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第8話 死のミューズ

 銀河系内の恵まれない子供に教育を、と移動学校活動をしているボランティア組織「移動学校ミューズ」。僻地の星へ行っては身寄りのない子供に衣食住を提供しながら移動学校で教育を施し、子供達は教養を身に付け、素直になり、働くようになり自立して、浮浪児が解消されるという成果を上げてきた。

 パーコ達に銀河連邦からの優先依頼として、その移動校舎の運搬依頼が来た。公共事業であり拒否できない。急ぎではないが、行き先が僻地の星であり、宙港(宇宙船が発着する空港)が整備されていない為、指定の場所へ直接校舎を下ろせる機能があるのがネイルだけだったらしい。他で運搬された場合、不備な宙港にまず着陸し、僻地の星では移動校舎を運ぶ車輌もないのでそれも持っていかねばならず、現地作業人員もいない為出費がかさんでしまう。ボランティア組織としてはなるべく出費を抑えたいのでヤマモト卓急便に白羽の矢が立ったのだ。特急ではないので割り増し料金もない。

 公共事業とはいえ、しつこい暗黒帝国の罠を経験してきたので事前調査をしっかりしたが、長年の実績は本物でおかしな所はなく、財源も主に自分達が育てた子供達の寄付で成り立っており、積荷の移動校舎も調べさせてくれたが武器やおかしなものは積んでないと確認がとれる。

「ふむ。今度は大丈夫そうだな。」

 ヤマモトは受注を了承し、クライアントと顔を合わせた。

にっこり細い目の男性と、その後ろに9人の人影。

「よろしくお願いします。私は主催のボクシー・ミューズ、こちらにいますのは9人のサイボーグ教師です。」

 サイボーグ教師が自己紹介していく。コクゴ、サンスウ、リカ、シャカイ、ホケン、タイイク、コウサク、オンガク、カテイカと、名前がそのまま教科名だ。

「彼らはどんな環境の星でも活動できるよう体をサイボーグ化しています。」

ヤマモトが質問する。

「テラ型以外の星の時ではテラ型の教師では違和感がある生徒が出るんじゃないですか?」

「その点は心配ございません。あなたはケモジャー星人の方ですね? コクゴ、チェンジ・ケモジャー・モード」

サイボーグ教師の胸に光点が灯り、ガシャガシャと変形してヤマモトと同じケモジャー星人の姿になってみせる。

「なるほど。考えてんなあ」

「では、教師達は移動学校の「職員室」というカプセルに入って休息を取る事ができます。その状態で目的地まで運んでいただけますか。」

「安全確保ができるなら問題ないっす。ボクシーさんは第二艦橋に客間を用意したのでそちらにどうぞ」

「ありがとうございます」

 教師が乗り込んだ移動校舎を積み込み、ボクシーを乗せて僻地の星へと飛び立つ。


 指定された星に到着すると、殆どは赤茶けた大地で人の住んでる場所は少ない。住んでいそうな緑のある地域がらしばらく離れた所にある集落の手前で、ネイルは特殊着陸に取り掛かる。戦闘形態のように細い部分を地面に向け、広げて3本脚で立つように着陸する。荷台のシャッターが開くと、四隅にアームを架けた移動校舎が下に向かって下がってゆく。どこかの救助隊のコンテナ船のようだ。

 作業の最中、ネイルの声。

『アポロ様から通信です』

「開いて。どした?」

「今、オレもこの星にいる。詳しい話は後でする。そいつらを下ろしたら、即座に離脱しろ。そいつら暗黒帝国の手のものだ!」

 移動校舎が着地し、アームが収納、第二艦橋から地上に降りた降下エレベーターパイプから出たボクシーは、ニヤリと笑う。

「どうもバレたようですね。死のミューズ発動! チェンジ・ザムザ・モード!」

と叫ぶと移動校舎がレゴブロックのようにザラアアアと分解し、ボクシーを包むように頭部を形成すると、残りは9個のバームクーヘンに手足が生えたような形に変形し、ザムン! ザムン! ザムン!という音と共に合体して、大きな毛虫のような姿になってネイルの三脚になった部分に糸を吐いて固定し、発進できないようにしてしまった。

 岩陰から空に姿を現したノーザンクロスが毛虫に光線を浴びせる。

ガシャン! と光線が当った場所が壊れたかと思ったら、またザラザラと元の形に戻る。その時毛虫から声がする。

「チェンジ・ストロングパワー・モード!」

 表面のブロックがザザザザと移動すると、茶色の光沢のある状態になり、毛虫からサナギのような形に変わる。

 ノーザンクロスがまた光線を浴びせるが、今度はばらけず、当った場所がじわっと輝くとその光は浸みこむように消えてゆく。パーコがネイルに戦闘モードを指示する。

「ドレスアップ・ニュクスクローズ!」

 縦に着地していたネイルの体勢は変わらないが、殻部分の隙間が開いて銃口があらわになると、半月状の光線がサナギに向かって放たれる。が、サナギを切り裂く事はできず、当った光線はまたも吸い込まれるように消えてゆき、サナギが光りはじめる。

「エネルギー補給をありがとう。チェンジ・スーパーパワー・モード!」

 サナギから声がしたと思いきや、バリバリッとイナズマが走り、腹の部分が2つに割れ、サナギの殻だったものは羽根に変化して今度は蝶の形になった。

「今度はこちらの攻撃です」

 蝶から声がして、長い毛の生えた触覚がブウウゥンと帯電すると、幾筋ものカミナリが落ちる。が、そのカミナリはネイル(ニュクス)の黒い羽根に吸い込まれてゆく。

「おや、そちらも似たような機能をお持ちですね」

 またノーザンクロスが光線を放つが、やはり光線は蝶の羽根に吸い込まれてしまう。

「じゃ、こいつはどうだ」

パーコが別のスイッチを押すと、

ガウン!

と実弾が発射され、羽根を貫いた。アポロの通信が入る。

「テッツォのレールガン貸したけど、同じもん作ったのか」

「全部バラして解析して改良してネイルに組み込んだのさ。それだけじゃないよ?」

 また蝶から声がする。

「実弾でも効きませんよ?」

 羽根から散ったものが、逆回しのように穴に戻る。

「これならどうよ?」

 パーコがスイッチを押しっぱなしにすると、殻の隙間がキュウウウンと回転をはじめ、ガガガガガガウン!!と連射をはじめる。

「二十連装した。レールマシンガンてとこだな。」

 蝶はあちこち穴だらけになるが、しかしまた戻ってしまう。

 戻った羽根でバサアッと地面を煽ると、岩が巻きあがり旋風以外の力で加速して弾丸となりネイルに飛んでいくが、バリヤで弾く。

「ちっ! 効かねえか、プッ!!」

 パーコが銜えていた強化剤に強く息を吹き込むと白いカートリッジがはずれ、ガンベルトから赤のカートリッジを押し出してマウスピースに装着、すううううと吸ってゴーグルを装着し、シートにもたれかかる。

 しばらく息を止めていると、強化剤の沈静作用成分が分解され、引き金になる覚醒作用成分が集中を促す。瞼の裏にイメージが幻想される。沈静作用で一つで回っていた歯車が、2つ、3つと組み合わさりギアが入っていく。その情景がズームアウトしていくと、組みあがっていく歯車の一つ一つが画素となった点描画のようにして世界が描きだされ、全ての仕組みが把握できるような万能感が押し寄せる。

「ネイル、コネクト・メティス(智慧の女神)!」

 メティスモードとは、思考加速したパーコの脳とネイルが量子的接続をして手動装置も音声も介さずタイムラグなしで情報や命令をやり取りできる状態である。

 シートの上部両側にある、ネイルの殻に似た部位が頭部を挟むように(せば)まり、戦闘モードネイルの殻のように隙間ができると同じようにパイプが出て羽根を象るが、そのパイプからさらに細いパイプが生えて本物の羽根に近い見た目になっている。それがパーコの頭部を包む。

 パーコがゴーグルの中でカッと目を開くとゴーグルはHMDになっており、実際の映像にARで重ねられた情報が三倍速の動画のように次々表示される。もしそれを読み取っているパーコの目を直で見たら、その速さに気味悪がっただろう。


 思考のみで再度レールガンを連射、弾丸の弾道、蝶の分解したパーツ、この星の大気成分天候風量重力等全ての情報を収集分析していく。バラバラになった蝶の、お腹に並んでいた9つの光点が灯ったユニットに集中。弾丸の弾道はそのユニットだけは微妙にそらされて直撃を免れている。パーコはにやっと笑った。

「だいたいわかった」

レールマシンガンは

バルルルルルゥゥゥ!!

と発射音が変わる倍の弾を吐き出して光点のユニットを集中攻撃、直撃は免れても他の部位より何重も包んでいた部品が剥がされる。

 そしてネイルの上部にせりあがっていた尾翼の中央からパラボラアンテナが展開される。

「こいつはどうだ!」

 素早く9つの光点と頭部ユニットをロックオンして、アンテナからギギギギギン!! と頭に響く音を伴った衝撃波が打ち出された。暗殺者ツクシのソニックパラライザーの強力版という所か。

「ツクシの武器も取り込み済みかよ!」

 アポロの通信を聞きながら、にやっ からにいいいという笑顔に変わったパーコの見ている前で、9つのユニットと頭部がボトボトと落ち、他の部分はザラーーッと崩れて落ちていった。

「サイボーグって言ってたからね、たぶんばらける部品はサイコキネシス持ちの脳を使って脳波コントロール、光る部品がその増幅装置ってとこかな。装甲が薄くなった所で脳みそを麻痺させりゃ止るかな、とね」

 パーコはガラクタの山のようになった蝶の中から光点のあるユニットを掘り出し、加速した思考でまたたく間にそれを分解解析、念動力増幅装置を逆に力を抑えるように効果を反転してしまった。側で見ていたアポロは、(これならレールガンもソニックパラライザーもあっと言う間に解析改良して取り入れられるわ)と納得した。

 一仕事終えたパーコは、強化剤を赤から白のカートリッジに戻して、仕事終わりの一服をしていた。たぶんこのあと1日は頭まわんねえだろうなあ、と思いながら。


 中一日開けてもらって、アポロの報告を聞く。

「移動学校ミューズってのは確かに長年にわたって成果をだして来た。浮浪児は減り社会復帰し、恵まれない子供を減少させる活動は高く評価され、銀河連邦としてもその運動を後押ししていた。」

「暗黒帝国の配下だと判ったのはどうして?」

「例の人口天体から逃げてつかまった兵隊達だよ。身元を辿っていったら、大半がミューズ出身てのが判明したんだ。つまりミューズは暗黒帝国の兵隊獲得装置だったと言う事だ。社会からあぶれた子供が洗脳されて勉強もできるようになり、地域にも溶け込んで評価をあげた後で成人とともに仕事についたからと別れを告げていなくなるから誰も疑う事がなかった。」

「かあああ、そりゃ普通バレないわなあ」

「まあ、尻尾がつかめたのはパーコ達のお陰だな。人口天体を文字通り潰さなかったらわからなかった。」

「フン。あんたがネイルの枷をはずしたからできたんだろうが。」

「オレはオマエと羽目を外したい。」

また始まったよ、とヤマモトが半目になりながら

「あーあ。またタダ働きかあ」

とため息を付くとアポロが振り返り、

「オレから銀河連邦にワケを話して、仕事も振ったんだからと詫び料も出させるから心配すんな」

と声をかけた。ヤマモトはアポロにうるうるとした視線を向けて、

「さすがアポロ様! 好き……」

と言ったが、

「ヤマモトのそれはいらん……」

と、シッシッと手を振った。


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