17 西の街 討伐終了 もふもふ 犬みたいな魔獣
街の入口に待機していた救護班と合流した。
かなりのケガ人が出たようだが、聖魔法でケガを順番に治していた。
「愛里」
立ち膝で手をかざし、聖魔法でケガ人を治している愛里を見つけた。
「はい。もう大丈夫です」
「ありがとう御座います!」
手を離してにっこりと微笑む愛里は、まるで聖女様のようだった。いや、もう聖女様と言っていいのではないか?
「お兄ちゃん! 大丈夫? ケガはない?」
心配してこちらに来た。
「ああ、ケガはない」
愛里はホッとした顔をした。ふと、右側を見ると広範囲で地面がえぐれて、塀や建物が破壊されていた。
「あれは?」
「アリシア王女様が、トロルを倒してくださったの」
愛里に聞くと、また大きなトロルが入口近くから建物を破壊しながら襲ってきて、アリシア王女が強力な魔法で退治したという。
「皆さん、ご苦労様です」
アリシア王女が皆をねぎらいながら歩いていた。ほぼ魔獣と魔物を倒したので皆、ホッとしていた。
「愛里さん、カケルさん。ご苦労様でした」
俺達の所まで来て話しかけてくれた。
「アリシア王女様。魔法で、トロルを倒すなんて凄いですね」
俺がそう言うと王女は横を向いて、はにかんだ。
「い、いえ……。ただ、やりすぎてしまって……」
王女は魔法制御がまだうまくない。確かに地面が抉れているほど強力だ。
「魔法を使う時は冷静にと教わったのですが、急に現れた大きなトロルに驚いて制御不能でしたの」
ふう……とため息を落とした。そんな仕草も可愛いくて。俺は微笑んだ。
周りの騎士達もニコニコと笑っていた。
「愛里さんは、魔法制御が出来ていらっしゃいますね。羨ましいですわ」
王女は愛里に話しかけた。
「あ、いえ。私は傷を見て加減がわかるので……。アリシア王女は強力な攻撃魔法を使えるので、凄いです!」
「まあ!」
王女は愛里に褒められて、嬉しそうだった。二人のほのぼのとした会話を聞いて、場が和やかになった。
「ほぼ魔獣と魔物を討伐したので、帰還するぞ! 街に残る処理班、残る護衛騎士以外は隊列を組んで行く! 準備しろ!」
隊長の命令で皆が動き出した。
「愛里さん、一緒に行きましょう」
「はい。じゃあ、お兄ちゃんお城で」
「ああ」
後方支援の二人は一緒に、馬車に向かった。
「カケル――! 俺達も城に戻るぞ!」
「おう!」
騎士達と俺は、馬に乗って城へと戻った。
西の街の魔獣や魔物の様子は、まとめて騎士団団長が王様に報告した。
凶悪な魔獣が増えたこと、魔物も形が崩れているモノもいたこと等……。人を襲うものは、共通して目が赤く光るということも付け加えた。
「あと、どうやら魔のモノでも襲わないものもいるようです」
それは初めて聞いた。
「ほう? 魔のモノでも襲わない……、か」
王様は何か考えて黙り込んだ。ズラリと並んだ家臣達と騎士団の皆は王様の言葉を静かに待っていた。
「興味深い。調査班を向かわせろ」
「はっ!」
団長さんはひざまついている体勢から立ち上がって、礼をしてから王様の前を下がった。
「調査班の人選は俺が決める。ニックとカケル」
「「はいっ!」」
俺とニック先輩が選ばれた。
「二人が主に中心になって調査してくれ。あと何人か選ぶ。以上だ」
「「はい」」
団長の後について騎士団は謁見の間から下がった。
「カケル、調査は慎重に行こう」
「はい!」
たくさんの騎士さん達に、頑張れよと声をかけられた。
次の日。
ニック先輩と数人の騎士達と、森の中に入って調査を始めた。
「魔獣が現れるかもしれんから、気をつけて調査をしろ」
「「はい!」」
ニック先輩がリーダーとなって森の中を進んだ。
「まとまって行動しろ。一人になるな」
「はい」
街からそんなに離れていない森の中だけど、数人で行動しているので慎重に歩いていた。
「カケルはそっちを探してくれ」
ニック先輩の指示のもと、俺は先輩と逆の方向を探した。
「この辺から魔物とか出てきそうだな……」
だんだん生い茂る木々の影で暗くなってきた。一歩進むごとに草木が足に絡んできて、歩きにくくなってくる。
カサカサ……。
「ん?」
俺のじゃない足音。他の騎士でもない足音が聞こえた。
魔物だろうか?
ぴょこ!
草むらから顔を出したのは、モコモコの白い毛の……犬? かな。
でも大型犬よりも大きくて、普通の熊くらいあるかも。
「え? 魔獣?」
それにしては攻撃的ではないし、ハッハッ! と、舌を出してふさふさのシッポを振っている……。可愛い、けど!
「おいで……?」
俺が手を前に出して見ると、草むらから出てきた。全身が見えると、白い長い毛が綺麗な大きな、犬……らしき魔獣だった。
普通の犬はこんなに大きくないし、目が赤かった。
――危険、なんだろうけれど不思議と怖くはなかった。
自分より三倍くらい大きな犬。
俺の手の匂いを嗅いで、それから舐めた。
「わ!」
くうぅぅぅん。と鳴いて俺にすり寄って来た。
「なんだ。可愛いなあ……」
俺が頭を撫でたら頬を舐められた。可愛い。
この大きな犬はどうしたのだろう?
俺はしばらく犬の毛並みを触って堪能していた。ふわふわな白い毛の魔獣を撫でまわしていると「グルっ!」と鳴いて、お座りをした。
白い毛の犬は自分の前足を俺の右手に、ポンポンと軽く叩いて来た。
「ん? 何だ?」
痛くはないけど、何かおねだりをしているのか?
ぺろりと右手を舐めた。
「もしかして、俺の魔力を食べたいのか?」
竜は魔力を喰うと聞いた。犬みたいな魔獣も魔力を主食? なのかと思った。
「わふっ!」
しっぽを振りながら鳴いた。どうやら当たりらしい。
「お腹が空いてるのかな。少しならいいぞ」
そう言い、右手をひらいて犬の口の前に出した。
「グルっ!」
「指とか、かじるなよ?」
片足を地面につけて、しゃがんだ。
白い犬はぺロッと、舌を出した。ピカッ! と光って、手のひらから犬の口へと光が消えていった。
「え? うおっ!」
体の中から一気に血が抜かれたような、そんな感覚がした。
「わん!」
しっぽをパタパタと激しく振っていた。ご機嫌らしい。
「美味しかったのか……?」
犬の頭を撫でると更に激しく、しっぽを振った。
「そうか、良かったな」
俺自身、食べられなくて良かったし。
「お前、この森に棲んでいるのか?」
撫でながら目の前のワンコに聞いた。何となく話がわかるかなと思った。通じなくても良いと思ったし。
「わん!」
話が通じた? 偶然?
「そうか。人間に攻撃する気がないならいいけど、姿を表さない方がいい。それがお互いのためだ」
名残惜しいけど、もう行かないと。それに、攻撃してこないタイプの魔獣もいるということがわかった。
けれど攻撃してこない魔獣ならば、物珍しさで人間は捕まえようとするだろう。狭い檻で生かされるより、のびのびと生きて行く方がいい。
「お前の事はないしょにするから、もう住処へ帰るといい」
立ち上がってワンコから離れた。可愛いけれど魔獣だ。俺達とは暮らしていけない。大きくて白い毛のふわふわワンコ。俺は振り返らずに、来た道を歩いた。
道と行っても草木が生い茂る道。足に絡みつき、歩きにくい。先輩達と合流するために進んでいた。思ってたより離れていたらしい。なかなかたどり着けなかった。
「……」
俺は自分の進む足音ともう1つ、草木を進む大きな音がずっとついて来ているのに気がついていた。単に帰る方向が一緒なのかなと思っていたけれど、そうではないらしい。
くるりと振り返ると、すぐ後ろにさっき別れたはずの白い毛の大きなワンコがついて来ていた。
「わん!」
「駄目だぞ」
俺はかまわずにまた道を進んだ。
ガサガサ……。ガッサガッサ……。
ついて来てる……。
「帰らないと、いけない!」
「くうぅぅぅん……」
うっ! 寂しそうにこちらを見ている。……昔、捨てられていた子犬を見つけて我慢できなくて拾って飼った記憶が蘇った。
「そんな目で見るなよ……」
瞳が、うるうるとしていて悲しそうだ。
「くうぅぅぅん」
大きな体を小さくしてお座りした。しっぽは元気なく、動いてない。
「くっ……!」
この姿のワンコを見て見捨てられない……! ご飯は竜と同じ魔力ならば、またお腹が空くに違いない。お腹が空いて違う人間の前に表れたら、どちらかがやられてしまうかも……。
「お城なら、広いよね……?」
「くうぅぅぅん?」
顔を傾げた! めちゃ可愛い……!
「よし! 俺が飼おう! ご飯は俺の魔力! 大丈夫! ……かな?」
ワンコの首のあたりを撫でると、うっとりとした顔をした。
「お前、俺と一緒に来るか?」
ワンコに聞いてみた。
「わん!」
するとワンコは、俺の方を見て返事をした。……と、いうことにしよう。ほんとに返事したかは、まだわからない。
「ワンコ……じゃあ、呼びにくいなぁ。名前をつけていい?」
何となくワンコに聞いてみた。
「わん!」
本当に俺の言っていることが、わかるみたいだ。
「んじゃあ……。ん? 男の子か、女の子か? ……両方でもいい名前を、つけようか」
「わふっ」
しっぽを振っている。どんなのにしよう。
「ソラ……はどうかな?」
青空のソラ。苗字が天野だから、天野 ソラ。
「ソラ! お前の名前は、ソラ。どう?」
一瞬、ピカッと光った気がした。ソラは、しっぽを激しく左右に振っていた。
「わん! わん! わん!」
ぺろぺろ、ぺろぺろと、俺の顔を舐めまわした。
「わあ! ソラ、くすぐったいって!」
俺はソラに体を倒されて、顔を舐めまわされていた。




