいまでありましたので、候補から外れてしまいました」
聖女候補から外れるなんて。そんなこともあるんだ……。俺は、仲良く愛里と話をしている姫様を見た。聖女候補として勉強。だから古代語や精霊のことが詳しいのか。
「魔法使いの訓練では、大変だったようです」
サラサさんはそっと姫様を見た。
「一時期、感情を無くされた時もありまして。愛里さんと楽しそうにお話しされているのを見ると、微笑ましく思います」
姫様は姫様で色々大変だったのか。これを機に、愛里と仲良くなって笑顔が増えるといい。
姫様がこちらに気がついて話しかけてきた。
「カケル様も、精霊の事を教えてさし上げます!」
「ああ。よろしく頼む」
俺は、愛里と姫様の真向いの椅子に座った。二人とも楽しそうだった。このまま楽しく過ごせればいい。
でも、魔王との決戦が近づいて来るのを感じた。




