27 目的地に向かって
まだ魔獣討伐の旅が始まったばかりなので、こんな良い宿に泊まれたと思う。街から近い場所だし。
もちろんアリシア姫様やサラサさん、愛里などを野宿させたくはない。が、俺とジョーさんは正直こんな良い宿に俺も泊っていいのかと、戸惑っていた。
「まあ……。旅は始まったばかりだしな」
「気にするな。良い寝床に寝られるうちは、寝ておくといい」
ジョーさんに言われて、そうだなと思うことにした。
早朝、晴れていい天気だ。
アリシア姫様はさすがにドレス姿ではなく、動きやすい服に着替えていた。長いローブは落ち着いた青い色をしていて姫様に似合っていて上品だ。
愛里は聖女らしく白いローブだけど、旅用なのか装飾は極力少なくして布が厚めで色々な防御魔法をローブに追加したらしい。
サラサさんとジョーさんの服装は、騎士がつけるような短めの白と青のマントでカッコいい。普通の人の旅人服より上等な服だった。
俺は、上質なシャツにズボン。その上に、青に白の線が入った長めのマント。なかなかカッコよくて気に入った。
「カケル殿のマントに、色々な魔法をつけてさし上げあげます」
ウインクして、俺に魔法をかけてくれた。ブワットと俺の周りに風が起こり、マントに吸収されていった。
「総合的に能力が上昇しているはずです。これは半永久的に効果がありますので、ご安心ください」
「え、凄い」
少しの呪文を唱えただけで、半永久的に効果があるなんて。
「マントに魔法陣を定着させて、魔力を巡回させるのですね! なるほど。すごいです、アリシア姫」
愛里は見えているのか、姫様の魔法の原理をあっさりと解説した。姫様は驚いていたが、愛里に微笑んだ。
「一瞬で見抜く、愛里様の方が凄いですわ」
ただ……、と姫様は続けた。
「あまり魔法の種明かし的な事は、秘密でお願いしますね」
ふふ……と微笑みながら唇に、人差し指をあてていた。
「あっ、そうですね! ごめんなさい。秘密にしますね」
まだ魔法は、俺達兄妹にとっては覚え始めたばかり。これから教えてもらっていかないといけない。
「さて、出発するか」
ジョーさんが地図を確認して歩き出した。姿は見えないけれど、たぶん姫様の影達はこっそりとついて来るだろう。気配はしている。
「はい」
それぞれがジョーさんに返事をした。
愛里は長い髪の毛を一つに、みつあみにしていた。アリシア姫様が愛里に話しかけていた。
「その髪型も可愛いですね、愛里様」
褒められた愛里は嬉しそうに姫様に返事をした。
「ありがとう御座います! あ、私の事は愛里と呼び捨てで呼んで下さい」
ね? と愛里はアリシア姫様に言った。アリシア姫様は薄っすらと頬を赤くして、にっこりと微笑んだ。
「で、では。愛里……ちゃん?」
姫様は、なかなか親しい人が出来ても呼び捨てで呼びあう人などいないだろう。戸惑っているが嬉しそうだった。
「愛里ちゃんか――、新鮮! そのうちで良いですから、呼び捨てでお願いしますね!」
愛里はニコニコしながら姫様に言った。
「あ、では私も皆さまに アリシア と呼んでもらえないでしょうか?」
姫を呼び捨て? う――ん。
「じゃあ、アリー という愛称はどう?」
呼び捨てはアリシア姫様の影達に怒られそうなので、愛称だったら呼びやすいしいいかな?
「いいね、お兄ちゃん! どうかしら? アリー? って愛称!」
「あ……。はい。嬉しい、です」
どうやらアリシア姫様は照れているようだった。可愛い。
「決まりね! アリーって呼ぶね!」
愛里が楽しそうに姫様を呼んだ。
「はい!」
姫様も嬉しそうだ。
俺達がほのぼのとしていたら森の中から白いもふもふ……じゃなかった、ソラが俺達に走り寄ってきた。
「う、ワン!」
「ソラちゃん! 朝のお散歩は終わったかしら?」
サラサさんがソラを撫でながら話しかけた。基本、ソラは紐などで繋いでない。人が近づくと姿を消す。襲い掛からないし、どうやら俺たち以外は、姿を見せたくないらしい。賢い魔獣だ。
あと、ひっそりとサラマンダーとウンディーネもついて来ている。姫様と愛里にはバレているみたいだけど特に何も言われてない。
「ソラ、朝ごはんは?」
俺がしゃがんで手のひらを差し出すとソラは寄ってきた。
「わふん!」
ズッ……! と何かが抜ける様な感覚がする。魔力が抜ける感覚らしい。ソラの朝ごはんはこれで終了だ。
「お腹いっぱいになったか?」
「ワン!」
お腹がいっぱいになったらしい。良かった。
「カケル殿は凄いな。ずいぶん魔力量を吸い取られたようだったが、平気なのですか?」
サラサさんはびっくりしていた。確かにずいぶん吸い取られた気はするけど。
「まあ、大丈夫です」
俺が返事すると愛里が心配していた。
「お兄ちゃんの能力って、未知数……」
そう言いながら愛里はソラを撫でた。……そうなのかな?
道はわりと舗装されていて、アスファルトほどではないが歩きやすかった。
5人+ワンコ(魔獣)+精霊で歩いて行く。
「ソラちゃんは大人しくて、おりこうね」
サラサさんはソラを褒めた。
「わふん!」
ソラは褒められてご機嫌だ。スキップみたいな歩き方をしてみせて、皆が和んだ。このまま何もなく、楽しく旅を進めたらいいな。
「まだこの辺は城の近くで、すぐに助けが来るからいい。もっと城から離れた町や村は、自分達で守らなければならない」
ジョーさんは道を真っ直ぐ見て、俺達に話しかけてきた。
「今までは、町や村の人達だけでも魔物を退治出来ていた。しかし、だんだん魔物が凶暴化し魔獣まで町や村を襲い始めた。皆が不安になっている」
歩きながら続けて話す。
「もしかすると、【魔王】が復活するのではないか? と……」
「……」
ジョーさんはどこまで知っているのだろうか?
勇者であった母と戦った騎士。父のことを知っているのか? アカツキ といった次の魔王のことも。
アリシア姫様と愛里はわかっている。サラサさんも聞いていると思う。近いうちにジョーさんに話しておいた方がいいな。
「報告にあった 黒い沼 は、もう少し進んだ場所にある。気をつけて近づこう」
「え? こんな近くに?」
愛里が警戒したようだ。確かに街に近い。こんな所から大量の魔物が湧いて、襲われたらいくらお城の近くでも間に合わない。
「急ごう。気をつけて」
ソラが警戒始めたので、近くに魔物がいるかもしれない。
森の中の道に入り、左右を警戒する。火事になるので火の魔法は使えなくなる。広範囲に効果のある魔法も、森にダメージを与えるので控えたい。
「アリー。炎系の魔法は控えて」
俺は念の為、アリシア姫様に伝えた。
「はい」
姫様は杖をギュと握り直した。だんだん深くなる森を進んで、俺達は緊張してきた。
「ガチガチに緊張すると、イザというとき体が動かなくなるぞ。リラックスして。大丈夫だから」
ジョーさんが皆に話しかけた。助かる。
「何か、来る」
俺は皆に警戒するように片腕を上げて、制した。ソラも体を低くし、白い毛を逆立てていた。
「グルルルル……」
「私は、何をしたら……?」
愛里がちょっと、うろたえていた。後方支援で回復魔法を主にしていたので、戦闘になったら、自分は後ろで待っているだけでは駄目だと思ったのだろう。
「補助魔法はできるな? 肉体強化や結界、聖•魔法を使って魔物や魔獣の動きをとめてくれ!」
「は、はい!」
ジョーさんのアドバイスで、愛里は戸惑いが吹っ切れたようだ。
「アリー、風の攻撃魔法はできるか? その他、氷魔法は?」
「できます!」
ジョーさんが的確に指示をする。さすが元騎士だ。
「俺とサラサはカケルを補助するから、思いっきりやってくれ。ただし、火の魔法は使うな!」
「はい!」
ジョーさんの指示に従い、構えた。
ギャオオオオ――!
木々の間から、魔物の群れが飛び出してきた!
「うわっ! 数が多い!」
小動物が魔物になったと思われるもの、大型の動物はより巨大化して魔獣になっていた。
そして……。黒い沼が奥の方に見えた。そこからたくさんの何かが湧き出ていた。
「動物の形を……してない?」
愛里が口元を手で隠した。腐ったような匂いが漂ってくる。
「腐ったような匂い? 何これ……」
姫様も初めて見たのだろうか? ドロドロとした形のないものが見えた。
「これは……?」
ジョーさんも見たことがないような顔をした。元騎士ならこの国の魔物や魔獣は見慣れているはず。なのに……。
「黒い沼から魔物達が出てます。まず、魔物達を倒してから黒い沼を浄化しましょう!」
サラサさんが皆に言い、剣を構えた。
「了解です!」
愛里が両手を上に掲げて歌を歌うように詠唱した。皆に補助聖•魔法がかかった。キラキラと光って見えたのでわかった。
「おー! 凄い! 聖•魔法を重ねがけしたな!」
「凄い……!」
「ありがとう、愛里! 行くぞ!」
俺は剣を抜いて魔物の群れに突っ込んで行った。




