28 魔物との戦闘と黒い沼の浄化
とにかく夢中で剣を振った。次々と魔物が湧いてきてキリがなかった。
「ウイングカッター!」
アリシア姫様が風の魔法を広範囲に使うと、数は減った。
「ありがとう! アリー!」
俺はアリシア姫様に愛称で礼を言った。姫様はポッと顔を赤くした。照れているようだ。
「切っても、キリがない!」
いくら魔物になったとはいえ、気分のいいものではない。でもやらないと、こちらがやられる。俺は必死になって切り続けた。ソラも大きくなって戦っていた。強い。
「サラサは左の魔物を倒してくれ! 俺は右側の魔物を倒す!」
「はい!」
ジョーさんもサラサさんも、頑張って魔物を倒している。……俺にもっと、力があったなら! みんなを守る、力!
『力が欲しいか』
「えっ?」
突然、頭の中に声が響いた。なんだ? 動きをとめて、俺は辺りをキョロキョロと見た。
「カケル! ボーっとするな!」
ザシュッ! 右から俺に襲ってきた魔物を、ジョーさんが倒してくれた。
「すみません! ありがとう御座います!」
危なかった。集中しなければ!
しばらく夢中で魔物を倒していると、ほぼいなくなっていた。
「ふ――っ! ほとんど倒したか? 凄い数だったな」
ジョーさんが額の汗を拭いながら言った。足元には凄い数の魔物が倒れていた。辺り一帯、魔物で埋め尽くされていた。
「こんなに……、たくさんの魔物を、倒したのは初めてです……」
ハァハァ……と息切れしながら、サラサさんは言った。
「私は魔法を制御しながら使っていたので、まだ平気です」
姫様の魔法は強力なので、制御していたらしい。余裕はありそうなので、まだ魔物が出てきたら姫様にお願いしたい。
「私は初めて魔物を倒しちゃった……」
愛里をかばいながら魔物を倒していたけど、そのうちに聖・魔法を使って魔物を消滅させていた。聖・魔法、すごい。
「ふう……。とにかく出ていた魔物は倒したみたいだし、次また出てこないように浄化させよう。愛里、まだ聖・魔法は使えるか?」
愛里の魔力の残りも気になるが、体調は大丈夫かと心配した。
「うん。魔力もまだ大丈夫」
「無理はするなよ、愛里」
コクンと愛里は頷いた。
「……アイリ。黒い沼の、浄化をお願いします」
姫様がスッと黒い沼に近づいて、愛里に話しかけた。
「はい……」
愛里も黒い沼に近づいて、ドロドロした何かよくないもののギリギリまで足を運んだ。
「気をつけろ」
ジョーさんが愛里に注意した。いつ魔物が黒い沼から出てくるかわからない。表面はボコボコしていて、黒いガスを噴き出している。あまりこの黒いガスを吸わない方がいいだろう。
「……浄化」
何か歌のような詠唱が聞こえたけれど……。それは小さく、はっきりとは聞こえなかった。膝をついて、両手を組んで祈る愛里。周りに光が輝いて、森中に拡がって行く。
「綺麗……」
愛里の聖・魔法を見たサラサさんが囁いた。
黒い沼に注がれた愛里の聖・魔法は、キラキラと光って沼を覆っていく。
「まあ!」「なんと!」
姫様とジョーさんは大きな声を出した。俺も驚きの声を出す。
「黒い沼が、透明な綺麗な泉になった!?」
先ほどまで黒くドロドロして黒いガスを出していた沼は、見違えるように綺麗な泉へと変わっていた。浄化されたようだ。
「まさかこんなに綺麗な泉へと変わるなんて! アイリ、素晴らしいわ!」
姫様は愛里に抱きついて喜んだ。愛里も姫に喜んでもらって嬉しそうだ。
「私にできるか心配だったけれど……。喜んでもらえて良かった」
サラサさんも笑っている。
「……前の魔王討伐の時は聖女様が不在で、こんなに綺麗に浄化は出来なかったんだ。勇者であった君たちの母君も少しの浄化は出来たが、悔しがってたよ。聖女様が居ればもっと浄化できたのに、と」
母が? そうだったんだ。聖女様が居なかったんだ……。
「あの。前の聖女様はどんな方か、分かりますか?」
愛里がジョーさんに聞いた。ジョーさんはちょっと言いにくそうに教えてくれた。
「もう300年も……聖女様は現れていない」
「えっ?」
300年も?
「おお……! 黒い沼を浄化してくれたのか! ありがたい!」
俺達は聖女様が300年も現れてないことを話していたら、森の奥からお爺さんが急に歩いて近づいてきた。
「ドクトリング様!?」
その姿は賢者ドクトリング様にそっくりだったが、雰囲気が違った。いったいこのお爺さんは誰だ?
「いや、違う……」
俺が思わず言うと、お爺さんはニヤリと笑った。
「さすがだな、勇者。皆もワシについて来い」
そう言い、くるりと森の奥に歩き出した。皆と顔を見合わせた。どうする? まさか罠じゃないよな?
「ほほっ! 罠ではないぞ? ワシはドクトリングの双子の弟だ。兄から頼まれていたことがあってな……」
姿かたちは賢者ドクトリングと瓜二つだ。俺はソラを見た。
「わん!」
大丈夫そう? 俺達はドクトリングにそっくりな、弟さんに警戒しながらついて行った。
かなり高齢のお年寄りなのに深い森の中を迷わず歩いて行く。
「愛里様の浄化の力は凄いのぉ……。助かりましたよ」
ドクトリングの弟さんは、うんうん、と頷きながら言った。しばらく弟さんについていくと立ちどまった。
「結界を解かねば……むん!」
どうやら結界が張ってあったらしい。深い森の奥に木でできた家が、結界を解いたためか見えてきた。
「お茶でもご馳走しようかのぉ……。まあ適当に座りなさい」
ドクトリングの弟さんは俺達に座るように言ってくれた。家の中は薬草なのか紐でまとめた、たくさんの草があちこちにぶら下がっていた。
「お久しぶりで御座います。お師匠様」
サラサさんが弟さんにひざまついて頭を下げた。
「お師匠様?」
俺がサラサさんを見るとにっこりと微笑んだ。
「薬草学を教えていただいた、お師匠様です」
そうなのか。え、薬草学?
「こちらの賢者ドクトリング様の弟君、薬草学の師匠ホウトリング様です」
サラサさんが、弟さんを紹介してくれた。
「本当に、賢者ドクトリングの弟君なのですか? 聞いたことがない」
ジョーさんは疑いの目で言った。むりもない。あんなに魔物がうじゃうじゃいる森の中から、飄々とのんびり歩いて近づいて来たのだから。
「むぅ……仕方が無いのぅ……」
そう言い、弟さんは胸元からサッカーボールくらいの丸い玉をひょいと出した。
「えっ!? どこにしまってあった?」
俺が驚いていると弟さんは笑った。
「まあ、細かいことは気にするな。……もしもし、兄者。ワシじゃよ」
弟さんは水晶らしき玉に話しかけた。一点の曇りもない透明の玉。
『おお! ホウトリングか! 姫様一行は無事にお前の所へ着いたか?』
近寄って皆で水晶を覗くと、ドクトリングの姿が見えた。
「ドクトリングおじいちゃん!」
愛里が水晶に映ったドクトリングに話しかけた。おじいちゃん? 皆がぎょっとしている中、愛里は構わず話し続けた。
「森の中にあった【黒い沼】の浄化が、出来ました!」
水晶に映ったドクトリングへ微笑みながら話しかけた。水晶に映るドクトリングは「そうか、そうか!」と笑い、愛里としばらく水晶を通して話をしていた。
「……弟君なのは、間違いないな」
ジョーさんはゴホンと咳払いをした。
「薬草学のホウトリング様。先ほどは失礼しました。お詫びいたします」
頭を下げてジョーさんは、ホウトリング様に謝罪した。
「いや。君のような疑う人間も必要じゃぞ?」
頷き、ホウトリング様はジョーさんを許した。良かった。
『そうそう! ホウトリング、勇者のアレをしないとな』
「そうじゃった! 忘れるとこだったわ」
勇者のアレ……? なんだろう?
「師匠、勇者のアレとは何でしょうか?」
皆が疑問を持った中、サラサさんが聞いてくれた。お年寄りが良く言う、言葉が出なくて アレ といってしまう現象だろうか。
「勇者の儀式じゃ」
「「「「「えっ!?」」」」」
皆が、あっけにとられていた。勇者の儀式? それは大事な事じゃないかな……。
「兄者。もう話をして良いかのう?」
『よろしく頼む!』
わりと軽いノリで言われた。大丈夫か?
「カケル殿。なぜおぬしが、こちらの世界に来て勇者とならなかったのか教えてやろう」
テーブルへ置かれた水晶に、まだ賢者ドクトリングが映っている。本当にそっくりだ。
「気を逸らさず、しっかりと聞くがいい」
ホウトリング様に水晶へ気がそれているのがバレていた。真剣に聞こう。
「はい。お願いします」
椅子に座りながら、頭を下げた。
「まあ、薬草茶を飲みながら聞きたまえ」
テーブルを囲みながら、ホウトリング様の話を皆で聞いた。
「この世界にカケル殿が転移して来た時、勇者であるカナ様と一緒だったのは覚えているかのぉ?」
「はい。家族の皆で、強制召喚されました」
覚えている。いきなり家族の皆で召喚された。父と母は初めてじゃなかったけれど。それが無かったら、父と母の秘密は知らなかった。
「この世界に現れるのは、勇者はただ一人。昔からそうなのじゃ」




