第3話 悪ガキ
遅くなりました。すみません。
「オレと同じようなヤツが来た!」
アポロが迎えに来るなり、絆創膏だらけの顔に喜色満面で報告するフェイト。
託児所は託児所の機能だけでは間に合わなくなり、小中をあわせた学校の役割ももたせるようになった。いずれは正式な学校施設として申請し、高校や大学受験資格も取れるようにしていくらしい。そんな最中、会社に新しく入社した人の中にフェイトと同い年の男の子がいる家族がいて、フェイトのように頑丈な子が来たらしい。
ギーハラスはあの事があってからは、フェイトの事は避けるようになり、子分をひきつれるような事はしなくなった。託児所のみんなもあの時はフェイトの事を恐がってしまったが、アポロと話してからみんなとの接し方が変わったのか、普通に話すようになり、フェイトが相手を理解しようとする所から友達も増えていた。しかし対等に付き合うというより、みんなヤマモト3兄妹のように弟や妹のような感じで接するようになっていた。
そこに新しく、ちょっとギーハラスのようなヤンチャな感じの新入生が来た。
珪素系宇宙人のシードは体の組成成分に珪素を多く含み頑丈な為、痛みを感じにくくちょうどフェイトのように育っていた。ギーハラスのように威張る事はなかったが、フェイトに会って似たような匂いを感じたのかつっかかってきた。
「よう。オマエがフェイトか。おかあちゃんが会社いにいろいろ貢献してるから、偉そうにしてるんだってな。」
「別に偉そうになんかしてないよ。」
「みんなオマエの子分になってんだろ。いい気なもんだな。」
「子分になんかなってない! みんなに聞いてみろよ」
「そんなのオマエが恐くて言うわけないだろ。ったくおかあちゃんがいなくて寂しいからって人に迷惑かけんじゃねーよ」
「いいかげんにしろ! 勝手に決め付けるな!」
そこからは取っ組み合いのようになったが、フェイトは最初は前の事もあり手加減していたが、応酬しているうちにその必要のない事に気がついた。
エスカレートするうち、フェイトの頭についていたアンチ身体強化フィールドのヘッドリングも壊れてはずれてしまい、痛みを感じなくなったフェイトはさらにエキサイト、シードと笑いながらの殴り合いになった。
周りに被害がでそうになったのでイルとネルが介入、二人の首から下をステーション外壁破損時用緊急硬化樹脂で固めてしまった。
両方の親が迎えに来て、冒頭の発言に戻る。そこからフェイトはアポロにむかって、シードの身体能力がどれだけすごいか興奮しながら話しまくった。アポロも苦笑いでとりあえずフェイトが落ち着くまでずっと話を聞いてやったが、心の中でいいライバルができたな、と逆に喜んでいた。人に迷惑を掛けたから、あとで叱る所は叱らなきゃなと思いながら。
翌日改めてイルとネルに絞られ、今後みんなの迷惑にならないように釘を刺された二人だったが、お説教が終わって
「ごめんなさーい」
と頭を下げると、その姿勢のまま二人で顔を見合わせてにやりと笑うと、遊技場へと走っていってしまった。
初めて対等に付き合える相手を見つけた二人はうれしくてしょうがなかった。フェイトはマンガの古典にあった「殴り合って親友になる」が実現できた事に感動し、シードにマンガの事を熱弁。シードはずっと一人で外遊びをしてきたので、それをフェイトに教えて、同じ位高い身体能力で遊べる友達が出来たことが楽しかった。
彼らの遊びは遊技場に留まらず、トラネコヤマモト卓急便本社ステーションのあらゆる所が二人の遊び場になってしまった。壊れてしまったアンチ身体強化フィールドはパーコにしか修理できず、未装着になったフェイトがその能力を使ってドアロックを解除してはいろいろな所に忍び込んだ。
資材倉庫に入って二人の秘密基地を勝手に作り、崩れて埋まってしまっても二人には障害にならずもぐらのように脱出して笑っていた。
植物プラント場に忍び込んで果物をつまみ食いし、大きな樹木に長い長いブランコを作り、謎の裏声の歌を歌いながらそれに乗ってる内にエキサイトして回転、プラント施設上部のシールドを蹴破ってしまった。
農業プラントに忍び込んで牛にまたがり、ロデオをして蹴り飛ばされて牛舎の壁に穴を開けたり…
一躍ステーションの(悪い意味での)有名人になってしまった。
それからは二人が変な場所にいると通報され、イルとネルが引取りにくるようになった。
シードの両親は大変真面目で、迷惑を掛けた所へ行っては頭を下げ、ジード本人には鋼鉄製ハリセンで折檻を加えていた。
アポロもちゃんと頭を下げて回っていたが、ギーハラスの時に伝えた事を基準に、それを破っていなければうるさく言わなかった。まだよく理解していない事はよく話し、フェイトが自分でわかるようにしていった。
二人が14歳になる頃には、やりたい事をやりつくしたからか施設の年長になって皆から頼られるようになり自覚が出てきたからか、イタズラは治まっていった。
そんなある日。
「な、なあフェイト。オレ、なんか最近ちょっとおかしいんだ。」
「どした? 風邪か?」
「いやオレの種族は風邪は引かない。けどなんか熱があがるんだ。」
「とうさんみたいだな。オマエの種族も体から火が出るのか?」
「でねえよ! …でも顔から火が出たみたいに熱くなったりする」
「大丈夫か? 医療センターにはかかったのか?」
「うん。どこも悪くないって… でもこの症状を治す薬はないか聞いたら、オレに効く薬はヤマキヨ(ヤマモトの祖父の会社。宇宙ドラッグステーション『ヤマモトキヨシ』の略号)でも扱ってないって。」
「そんな大変な病気なのか! 大丈夫か?」
「治すには…ある事をすればいいってお医者が笑いながら言うんだ…」
「なんだ? オレにできる事があればなんでもやるぞ?」
「ロコちゃんに…話しかけてみろ…って…」
「?」
「ロコちゃんと、まず友達になれって…」
「ロコちゃんて、2つ下の目の大きい女の子?」
「ああ。彼女を見ると体が熱くなって、目が合うと顔が熱くなって…」
フェイトは、これって古典マンガで見た事があるぞ? と気がついた。
「シードもしかして、その子と曲がり角でぶつかった事がないか?」
「な、なんで知ってるんだ!? オマエ見てたのか?」
「なるほどわかった。シード。それはな。病気は病気でも『恋わずらい』という病気だ。」
「治るのか?」
「うむ。お医者の言うとおり、ロコちゃんと話せるようになれば治る!」
「そ、そうなのか? しかしオレはロコちゃんの姿を見るだけでおかしくなっちまうんだ…自分から話すなんて無理だ。」
「よし。オレにまかせろ。まずオレがシードの事をロコちゃんに伝えてみる。」
「ありがとうフェイト! やっぱ持つべきものは友達だな!」
フェイトは意気揚々とロコの所へ行った。
…しばらくして、フェイトはシードの所へ戻ってきた。しょもんとしながら。
「す…すまんシード。ロコちゃんはおまえの事がちょっと恐いそうだ。いや、そう見えるだけでとてもいいヤツだってアピールしたんだが……
ロコちゃん、なんか好きな男の子がいて、その子に勘違いされたくないから、男の子の友達って言うのでも…ちょっと…できないって…すまん」
「そ、そうか…好きな人がいるのか…あれ? オレってロコちゃんの事が好きだったのか…病気じゃなかったんだ…はは…」
フェイトは初めて見るシードのうつろな表情にあたふたしてしまった。
「フェイト。ありがとな。」
シードはそう言うと、ふらふらと家のほうに帰っていった。
「あいつ、大丈夫かな?」
それから二日シードは施設にも顔を出さず、そろそろ家を訪ねてみようかと思っていたが、三日後いつもと変わらない調子で顔をだした。
「ま、しゃあないわな。」
若干まだ瞼がむくんでいたが、それ以外は変わりないシードの様子にフェイトもほっとしたため息を一つついて、
「なあに、可愛い女の子は他にもたくさんいるんだ。次行こう次!」
「おー!」
…と、社交辞令で声をかけたが、シードは本当に次に行き、端から振られてはアタックを繰り返し、結婚するまで100人を超す女性にチャレンジしていくとは、この時のフェイトには想像つかない事だったし、101人目の彼女にプロポーズして、
「僕はしにましぇん!」
といって卓急便の船の前に飛び出して跳ね飛ばされてもケガ一つしないで
「そりゃオマエは頑丈だから死なないっての」
とフェイトに突っ込まれた後にへこんだ船の修理代を払うハメになるとも思わなかった。
ところがその時の相手が、跳ね飛ばされたシードを見て爆笑、受けた事でうまく行き、付き合える事になったのは修理代を払ってもおつりが来る話となった。
さてフェイトの恋愛はどうだったか。
彼の顔は父親譲りのイケメンだったが、母親譲りの目つきの悪さが災いしてか、あまり女性は寄って来ない。加えてシードとつるんでいるので見た目ビーバップな雰囲気になっているので女性からますます遠のく感じだった。
逆にそういう男子に憧れるちょっとつっぱった女の子がちらほらといてアプローチがあったが、親譲りの束縛嫌いがべったりしてくる女性に対しての拒否反応になってしまった。
だが後日、シードがもたらした情報でフェイトの妻になる人との出会いがあるなんてことはこの時点では思いもよらぬ事だった。
文中「ビーバップハイスクール」絡みの話題がでますが、まさか映画版で出て、主題歌を歌っていたあの人が…作者の世代にはショックです。