23 甘いパンケーキと苦いコーヒー②
「お? 本当に美人だな。こっちに来い」
下品な声を上げてサラサさんの腕を掴んだ。
「!?」
「やめろ!」
俺は、サラサさんの腕を掴んだ人相の悪い人の腕を掴んで払った。すると数人の人相の悪い人達が、俺に敵意を持ってにじり寄ってきた。……まずいな。
魔獣相手なら手加減なしで倒せるけれど、人間相手だと下手したら大怪我をさせてしまう。
「王子様、気取りか? はん! ガキが!」
いきなり殴りかかってきた。俺は反射的に避けると、相手は顔を真っ赤にしてさらに怒りをあらわにした。
「なんだ? 避けられてやがる」
「うるさい!」
仲間から馬鹿にされて、ますます頭に血が上っている。わざと殴られれば良かったのか?
「ほら。俺と遊ぼうぜ? うわ!」
サラサさんに抱きつき声をかけてきた男は、あっという間に地面に倒れていた。サラサさんが男を投げ飛ばしていた。強い。さすがだ。
「ちっ! 皆、痛めつけてやれ!」
「おう!」
男の一声で俺達に襲い掛かってきた。剣は抜けない。避けるのが精いっぱいだ。サラサさんは男達に体術でいなしている。だけど息切れしていた。
俺は殴り合いの経験は少ない。避けるだけだ。くそ……!
「女の子と一人に大勢で、何してる?」
俺達と人相の悪い人達とは別の声が、割り込んできた。威圧的な低い声。
「なんだ? てめえは!」
振り向くと背の高い、赤毛の男性が立っていた。俺達は突然現れた男性に驚いていた。人気のなかった裏路地に音もなく現れた。
バキッ!
男性はいきなり人相の悪い人達に殴りかかった。
「くっ……! 強いぞ! この辺で許してやる! 引くぞ!」
人相の悪い人達はヨロヨロとしながら、バタバタと去っていった。
「ああいう輩は手加減しなくてもいい」
大人数相手に傷一つなく、息も乱れてなかった。振り向いて俺達に言った。
「あり、がとう……御座いました」
スッと背筋の伸びた背中。鍛えられた筋肉。他にも色々武器とか扱えそうだ。この男性は強そうだった。
「ジョーンズ先輩!?」
サラサさんが男性を見て驚いていた。知り合いらしい。
「久しぶりだな。オブライエン嬢。俺は今、ジョーと名乗っている。ただの冒険者だ」
冒険者? もしかしたら……。
「あの……」
俺はサラサさんとこの男性の、話の途中に割り込むのは気が引けたけれど、確認したいことがあった。
「ん? なんだ?」
嫌がらずに俺の方へ向いてくれた。良い人かも。
「もしかして、ギルド長が紹介したい人物って貴方ですか?」
俺は直球で聞いてみた。突然現れた男性。もしかして? と思った。サラサさんもハッ! として男性を見た。
「ん――? たぶん、そうだ」
男性……ジョーさんは曖昧に返事をした。
「なぜ、曖昧な返事なのですか……?」
サラサさんはジョーさんをじっと見て言った。ジョーさんは手のひらを上にかざして笑った。
「ギルド長があるパーティーを紹介するとは聞いていたが、どんなパーティーか、何が目的なのかは聞いていない。だから、すぐには返事は出来ないと返事をしたはずだ」
なるほど……。ギルド長は強引な人なのかな?
「まさか、もと同僚のオブライエン嬢のいるパーティーだとは思わなかったな」
「私もまさかギルド長が、紹介したい人物がジョーンズ先輩だとは……」
お互いに驚いているようだった。
「あの! とりあえずここから移動しませんか?」
また変な奴らに絡まれたら面倒だ。
「そうね」
「そうだな。俺に付いてこい」
俺達はジョーさんのあとに、ついて行くことにした。
治安の悪い場所から移動してしばらく歩くと、メインの道に出た。色々なお店があって人通りもある。ホッとして力が抜けた。
「城下の街は比較的、治安がいいが……。さきほどの裏通りはうかつに行かない方がいい」
ジョーさんは渋い顔をして言った。
「うっかりしてました。気をつけます」
俺ならそんなに絡まれることはないだろうけれど、サラサさんのような綺麗な人は危険かもしれない。今後は愛里やアリシア姫と行動するので、気を引き締めないといけない。
「ここは俺が一時的に借りている部屋だ。入れ」
住宅街に建っている二階建てのアパートメントだった。建物はまあまあ古いが中は綺麗だった。その二階の部屋に案内された。
「まあ、適当に座ってくれ。茶くらいは出す」
部屋はドアを開けるとテーブルと椅子が四つ、本棚とシンプルな部屋だった。奥に扉があるから寝室とキッチンがあると考えられる。
「失礼します」
サラサさんは遠慮がちに椅子に座った。俺も続いてサラサさんの隣に座った。横を見ると窓があって、部屋から見下ろすと通りが良くみえそうだ。
「俺が淹れたお茶だから、そんなにうまくないが……」
そう言い、ジョーさんは俺達の前にティーカップを置いた。
「いえっ! 先輩自ら入れてもらえるなんて……恐縮です!」
サラサさんはペコリと頭を下げた。ジョーさんに、よほどお世話になったのだろうか?
とても尊敬しているように思えた。
「はははは……。変わらないな、オブライエン嬢は。もう上官ではないから、普通にしてくれ」
ジョーさんは少し困ったように言った。もう上官じゃない……?
「君は……」
ジョーさんは俺達の向かい側に座って俺に話しかけてきた。穏やかだけど、どんな人物かを探る目だ。元騎士だからか。
「カケル・アマノです」
名乗り、頭を下げた。一瞬驚いた顔をしたけれど、ニコッと笑った。ちょっと無精ひげと赤い髪の毛がぼさぼさだけど、整えたらカッコいい人なんじゃないかと思った。
「ああ。勇者 カナの息子か。君の母君とは一緒に戦った。強かったぞ」
「えっ! 母を知っているのですか」
勇者……。母と一緒に戦った人……。俺の知らない勇者の母。
「まあな」
ジョーさんはティーカップを持って、お茶を飲んだ。
「いただきます」
俺もお茶を一口飲んだ。うまくないとジョーさんは言ったけど美味しかった。
「あの、先輩は……」
「先輩というのもやめろ。ジョーと呼んでくれ」
サラサさんにジョーさんは、ジョーと言うように言った。サラサさんはちょっと気まずく身動きした。
「……はい。ジョーせんぱ、……さんは私達のパーティーに入ってくださいますか?」
サラサさんはストレートに聞いた。ジョーさんは微動だにせず、サラサさんを見ていた。
「……私達? 君達、二人の他のメンバーは誰だい?」
お茶を飲みながらジョーさんは俺達に聞いた。サラサさんはゴクリと喉を鳴らして口を開いた。
「私とカケルさんと……、アリシア姫様と聖女アイリ様です」
サラサさんが嘘ごまかしもせず、ジョーさんに話をした。
俺はジョーさんが、どんな反応をするか気になった。
「……魔獣討伐と、やがて現れる魔王討伐のパーティーなんだな」
冷静に、俺達を交互に見つめて話しかけてきた。
「姫と、聖女。そして勇者になる者。すぐわかった」
ジョーさんはおもむろに立ち上がった。窓の外を見て、カーテンを閉めた。
「部屋に入った時から、この部屋に遮断魔法をかけていた。安心しろ。俺は味方だ」
こちらを向いて言った。少し警戒していたのがわかっていたのか。
「俺は、騎士はやめたが姫様の諜報員として街の様子を探っていた。姫様から『近いうちに私は、貴方の力を借りるかもしれない』とおっしゃっていました」
騎士の礼である、胸にこぶしをあてて目をつぶった。
「俺はアリシア姫様に大恩がある身。姫様のためならば喜んでこの身を捧げます」
ジョーンズさん改めジョーさんは、俺達のパーティーに無事加わった。
「騎士をやめて冒険者になり、街やその他の地域に詳しくなったからその辺は任せてくれ」
頼もしい仲間が出来た。俺は喜んだ。
「よろしくお願いします。ジョー先輩」
あれ? またサラサさんは先輩呼びになっていた。
「よろしくお願いします!」
俺はジョーさんに右手を出して握手を求めた。ギュッと力強く握り返してくれた。
「カケル殿。俺がしっかりと体術を教えてやるよ」
ニカッと笑ってジョーさんは言った。頼もしい……。
優しい人だと思うけど、甘くなかった。……俺ももっと強くならないとな。




