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第4話 スペース・ファミリー・ヒストリー

 モニターの前のゴーシ大元帥はパネルに両手をついてぶるぶる震えていた。

(また笑いだすのかな?)

とおそるおそる兵隊がパネルから大元帥に視線を移すと、

「ぴーーーッッッ!!」と突然大元帥の兜部分からお湯が沸いた薬缶のような音が響いて飛び上がった。

「くっっっそぼけがああああ!!!」

 目の周りの血管が3本くらい浮き上がり、目玉も顔も真っ赤になった大元帥が叫んだ。

 その時、ブンッと言ってモニターが真っ暗になると、フワッと下からおぼろげに青い光で照らされた頭巾の男が浮かび上がる。それを目にした大元帥が、ぴょーーーんと後ろに飛びながら地面に頭をつける。後方ジャンピング土下座である。

「もももも申し訳有りません閣下!!!」

 顔から脂汗を流し地面についた額を伝って床に水たまりを作る。

「さすがは皇室の遺産兵器。伝説の巨大ロボットとはいえ抜け殻では対抗できん。

 だがあの兵器はもうよい。あれではなく、追ってきたあの船を手にいれよ。あの船を隠しておったとは…フッフッフ……

D.S.Sを使え。」

 言葉が終わるとモニターが元の画面に戻る。

「ははぁっ!」

 土下座姿勢からゴーシが返事をする。

 どうやら画面に映ったのは大元帥の上司である、暗黒大帝ヨナのようだった。

 ゴーシはすっくと立ち上がると、甲冑よりも黒い笑顔を浮かべるのだった。


 ノーザンクロスは次に長い豪天号を撃墜しようと探すと、ネイルに向かって飛ぶ機体を確認。だがネイルに追いついたと思った途端、長い豪天号の船体が蛇腹状になり、船体の輪一つ一つから脚が生え、ネイルの長い部分に撒きついてしがみついた。

「これでは迂闊に攻撃できないっ」

アポロが攻撃部分を探して周りこみながら飛ぶ。

「ひへへへへ! これぞ豪天号蔓蛇(マンダ)形態! 撃てるものなら撃ってごらんなさい。でももう終わりです。なぜなら…」

と、ゴーシが画面越しに見上げるのにつられて上を見ると、惑星の空を埋める大きさの人口天体が転移してきた。目で見るだけでもこの惑星の3倍はありそうだ。

「この、暗黒帝国最大の戦艦、D(ディープ).S(スペース).S(スター)の前では、あなた方など神の目の前を飛ぶハエのようなものです!」

「ハーエハエハエお待たせしっましーた。わったーしは埼玉生まれの外国人、ダイブ・スベッターじゃなくてディープ・スペース・スター艦長のガイ・ジーンでーっす♪」

 急にモニターが切り替わり、ウェーブのかかった黒髪混じりの銀髪で濃い顔の男が映ってまくし立てた。いでたちはゴーシ大元帥に似ているが額に薬缶の注ぎ口のような角をつけた、金色の兜を被っている。よほどこちらの方がピーーッといいそうである。

「一艦長の分際で私が話してるのに割り込むんじゃありません!」

「失敗続きの大元帥に言われたくありまセーン。有馬温セーン。そんなにカッカしてると閣下に言いつけマース。遊んでる場合ではありまセーン。有馬温セーン。

トラクタービーム、発射! ヨッシャー!」

 

「尾翼中央の第二艦橋に飛んで!」

 パーコの指示に、巨大な人口天体に引き寄せられてゆくネイルの船体スレスレを、撒きついた蔓蛇豪天号の砲撃の隙間を縫ってノーザンクロスが飛ぶ。

目の前に第二艦橋が近づく。パーコが左腕の端末にある、ノーザンクロスのタッチセンサーに似た部品に手を触れながら唱える。

「ドレスアップ・ニュクスクローズ(盛装せよ、夜の女神の爪)」

 ガゴン! と音がして、ネイルが変形してゆく。蝸牛の殻状の船体部分から生えている推進ポールが180度回転して下向きになり、上部尾翼が後退、あらわになった第二艦橋が90度回転、いや、艦橋はそのままで船体が惑星に向かって垂直になり、船首は下向きになる。

 蝸牛の殻部分はノーザンクロスの起動時のように隙間ができ、同じようにチューブの羽根を展開するが、こちらは光を吸って黒い羽根となる。隙間の前方には複数の目のようにずらっと砲門が覗く。

 殻部分の回転と羽根の展開とともに蔓蛇豪天号が引きちぎられ、若干ネイルから船体が離れると、砲門から三日月状の光線が大量に、某ヒーローの頭部から飛ばした必殺技のようにヒラヒラと飛んでドギドギドギーンという音とともにバラバラにしてしまった。

 しかし、人口天体からのトラクタービームに影響はなく、宇宙空間へ向かって引張られてゆく。

 第2艦橋後ろに開いた、ノーザンクロスがちょうど入るような所にはまると、二人は第二艦橋に入ることができた。中ではヤマモトと護衛3人が目を廻していた。

「戦闘モードになるなら一言言ってよ!第一艦橋部分が自動でここに移動するんだから」

「すまん、ネイルが捕まったので猶予がなかったんだ」

 パーコがアポロを振り返って言葉を続ける。

「さて、皇子様。あんたをこの船に乗せるといい事があるんだったよな」

 すると操縦席からネイルがしゃべりだす。

『乗船者に特別承認許諾者の存在を確認。危機的状況を鑑みてオーバードライブの許可を要請します。承認装置に手を触れながらパスコードと当機皇室名の音声入力をお願いします。』

 操縦席後方、アポロが持ち込んだ高性能シートの台座部分から、例によって皇族マークが腕のようにアポロの前にせり出す。そこに手をのせ命令した。

「ウェイクアップ、ヴィクトリア(覚醒せよ、勝利の女神)」

 するとネイルの声で、

『特別承認受諾、オーバードライブモードを発現』

と答える。

 艦内に亜空ドライブ転移時と同じ女性のスキャットのような音が流れだすが、その声は二重奏に、そして三重奏になりハーモニーを奏でだす。

 その音とともに、蝸牛の殻部分がもう1段突出し、その隙間から羽根がもう1枚展開、チューブの隙間に七色に輝く粒子が生まれ埋まってゆき、植物の葉脈を流れる水分のようにチューブから本体へ光が流れてゆく。

 その全景は、闇に立った夜の女神の化身から、輝く翼を持つ勝利をもたらす存在に変わる。

ネイル「多元宇宙エネルギー接続翼展開。全火器使用可能です」

 操縦席のコンソールに武器の一覧が表示され、右端に全部使用可能のグリーンのマークがついている。

 アポロが静かに告げる。

「トリニティブラックホールガンを使おう。」

 パーコはしばらくアポロの顔を見ていたが、ゆるがないのを見るとコンソールのトリニティブラックホールガンの項目をタップすると、操縦桿が中央から分かれ奥からレチクルの表示された透明ディスプレイの付いたトリガーが生えた。

 惑星に垂直だった船体は、細い首を人口天体に向けていく。船体下部の突出部分前方から槍のようなものが突き出し、細い首を構成する柱3本が開いて槍を囲んで平行に並び、人口天体の中心に照準を合わせた。

「顔デカとダジャレ野郎につなげ」といってパーコがマイクを持つ。

「今から超強力なタマ撃つけど。30分位でそちらの要塞は完全消滅するから。信じてもらえないと思うから撃つけど。最初の3分で分かると思うから威力が分かり次第即刻退避する事を勧める。じゃ、撃ちまーす。ほいっ」

と言ってトリガーを引く。モニターに表示された「スタンバイ」の文字が「発射」に変わるが発射しない。再度トリガーを引くと文字が「本当に発射」に変わる。もう1回引くと「本当の本当に発射」となり、イラッとしたパーコはカチカチカチカチと5回位連続でトリガーを引いた。

 3本の柱からおびただしいエネルギーがあふれ出すと、槍状部分の先に黒い粒のようなものが形成される。トラクタービームも湾曲してそこに吸い込まれ始める。

 黒い稲妻のようなものが走り出した所で、パーコがトリガーを連続で引いたタイミングで、ネイルの翼も推進ポールも船体維持の為最大出力を出し、本体障壁も同時展開した為、さながら光り輝く天使のようなシルエットになって、トラクタービームから外れて全速力で逃げ出すイカのように後ろに飛ばされると、射出体の先からは黒い粒が逆にゆっくりと要塞に飛んでゆく。

 空間が揺れて、真空中なのにゴゴゴゴと聞こえ、ディープ・スペース・スターの表面に接触すると、ずぽっ、と穴を形成しながらパックマンのように中心部に向かい、コアの動力炉に到達、動力源が消失した要塞の照明がふっと消えて沈黙する。

5分ほどすると無数の脱出艇が、蜂の巣から出てくる蜂の大群のように湧きだした。

「あれ逃げちゃうんじゃ」とヤマモトがつぶやくと、

「大丈夫。ほら」とアポロが指さす。

ヤマモトキヨシ商船搬送の連絡とともに銀河連邦宇宙軍本部に軍を差し向けてくれるよう、アポロが皇室専用回線で依頼済で、次々軍艦が要塞を取り巻くようにドライブアウトして現われ、中からパトシップがワラワラと出てきて脱出艇を拿捕していった。

 30分位時間をかけて、あちこち爆発も起こすが飛び散る残骸はまた中心に向かい、警告通りまるで風船がしぼんでいくように要塞は小さくなってゆき、最後は「きゅっ」といって1メートルくらいの玉になってしまった。高質量となった小さな塊は近辺のデブリや隕石や小惑星をひきつけ始めた。

「これ大丈夫なの?」

「形成されたマイクロブラックホールは巨大化せずに蒸発して、芯が残るだけだから。まあ近くに大きな天体系はないから、安定すれば新たな天体系ができるんじゃね? ニュー地球とか、サブ太陽系、みたいな」

○妻ひでおじゃねんだから…


 すべてがひと段落したが、銀河連邦宇宙軍が拿捕した敵の中にゴーシ大元帥の姿はなく、ドサクサにまぎれて逃走したらしい。ノーザンクロスをコンテナに格納していると、

「まてえええい!!」

といって宇宙刑事シャイバンが、シャイバン専用機から分離した宇宙機竜キランの頭に乗ってネイルに近づいてきた。

パトシップに曳航される脱出艇からそれを見たガイ・ジーンは、

「おのれ〇キソバン!」

と叫び、宇宙刑事は

「私の名前はシャイバン!」

と答えるが、後ろから来た宇宙婦警アミーが専用艇セントから飛び降りざまシャイバンに飛び蹴りを入れ、ついでに〇トラーじゃなかったガイ・ジーンの脱出艇も蹴飛ばしたアミーがぺこぺこ頭を下げながらシャイバンを引きずって連れ帰り、キランもヒョロヒョロと戻って合体しセントキランに戻って帰っていった。

「蔓蛇豪天号とキランの戦闘も見てみたかったかも」と笑うヤマモトの隣で、

「ないない」と手を振るパーコ。


「パーコ、ありがとう。」

と言うアポロに、

「いやいや結局ヤマモトもあたしも、ご先祖さんやじいちゃん達に助けられたってことだよなあ」

「それでも君達がいなければ、今回の事は解決しなかった。依頼料の他に褒賞もあるし、父に報告もお願いしたいから、一緒に皇宮へ来てくれ。父もパーコやヤマモトの事もきっと覚えているよ」

「エライさんに会うのは面倒なんだが、ま、トラネコヤマモト卓急便が流通王になる足がかりになるんじゃね?」

とパーコが言うと、ヤマモトが

「うはー♪」

と夢見るような目つきで中空を見つめるが、アポロから水を差す言葉が続く。

「だがパーコ、今後はもうこのままではいられないぞ? ヴィク…いや、ネイルの事が暗黒帝国に知られてしまった。これからは君が狙われる。そこでだ。」

「?」

「オレと結婚しないか?」

「はあ!?」

「皇族になり、子供が出来た段階で、君もネイルに皇族特別承認権限が使えるようになる。」

「……あのさあ」

「ん?」

「それ、皇室がネイルを欲しいからだろ?」

「いや? 君を守りたいからだよ?」

「よくまあヌケヌケと……信用できるか!」

「なんで?」

「って、今回のドタバタを乗越えたつり橋効果ってやつ? で恋愛感情じゃねーだろうし第一そういう感情ぜんぜん無いし」

「ノーザンにタンデムしてくれたじゃん?」

「ばっ! あれは緊急事態だったからだろ!」

「でも嫌だったら断わったろ?」

「いや断われる状況じゃなかったろ!」

……

 ヤマモトは夢から醒めた顔になり、ため息をついてその場から離れネイルと帰り道のルート設定を打ち合わせ始めた。


 この後、依頼料や褒賞はしっかり頂いたパーコだったが、アポロの前からは逃げ出して、卓急便屋として飛び回るが、アポロの言ったとおり暗殺者に狙われたり、それを助けにまたアポロが現われたり…


 だって、ノーザンクロスの場所がネイルに判るように、逆も判るんですから。

 そうしてその後の話も続き、新たなスペース・ファミリー・ヒストリーが綴られていくのです。


ま、その話はまた今度。

次回予告「暗殺者は薄荷の香り」

乞うご期待!


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