21 ギルド長
「パーティー名……。どうしようか」
俺は、パーティー名を決めるという小説に出てきたシーンを思い出しながらニヤニヤしないように無表情で言った。いや、少しニヤけていたかも。
俺はカッコいい名前にしたかったが、サラサさんは女性が多いから可愛い名前にしたいと言ったのでそれぞれ意見を出し合い、なかなか決まらなかった。
そんな俺達は目立っていたようで、人が集まってきてしまった。
「俺は強いぞ? パーティーに入ってやろうか?」
体にいくつもの傷がある、厳つくて目つきの悪い男が話しかけてきたり、どう見てもサラサさん目当てのナンパ男が近寄ってきてしまった。
「困りましたわね……」
「ああ」
出直してみるか……。そう考えた時、ギルド受付のリンルさんが人だかりをかき分けて俺達のいるテーブルに顔を出した。
「カケルさん、サラサさん。この人だかりでは大変でしょうから、場所を変えましょう」
リンルさんはそう言い、集まっている人達に離れるように言った。
「ハイ、ハイ! 皆さん、離れて――! 依頼がたくさん来ているので、受けて下さいね!」
パンパン! と手を鳴らして、いかつい冒険者たちを俺達から離してくれた。
「こちらへ」
俺とサラサさんはリンルさんに案内されてついて行った。ギルドの案内カウンターの台の一部が上げられて、リンルさんは中へと入った。
「ここからは、ギルド長が案内します」
リンルさんはにっこりと微笑んだ。――え? ギルド長!?
カウンターの奥に長身の、日に焼けた髭のはやした筋肉モリモリのおっさんがこちらを見ていた。
「ついてきな」
あごをクイッと動かして、カウンター奥にある扉を開けて入って行った。
「どうぞ中へ」
リンルさんに促されて、俺達は扉の中に入って行った。
木でできた階段は、登るたびにギシギシと音が鳴った。建物自体が古く、歴史を感じた。ギルドにいた冒険者たちが、ひそひそと話していたのが聞こえたからここは普段入れない場所なんだと感じた。
「ここはギルド長の部屋だ。入れ」
階段を登った先。ギィ……と軋む扉を開けてギルド長は言った。
「はい」
ペコリとお辞儀をして中に入らせてもらった。
「そこに座ってろ。茶を出す」
ぶっきらぼうに言い、ギルド長は大きなソファーにドカリ! と座った。
「あ、はい。失礼します」
「失礼する」
断りを入れて、俺達は座った。すぐにギルドの制服らしき服を着た、ひょろひょろと細い体の男性がお茶を淹れて来てくれた。
「どうぞ」
この国のお茶と呼ばれるものは、紅茶だ。ちょうど喉が渇いていたので良かった。
「ありがとう御座います。いただきます」
サラサさんも同じだったようで、礼を言い紅茶をいただいた。お城で飲んだ紅茶は極上だったけど、この紅茶も美味しい。
「その紅茶は遠い国で作られたものだが、なかなかいい香りだろ?」
俺はあまり詳しくないけどこれはアールグレイだろうか?
「なかなか味わえない、薫り高い紅茶ですね」
サラサさんがギルド長に返事をした。さすが貴族の騎士様。所作が綺麗だった。
「ところでアンタ……、貴族のお嬢様だろう? それも高位の」
「!?」
ジッと何でも見透かすように、俺達を見ていた。
「あと色んな街や村を救った、男の噂を聞いている」
ギルド長はニヤッと笑った。……俺達の正体はもうバレている?
「ギルドの情報網を甘く見るなよ?」
俺は心の中で、うろたえた。
「さすがだな、ギルド長。私達はお城から来た者だ」
冷静にサラサさんは、ギルド長に話しかけた。サラサさんとギルド長は、長いこと目を合わせてお互いを探りあっていた。
「このところ、魔獣の被害にあう町や村が増えてきた。お城の騎士団が頑張ってくれてはいるが、あちこちで魔獣が出現すれば対処できなくなってくる」
ギルド長はふとサラサさんから視線を外して、話し始めた。
「このギルドにも魔獣の討伐依頼が多数、入ってくるようになった」
カチャンとティーカップを持ち上げて、ギルド長は紅茶を飲んだ。ゴクゴクと飲み干した。
「魔獣の、あちこちの町や村への多数の被害。聞こえてくる勇者とアリシア殿下と聖女の噂……。何となく察した」
いかつい顔のギルド長は俺を見た。
「お前、勇者だろ?」
俺はゴクリと紅茶を飲んだ。
『お前、勇者だろ?』
ギルド長に言われて俺は戸惑った。……母は、勇者だったらしい。それは聞いた。だけど母が勇者だったからと言っても、息子は必ず勇者にはなれない。世襲制じゃないし。え、世襲制じゃないよね?
俺が返事に戸惑っていると、サラサさんが代わりに返事をしてくれた。
「今はまだ言えません」
ピリリとした空気が俺にも伝わった。さすがギルド長というのか。歴戦の強者感を感じた。サラサさんも負けてはなかったけれど。
「その時機が来たら、お知らせします」
背筋がピンと伸びたサラサさんは目を逸らさず、ギルド長に話しかけた。真面目に誠実に偽りなく。
フーっと長いため息をついてギルド長は俺を見た。
「わかった。……全面的に協力することを誓う。お前達に協力することは、この街の者達全員の命までを救うことになるだろうからな」
鋭い眼光を俺に向けられた。
その言葉の裏には、戦う者への『責任と命を預かる重さ』をギルド長に気づかされた。
「……お願いします」
俺はギルド長に返事をした。まだ俺は『勇者です』なんて自信を持って言えなかった。
「一人。紹介したい者がいるが、今は不在だ」
リンルさんはギルド長に頷いた。ギルド長から紹介される人物なら、よほど優秀なのだろう。不在なのが残念だ。
「やつの事だから聞きつけて、あんた達に接触してくるだろう」
やつというならば男性だ。強いといいけど。俺はゴクゴクと紅茶を飲み干した。
「……ではそろそろ失礼する」
サラサさんはそう言うと立ち上がった。騎士なので動作がキビキビしてカッコいい。俺も立ち上がって、サラサさんに続いてギルド長室から出ようとした。
「強くなってくれ。勇者となる者よ」
「え」
振り返ってギルド長を見るとニカッ! と笑い、手のひらをヒラヒラと振って別れの仕草をした。
「さてどうしましょうか……?」
ギルドから出て俺達はどうしょうか迷った。ギルド長が紹介してくれる人物は不在だったし、このまま帰るのはまだ早いし。
「せっかくだから、街の様子も見て回りましょう。サラサさんの見たいお店とか行きましょうか?」
俺よりは知っているだろうと思って提案してみた。サラサさんの息抜きにもなるだろう。
「え、いいんですか? 行ってみたいお店があるのですが……」
サラサさんはちょっと遠慮がちに俺に話しかけてきた。行きたいお店があるならかまわない。
「あ、いいですよ。案内してください」
俺が言うと途端に凛々しい顔から、照れたような可愛らしい表情になった。思ってたより年が近いのかな?
サラサさんに案内されて行くと、カフェらしいお店に着いた。
「同僚たちにも噂になっている、美味しいパンケーキが食べられるカフェなんですよ」
そこは数人が並んでいた人気らしいカフェだった。異世界でもパンケーキが人気なんだ。
「同僚と行こうと約束してたのですが、都合が悪くなってしまって……来られなかったのです」
肩をすくめてサラサさんは言った。本当に来たかったようだ。
「今日はこれでも並んでいる人数が少ないようです。カケル様、入っても良いでしょうか?」
「もちろんです!」
俺は即答した。




