第3話 伝説の巨大ロボット
次に通常空間に出ると、今度は近くに惑星が見える。
「いかんっ! あれはっ!」
今度はアポロがあわてている。
「あの星に着陸させてはいけないっ! その前にコンテナを奪還できないか!?」
見ると前方地表との半分位の位置に、先端にドリルのついた地球の軍艦のような船が飛んでいる。が、やけに船体が長い。
「しゃあねえな。ネイル、こうなりゃ衝角攻撃だ。
十字信号の発信元めがけて突っ込め!」
『承知しました。ラムアタック体制移行。全速前進。シートの衝撃回避装置を展開して下さい。』
シートに深く腰掛けなおし、衝撃回避装置を稼動させると同時に自動で船外活動スーツも装着される。
(こういう機能って普通にあるのに、宇宙刑事は何故自分で脱ぎ履きしてるのだろう?)
などと思いながら、パーコはアポロの護衛のほうを向いて呼びかける。
「あー。護衛さんたちすまないが、そこらの窪みに入ってどっかしがみついていてくれ。ケガしたらごめんよっ!」護衛さんたちもわたわたと移動するが、宇宙服鎧のどこかのボタンを押すと、ヘルメット状のものが頭部に展開装着された。
ネイルの長く伸びた首の方向が微調整される。
ネイルの先端が、長いドリル戦艦にピタリと照準をあわせると、推進機ポールが輝き、一気に加速する。「いっけええぇぇ!!」
ズズンッ!!
ドリル戦艦の斜め下から、鋭い爪のようにネイルの艦首がズボッと刺さると、その体制のまま惑星地表に向かってゆく。
「ああああ! 私の豪天号になんてことを! 突き刺さるのは豪天号の専売特許なのに!!」
「特許取ってんなら許可証見せて見ろ! 有っても賠償金払わねえけどな!」
通信機の怒号に答えながら、今度はこっちが突っ込んだ長い豪天号の艦内に刺さったネイルの第一艦橋の下、アゴを開くように衝角が広がり艦橋下のハッチが開いてパーコが飛び出し、
「ヤマモト、コンテナ奪い返したらすぐとっかえすから発進準備よろ!」
と指示をしながら端末ブレスレットの十字が示す方へ走る。その後ろを、アポロが、続いて護衛さん達が走る。
「おのれおのれおのれひへへへへ! こうなったら『ゼタオン』で引っこ抜いて叩き潰してくれる!! ショウ! 聞こえるか! 直ちに 『ゼタオン』を起動せよ!」
ゴーシ大元帥の通信先は、目の前に近づく惑星地表の発掘現場にある、掘り出されて間もないと思われる泥だらけの何処の文明とも異なったデザインの宇宙船。その泥船の甲板にあった3体の機体に乗り込んでいた部下の、アッカ・ショウ・ビンである。
「へへっ、やっとオレ様達の出番かよ。ビン、アッカ、準備いいか?」
ビン「あたぼうよ!」
アッカ「まちくたびれたぜ!」
三人のやり取りのあと、3体の機体がブンッと言う動力の起動音とともに浮き上がり、ショウが掛け声をかける。
「ゼタオン、合体!」
上空の船に向かって発進、縦に並んで飛び出す機体。
三人が声を揃えて唱える。
「レッツ・ゼータ・オン!!」
すると3体の機体が変形してゆき、ショウの機体は頭部に、ビンの機体は胴体に、アッカの機体は腰から下の形になり、合体して一体の巨大なロボットとなった。
『ウオオーーンン…』
ロボットからうめき声のような音が響き、目の部分のパネルに光が走り出す。
その頃、長い豪天号の船内。警報のなり響く中閉鎖された隔壁を、カードサイズの機械でやすやすと開けて突破していくパーコとアポロ達。
「便利な機械だねそれ」
アポロが感心する。
「へへん。じいちゃんにもらったんだ。悪用するなよって」
悪い顔で笑うパーコの横顔を見ながらアポロは、(やっぱりこの娘は…)と考えていた。
「ここだ」
通路隔壁とは違う壁にある頑丈なドアでも、コンソールの前でパーコがピッピッとカードを操作すると、ゴゴゴゴッと重厚な音とともにドアがスライド。
その瞬間、中からビシュンビシュンッ、と光線が幾筋もほとばしる。
「これじゃ中に入るのは無理だな。どうする?」
パーコが扉の影から、反対側の影にいるアポロに問いかける。
「この中にコンテナがあるんだな?」
「ああ。たぶん5メートル位先だ。」
「じゃあオレが囮になるから…」
とアポロが言いかけると、扉の中から最初に顔を合わせた時のように、コンテナがひょっこりと勝手に出てきてパーコの前で止った。
そのタイミングに合わせてパーコがまたカードを操作し、頑丈な扉を閉める。
扉の中から足音や光線が当る音や、扉を叩く音が響くが、パーコ達はもと来た道を走り出した。コンテナは勝手について来る。
突っ込んだネイルの頭が見えた所で、グワン!と大きな衝撃が走る。
目の前でズボッとネイルの頭が抜け、また空気も抜けると思いきや穴の外には宇宙空間ではなく空が見える。
ゼタオンと呼ばれた巨大ロボットが、ネイルの首部分をつかんで引っこ抜いたのだ。すでに惑星の大気圏内に入っていた。
「仕方ない。コイツを使うか。」
アポロが付いてきたコンテナの皇室マークに触れ、
「オープン」
というと、そのマークから表面に光が走り、バクンと開く。
中には卵型の何かの機械。アポロはその機械の表面にもある、コンテナと同じ皇室マークに触れながら
「スタンディングバイ、ノーザンクロス(立ち上がれ、白鳥座)」
と命令。
すると、ピヨピヨピヨピヨと音を出しながら、卵型だった機械の後方やや斜め下の左右にキノコの頭のように突起がパクンと隙間ができる位突き出すと、その隙間からフラミンゴの脚のようにマニュピレーターが床に伸び、後部からも突き出て3本で起き上がる。
護衛の誰かが呟いた。
「こいつ動くぞ」
下部後方にたたんでいた首を前に伸ばしながら鳥のように立ち上がり、「キョエーーッ」と一声啼いて起動状態になる。
またばくん、と上部がF16戦闘機のコックピットのように開いて、アポロが乗り込む。
「パーコ! ちょっと狭いが一緒に乗ってくれ!」
「はあ!? その隙間じゃ、あんたに抱っこされる形じゃないか!」
「仕方ないんだ、脱出するにはノーザンクロスの首にぶら下がるかここしかない。鎧を着たこいつらじゃここには乗せられん。それに…」
「?」
「きっとここに坐ったら懐かしいぞ?」
と言ってアポロはニヤッと笑う。
「ちっ」と言ってパーコはしぶしぶ乗り込んだが、
「えっ? これって?」と言って操縦席周りの機械を見回す。
「すまんが3人はコイツの首に捕まってくれ!」
とコックピットをしめながら護衛に声を掛けるが3人がおたおたしていると、通路の奥から光線銃を撃ちながら敵兵が走ってくる。あわててノーザンクロスと呼ばれた機械の首に3人がつかまると、半円突起の隙間から何本もチューブが伸び、それが羽根のような形をかたどってゆき、光りだす。
ふわっと浮いた途端、ノーザンクロスは護衛の悲鳴を置き去りにネイルの開けた穴から外に飛び出した。
ネイルの前に伸びた細い部分を握ったロボットは、ネイルと対比してもとてつもなく大きい。ネイルも逃げ出そうとしているが、びくともせずに地表へ降りていこうとしている。このままだと地表にネイルは叩きつけられてしまう。
ネイルをつかんでいるロボットの手首に近づいたノーザンクロスは、護衛3人をぶら下げた首を前に伸ばすと、羽根型チューブが更に輝き、首の先端が開き、光線を吐き出した。
ロボットの手首を光線が縦に薙ぐと、切断には至らなかったが握る機構は壊れたらしく手は開いた。ネイルはすぐ離脱、ノーザンクロスも追随する。
アポロがパーコに、
「ヤマモトに回線開いてくれ」
と頼むと、今の展開にあっけに取られていたパーコが思わず素直に従う。
「ヤマモト、すまんが3人船におろすので回収を頼みたい。」
そして護衛にむかって、
「船の甲板におりてくれ」
と声をかけ、マニュピレーターで着地、降りたのを確認すると再びロボットに向かって飛んでゆく。
「なあ、これってシルバークロスだろ? ノーザンクロスってなんだ? なんであんたが操縦権限持ってんだ?」
パーコが矢継ぎ早にアポロに聞く。
「オマエのじいちゃんは皇室御用達マイスターであり、お抱え整備士でもあったからな。この操縦席にオマエを乗せて、オマエがはしゃいでるのも見たことがあるぞ。
第一、お前達のご先祖さんはあの伝説の銀河連邦一の宇宙機器メーカーZoony創業者、伝説のメカニック、フォン・ダウソ・イチロウと、科学技術担当のイブ・カーサ・マルだ。そして皇室遺産のメカは全てイチロウとマルが手がけたものだ。」
パーコはあんぐりと口をあけた。
「はあ!? そんな話じいちゃんから聞いたことないぞ!? じいちゃんが話してくれたのはメカの話ばかり!」
アポロが苦笑いしながら答える。
「オマエのじいちゃん、ミュラーさんは、パーコはメカの事しか話を聞かん、て言ってたけどな」
パーコは頭を抱えた。
「皇室ではノーザンクロスと呼ばれるこの機体は、移動用形態、装甲形態、武器形態にチェンジする戦闘防御支援機構(Battle Defending Support Mechanic)、通称『B.D.S.Mシルバークロス』。皇族の攻性防御の為にオマエのご先祖さんが作りあげたものだ。皇族にしか使用できない。だが」
アポロがニヤッと笑って続ける。
「コイツはオマエの船のプロトタイプらしいぞ?」
「はあ!?」
またパーコは目をむく。
「イチロウとマルはいくつもの試作品を作って、最後に完成させたのがあの船だった。しかし帝国から連邦になった時に、戦力放棄して平和に尽くす事を約束した皇室は、最後の最大戦力であるあの船は解体廃棄した、と発表したんだが、子孫であるミュラーさんはご先祖さんの遺産を潰してしまうのが忍びなくて、秘密裏にオマエに託していたんだな。」
パーコは額に両手を当ててげんなりした声でつぶやく。
「そおいう大事な事は言っといてくれようじいちゃん…」
ふっほっほっほっほとのんびり笑っているじいちゃんの顔が浮かぶ。
(あー、だからネイルが嬉しそうだったんだ。姉ちゃんに逢えたんだもんなあ)
なんて話したり思ったりしながらロボットに向かっていたのだが、気付けば今のようなスキだらけの状態なのにロボットは一向に攻撃してきておらず、地表にゆっくり降りてゆく。近づいていった時ようやく目の部分のパネルに光が走り出す。
アポロが解説してくれる。
「あのロボットはオマエのご先祖さんよりはるか昔、銀河帝国以前に存在したという超科学文明が作り上げたものらしいんだが、銀河帝国の伝説によるとコイツを作り上げた時に、その文明の人間は全てこのロボットに取り込まれたんだそうだ。」
「どうゆうこと?」
「コイツは生命エネルギーを元に、無限のエネルギーを生み出すことができたんだが、元になる生命エネルギーを見境なく吸収してしまったという事だ。
しかし全てが取り込まれると、このロボットから一つとなったエネルギー体が、他の次元の宇宙へ飛んでいった…らしい…だから多分、コイツは羽化した昆虫の蛹の抜け殻みたいなモンらしい」
ズズン…と着地したロボットは、ゆっくりと胸の前で腕をクロスしてゆく。目の部分のパネルに走る光は数を増やしてゆく。
「だが超科学文明の遺産、活用できないかと帝国が発掘し、連邦の時代になっても研究を続けて、簡単な操縦装置は接続できたんだが…」
頭、胸、腹にある丸い部分に光る線が走り、モーターのような音がロボットから聞こえてくると、着地した地表にあった植物がロボットを中心に円周状に枯れてゆく。
「元は人の意思で操縦するものを、後付けの操縦装置ではぼんやりとしか命令を受付けなくなってしまった。加えて超巨大な為、動きは超スローなんだが」
と、突然ロボットが腕を広げ、腕や肩やわき腹背中、脚のあらゆる所がバクンッと開き、ミサイルが一斉に飛び出した!
「さすがに伝説にあった星を割る光や次元を超える破壊は無理だが、今でも周りの0生体エネルギーを吸収して、無限にミサイルを生み出す事はできるらしい!」
言いながらアポロは操縦桿を操作してミサイルから身をかわす。
「ってこれじゃ、この惑星の生き物が尽きるまでミサイルを撃ちつづけんのかコイツ!」
パーコが叫ぶ。
「そんな事はさせないよ。こいつを止めるには…」
ノーザンクロスの機体が中空に静止し、羽根がまた輝く。
荘厳な鐘のような音が響くと、ノーザンクロスの周辺に光の輪が浮かび上がる。
飛んでくるミサイルはその輪の手前で全て爆発して機体まで届かない。
そして首の先端部分がまた開いて、先ほどのように照準を合わせる。
狙うのはさっき光った3ヵ所の丸い部分。そこに光線が当たり、爆発すると、ロボットは目の部分のパネルから光が消え、暗転する。ミサイルも止り、その姿勢のまま、ダ・ッダアアアァァン!! と仰向けに倒れた。
胸の丸い部分だけが最後まで赤く点滅していたが、点滅がゆっくりになって消えた。
「あれ、操縦してたヤツ大丈夫かな?」パーコがつぶやくと、
「ってかミサイルをつくり出してる時点で、生体エネルギーを吸収してるからねえ…」
アポロの言葉に、パーコは苦いものでも噛んだような顔をした。