30 勇者の証と宝剣
無意識。無の動き。
こう動こうとか考えず、反射神経または経験などで意識せず体が動いた。
ゴーレムの攻撃をかわしながら、流れるように胴体へ剣を滑らせた。まるで抵抗など無いようにスッと入っていった。
右足に体重を乗せてバランスを取り、ゴーレムの胴体から剣が抜けた。
「ウガッ……!?」
一瞬。何が起こったか分からない感じだったゴーレム。胴体が上下半分になって地面に滑り落ちた時、殺気と攻撃がとまって全てが崩れ落ちた。
「やった……のか?」
以前にもあった、無の時の力。この力は何なのだろう?
『よくやった。みごとだ』
重々しい声が、洞窟内に響いて上から光の玉が降りてきた。その光の玉は、先ほど振ってきた暖かい光の粒とは違うものらしかった。光の玉はだんだん人の形になっていった。
「小人!?」
俺の腰ぐらいの高さの小人だった。光の玉から小人になったので驚いて思わず言ってしまった。
『小人じゃと……? う、うむ。我は【ノーム】と言われとる地の精霊じゃ』
ひげを生やし、帽子を被っている。姿を表したのは地の精霊だった。
「地の精霊!? それは失礼しました!」
俺は頭を下げた。
『うむ、よろしい。我は、代々の勇者へ証を授ける役割を担っている。証とは何だと思う? 勇者よ』
勇者の証とは、何か。質問がいきなり来た。なぞなぞじゃないよな? 地の妖精ノームは、ひげを触りながら俺の答えを待っている。
「……俺がこの洞窟を一人で戦い進んできて、感じたこと。あきらめない・無になること・仲間を信じる でした」
あの上から降り注いだのは、愛里と皆の力のもの。あの光は聖・魔法。皆の力も感じた。
『真面目じゃのう。……だがそれでいい。あきらめない(不屈の精神)・無になること(雑念を捨てる)・仲間を信じる(数倍の力)か! うむ、合格じゃ!』
え、合格? 試練に勝ったのか……? ノームはニコニコと笑っていた。
「あり、がとう御座います。あっ!?」
手にしていた愛用の剣が、ガキィィィン! という音とともに半分に折れてしまった!
「そんな!? 剣が折れた!」
ゴーレムの硬い胴体を切っただろうか? ありえない大きな音を出して折れてしまった。
『ふうむ。折れてしまってか……』
ノームは卑下を触りながら俺を見た。そしておもむろに口を開いた。
『ホウトリングに鈴を渡されてないか?』
いままで忘れてたけどそういえば渡されていた。何に使うか分からないままだった。ゴソゴソと便利カバンの中からベルを取り出して見せた。
「これ、ですが」
不思議な事に、ベルを振っても音がしないんだよな。
『そうそう、それじゃ! えいやっ!』
ノームの指先がベルに触れた。
「え?」
リイン! リイン! と振ってもないのに音が鳴り始めた。どんな原理なんだろう?
『そのまま、真っすぐ進むのじゃ!』
「えっ!? は、はい!」
勢いよく言われて、俺は言われた通りに真っすぐへ進んだ。
「壁、ですけど……うあっ!?」
壁に行き当たり、ノームの方に振り返った。手をついたらスルリと壁をすり抜けてしまった。リンリンリンリン! とベルが鳴り響いてから、静かに鳴りやんだ。
転びそうになったので咄嗟にバランスを取った。
「危なかった……。ん? ここは?」
小さな空間に祭壇。見ると女神の像があった。後ろを振り返ると入ってきたところは閉じられていた。
「え? 何かしないと出られない部屋じゃないよな? まさか」
自分で言っていて笑ってしまった。
「ん?」
その前には、輝いて光っている剣が岩に刺さってあった。
「これは……勇者だけが抜ける剣、だったりして」
近寄って触ってみる。しっくりと俺の手に馴染んでいるような感覚がした。力を軽く入れて岩から抜いてみる。
「まさか、そんなに簡単には抜けないよな……?」
スポッ!
「抜けた! 抜けた!? え?」
昔から使っているような手にしっくりと馴染むこの剣は、俺がもらっても良いのだろうか? 見かけよりも軽く、簡単に動かせられるだろう。たぶん普通の金属じゃないような気がする。
『そこにあるものはおぬしのものじゃ。戻ってこい』
「え、あ、はい!」
俺のもの……でいいんだ。こんな良いものをもらって嬉しい。腰の所へかけた。
「んんっ?」
ベルが俺を引っ張った。引っ張ったというのは正しいか、どうかわからないけど俺の意志ではないものが壁に連れて行く。
スゥ……。
「え」
壁をすり抜けて、ノームのいた広い空間へと戻ってきた。
『ご苦労さん。一人一人、授かる武器が違うのじゃ。おぬしは剣を授かったのじゃな』
ノームは俺の腰にある剣を見て言った。
「そうなのですね」
ちょうど剣が折れてしまったので、良い剣を手にいられて良かった。
『真の勇者になるには条件があった。おぬしは全部、クリアできたのじゃ』
良かった。クリアできたんだ。俺はホッとした。
『おぬしの進む道は、おのずと見えてくるだろう。皆と協力して進むのじゃ!』
「ありがとう御座います!」
『我の力、地の力を貸そう。使い方は……。ああ、その剣に窪みがあるじゃろ? そこに、この玉を埋め込むといい』
「え?」
ノームに言われた、剣の窪みに渡された玉をはめた。
『五つ、玉がはもうめられる。もう手に入れた、サラマンダーとウンディーネから、玉を貰ってはめるといい』
「サラマンダーとウンディーネからですか?」
魔法を使えば二つの力が使えているけど……。
『その玉は【魔法石】と言って、選ばれた者しか手に入らないものじゃ。精霊に、気に入られてさらに勇者となった者しか授からぬ。大事にせい』
「はい」
俺は貴重なものを手に入れた。はめた球をジッと眺めていた。大地の色の黄金色の玉だった。綺麗だ。
『我はもう眠りにつく。うるさいのは好まん。……魔王を倒してくれ。勇者カケル』
「はい!」
俺はノームと別れて、洞窟の来た道を戻った。
「わふん!」
入り口で待っていてくれたソラが、しっぽを振って元気よく迎えてくれた。
「ソラ――!」
俺は残った体力でソラに駆け寄り、抱きついた。はぁ……。もふもふ、癒される……。両腕をソラの首に抱きついて、へなへなと足元から崩れ落ちた。
「あ、れ?」
体がブルブル震えている。これは……力が入らない?
「わ、ふうん!」
ソラが鳴くと、体が少し大きくなった。中型犬から大型犬になった。ソラは体を動かすとうまい具合に俺を背中に乗せた。
「え? もしかして乗せて行ってくれるの? ソラ」
「ワン!」
乗せて行ってくれるらしい。ありがたい……。
ソラの首へまわした両腕に、力を込めた。
「たのむよ……、ソラ」
「くぅぅぅん」
俺がぐったりしているので心配してくれてるらしい。優しいな、ソラは。俺はソラのもふもふの背中に乗って、洞窟の試練を無事に終わらせて皆の待つ、ホウトリング様の家へ帰った。
「お兄ちゃん! 大丈夫!?」
ホウトリング様の家に着いた時、俺はソラの背中からズルリト床へ倒れてしまった。ソラは家の中まで入ってくれて、愛里の前で俺を降ろしてくれた。
「あ……。何とか勇者の証と宝剣を、受け取ってきた……」
いつもより疲れた。全身に力が入らない。
「お――! 証と宝剣を受け取ってくるとは、さすがカケル殿だ!」
ホウトリング様もやってきて話しかけてきた。
「試練を終えた者は皆、こうなる。十分に寝かせてやらねばならない。奥の部屋へ運んでくれ」
ホウトリング様の奥の部屋を借りることにした。ジョーさんに担がれて、移動した。
「まあ、お帰りなさいませ! カケル様」
アリシア姫様とサラサさんが湯上りなのか、髪の毛が少し湿っていた。どうやら俺は半日くらい、洞窟に入っていたらしい。
愛里が部屋まで来てくれて、看病してくれることになった。
「衰弱してます。ホウトリング様の言う通り、十分に休息をとって栄養のあるものを食べてゆっくりして」
「わかった……」
愛里の言うとおりにしよう。ダルイ。
ベッドまでジョーさんに運ばれて横になる。
「あれ? お兄ちゃん、この手の甲の紋章はどうしたの?」
脈を診るのに、愛里が俺の手を取った時に見つけたらしい。紋章みたいだなと思ったけどやっぱり紋章だったか。
「どうくつの中でゴーレムと戦っているときに、天井からキラキラした光が降り注いできてその時に、手の甲にできた……」
自分でその紋章を見た。見慣れない紋章だ。
「なあ、愛里。この紋章ってこの国のもの? それとも教会の?」
違うような気もしたけど聞いてみた。
「この国の紋章でもないし、教会のでもないわ」
「そうか」
ふう……と深く息を吐いて目をつぶった。愛里は俺に向けて手をかざす。キラキラと光が包んで体が楽になった。
「ありがとう。愛里」
どうやら体に負担がかかったらしい。いつもの疲労と違った。
「もう休んだ方がいいわ。夜ごはんになったら呼びに来る」
そう言い、愛里は静かに部屋を出た。俺は話したいことがあったけれど、とにかく眠ることにした。
『あと一つ。シルフ(風の精霊)を探せ。そうすれば妖精の王に会えるだろう』
洞窟で会ったノームの声じゃない。シルフ? を探せって……?
俺は、俺達兄妹は帰りたいだけ。でも……ここで出会った皆の力になりたい。
『【魔法石】を集めれば、……』
え? なに? よく聞こえない!
「お兄ちゃん?」
「うあ!」
俺は寝ていたらしい。愛里に肩を叩かれて起こされた。心配顔の愛里がいた。
「少し、うなされてたよ? 大丈夫?」
コップに入った水を渡してくれた。ありがとうと言ってコップの水を飲み干した。
「大丈夫だ。もう夜ごはん?」
愛里の顔を見てホッとした。夢? を見ていたらしい。
「皆で夜ごはんを作ったから、食べよう。歩ける?」
「ああ」
上着を肩に引っかけて、皆のいる所へ愛里と歩いていく。洞窟であったことを皆に話したい。そして、夢のことも。
「おっ! もう大丈夫か、カケル!」
ジョーさんが、大きな鍋からシチューを皆のお皿に分けていた。エプロンをつけている。
「まあ! カケル様。体調は大丈夫ですの?」
アリシア姫様がスプーンをテーブルに置いていた。姫様も働いている。
「大丈夫。心配かけた」
「良かったですわ。椅子に座ってください」
サラサさんが椅子に座るように言ってくれた。言葉に甘えて座ることにした。
「うむ。無事に帰って来てくれて良かった。食べながらでも、食べ終わってからでもいいから話を聞かせてくれ。カケル殿」
ホウトリング様はすでに座っていて、待ちきれなかったのかチーズをかじっていた。
「はい」
俺は皆の姿を見ながら頷いた。




