12 父、母 強制的に元の世界に…の後
「ひ、姫様……!」
「アリシア王女様!」
お城まで走ってくると、賢者ドクトリングが駆け寄ってきた。その後ろには王女付のメイド達が真っ青になって走ってきた。
「早く寝かせてやらぬば……」
「このまま背負って行きます!」
軽いとはいえ、ドクトリングやメイドさんに王女を背負って部屋まで行けないと思った。
「そうして頂けると助かります!」
俺は部屋まで王女を背負って行った。
王女の部屋まで行き、寝かせてあげた。こんな時だけど部屋はいい香りがした。
「アリシア王女の魔法は強力だ。しかし、かなりの魔力を消費してしまう。……加減がまだできないのじゃ」
ドクトリングは心配そうに王女を見た。
「下手したら、魔力切れをしてしまって死んでしまう危険がある。何とか修行させたいのだが、アデル王子が反対していてのう……」
ドクトリングは、ヒゲを触りながら話してくれた。アデル王子はなぜ、修行するのを反対してるのだろう?
「王族の姫が先頭に立って行くものではない……じゃと」
一理ある。だが、修行をしたほうがいいのに。
なんかモヤモヤする。アリシア王女は不自由ではないか? と心配になった。
「長く居ては迷惑だと思うので、俺達は行きます。ドクトリング、父と母の事で話があります」
「お、おお。場所を変えて話そう」
俺達は王女の部屋から出て、別の部屋に移動した。
お城の中は広い。空いている部屋を使わせてもらうことにした。
とりあえず、俺と愛里は先程の戦いで汚れているのでお風呂に入ってから会うことにした。
着替えをしてドクトリングが待つ部屋に行った。
「以前に戦った アカツキというものが現れて、父と母は空中に出た魔法陣に吸い込まれて、現代日本へ強制的に還らせられてしまいました」
「なんと!」
ドクトリングは「信じられない……」と言って立ち上がった。
「あいつが魔法陣を出したわけじゃなく、たぶん他の誰かが出した魔法陣だと……」
俺はアカツキを見ていた。魔法を使ったのは魔獣に魔法の玉を作り、投げたときだけ。
魔法陣を出したわけじゃない。
「そうか……」
ドクトリングは考え込んでしまった。
「俺と愛里はショックで……」
「お兄ちゃん……」
愛里は泣きそうになっていた。
「……とりあえず、ゆっくり休みなさい。儂がどうにかできるか調べよう」
「ありがとう御座います」
俺と愛里はそれぞれの部屋に帰った。
愛里を一人にするのは心配だ。
どうしたら……。
俺はベッドにダイブして顔をこすりつけた。
「くそっ……!」
俺は何も出来なかった。ただ、見ているしかなかったから悔しい!
アカツキの見下した、あの顔。
父と母を、強制的に元の世界に帰した奴は誰だ?
怒りでおかしくなりそうだ!
ベッドの上でバタバタしていた。
不意に声が聞こえてきた。
『力が 欲しいか……?』
「誰だ!」
顔を上げて、部屋の中を見渡した。――誰もいない。
気のせいか? ベッドの横に置いていた剣を持つ。
「……」
もう、聞こえない。空耳だったのだろうか?
ここはお城。強力な結界が張られているはず。侵入者じゃないといいけれど。
「……聞こえない。気のせいかな」
ホッとして、俺は剣を手の届くすぐ横に置いた。
はぁ……。
異世界に来たら、チートな力を手に入るんじゃなかったのか。何で俺だけ……。
「枕に八つ当たりしてやる!」
天井めがけて投げた! ……ただ、天井に当たって下に戻って来ただけだった。
「うぷっ!」
はぁ……と、深いため息をはいた。
「馬鹿だな、俺は」
枕を顔に押し付けて目を瞑った。さすがに疲れていたので、そのまま眠ってしまった。
早朝。
俺は訓練場に来て一人、素振りをしていた。
俺みたいな何も持ってないやつは、地道にやっていくしかない。
「はぁ……。チートな能力があったら良かったのに」
ブンブンと木刀を振り回していた。
父、母は魔法陣で、強制的に日本へ還らせられてしまったし。俺達、どうなるのだろう?
勇者であった母のおかげで、衣食住は十分すぎるほど与えられたけど……。これからは今までのように、暮らせない。
俺達も何か、働いたりしないといけない。
ドクトリングに相談してみようか……等、考えながら木の人形を叩いていたら、握りが弱くて手を痛めてしまった。
ガンッ!
「イテッ!」
しまった……。ビリビリする。
「くっ……。痛い……」
両手のひらに血が滲んでいる。
「大丈夫ですか?」
朝の光を銀色の髪にまとわせた女神のように、アリシア王女が訓練場にいた。
「え!? あ、アリシア王女!?」
王女に似合わない場所で、2度も会った。
「手を……」
「ふぁ?」
アタフタしているうちに、アリシア王女は俺の手を取った。
「ひどい傷。治しますね」
アリシア王女が俺に話しかけているうちに、回復魔法をかけてくれた。
「あっ? ……凄い。もう治っている」
「もう痛みはないですか?」
さっきまでズキズキと痛みがあった、両手のひらの傷が無くなっていた。
「うん。ありがとう、アリシア王女」
顔を上げると、アリシア王女と目が合った。
しばらく目と目が合って、アリシア王女が綺麗なのでジッと見つめてしまった。
「あ、あの……。何か顔についてますか?」
頬を染めて、アリシア王女は俺に言った。
「あ! いや、ごめん! その……」
俺はまだ、アリシア王女に手を握られているのに気がついた。
「……」
「あ! 私ったら……。ごめんなさい。離しますね」
手を握ぎっていることに気がついたアリシア王女は、パッと手を離した。
「で、では。私はこれで……」
恥ずかしかったのか、慌てたように行ってしまった。
サラリと風になびいた髪の毛は、とてもいい香りがした。
俺はこれからの事を、賢者ドクトリングに相談をしに来た。
賢者ドクトリングの部屋……というより研究所は、お城の隣にある塔だった。賢者ドクトリングとその弟子達のため、塔全体が研究所だ。
「ふうむ……。自立したいと言う事か?」
ドクトリングは、変な匂いのするお茶を飲みながら俺に言った。
「はい。それぞれ出来ることを探して、やっていこうと決めました」
俺と愛里は、いつ帰れるか分からない。父と母はアカツキによって強制的に、この世界から飛ばされてしまった。頼る人がいなくなってしまった。
俺達は覚悟を決めて、自分達の力でやっていかなければならない。
それに……。いつまでも王家のお世話にならない方がいい。特にアデル王子は、気をつけないといけない。
アデル王子の思惑通りにはされたくない。
「うむ。その方がいいかもしれん……。そうじゃな……」
ドクトリングはあごひげを触って少し考えてから、顔を上げた。
「カケル殿は、騎士団に入るのはどうじゃ? あそこなら騎士の寮があるし食事も付く」
騎士の寮か……。衣食住が確保できるのなら。
「入りたいです! 強くなりたいですし!」
「まあ、騎士になる訓練はキツイぞ。生半端な覚悟で入って、すぐ逃げ出す者が毎回いる」
団長が困っていてのう……と、呟いた。そういえば人手不足と言っていたな。
「俺は入隊したいです。……愛里が安全に、生活できる所はありますか?」
俺は騎士団へ入隊することにした。愛里と別々になるのは気がかりだが……。
「愛里様は、教会側が大歓迎してくれるじゃろ。まだかまだか、と前から言われていたから」
教会か。良さそうだ。
「教会は聖女様を祀っており、王家も口出しは難しい独自の場所だから思うようにされないじゃろ」
ニッとドクトリングは笑った。王家も口出しは難しい? それなら安心だ。
「聖女候補達をお守りする、聖騎士団もあるし」
聖騎士団? 何それ。カッコいいんですけど!
俺が目を輝かせているとドクトリングは察したのか、俺に話しかけた。
「ウオッホン! 聖騎士は、エリート中のエリートじゃ。家柄、所作、容姿、強さ、人柄がそろった人格者のみ、なれる」
え……無理じゃん。俺はテンションが下がった。
「カケル殿と愛里様のことは任せるといい。話を通しておこう」
ドクトリングは俺にそう言ってくれた。ありがたい。
「よろしくお願いします!」
俺は頭を下げた。何とか次の生活場所が決まりそうだ。
「早い方がいいじゃろ。すぐに荷物をまとめた方がよい」
「はい。愛里にも伝えて、荷物をまとめます」
愛里に決まったことを話そうとドクトリングの研究所の、一応片付いている応接間から出て行こうとした。
「せっかく淹れたお茶は、飲まんのか?」
ドクトリングは拗ねたように言った。
「あっ……。お腹いっぱいだったので」
俺は適当な嘘をついた。何か変な生き物が入っている、透明なポットを見てしまったからだ。
「そうか。残念じゃ」
ドクトリングはわかりやすく、ガッカリしていた。
「で、では失礼します」
そそくさと部屋から出てきた。
「あれ? 珍しいな、お客さん?」
応接間から出て、お弟子さんに会った。ドクトリングと似た感じの制服を着ていた。
「はい。賢者ドクトリングに用事があって」
お弟子さんは、大きな紙を丸めた物とファイルを何冊か重そうに持っていた。
「手伝いますか?」
そう尋ねると嬉しそうにした。
「ありがとう御座います! これ、重くって!」
半分の荷物を受け取って上の階に運んだ。資料室らしい部屋はきちんと整理されていた。
「助かりました。ありがとうございました」
「いや、大変だな」
俺は身長より高い棚を見て言った。大量の資料。見たい資料を探すにも時間がかかりそうだ。
「いえ。もう慣れました。それより……。賢者ドクトリングの淹れたお茶は飲まない方がいいですよ。変なテンションになるって、飲んだ人が言ってました」
弟子さんが怖い事を教えてくれた。あ――。やっぱり飲まなくて正解だった。
挨拶をして『賢者の塔』と呼ばれる塔を後にした。
俺は愛里に賢者ドクトリングと話したことを伝えた。愛里は教会のお世話になることを考えていたそうだ。
「荷物を片付けるね」
俺達はお城で生活していた部屋を片付けて、掃除を終わらせた。
「俺と離れ離れになるけど、お互いにマメに連絡を取り合おう」
「うん。お兄ちゃんも無理しないでね」
俺と愛里はそれぞれ、違う場所で頑張ることにした。




